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大気の大循環(気象予報士試験・一般)

はじめに

 気象予報士試験の一般分野に頻出する

  • 大気による潜熱・顕熱の南北輸送の緯度分布

  • 鉛直循環と波動による熱の南北輸送の緯度分布

  • 降水量と蒸発量の緯度分布

を大気の鉛直循環(図1)を中心に説明してみようと思います.モチベーションは暗記事項の削減です
 考え方は参考文献とほぼ同じで,気象予報士試験に出てくるグラフの解釈を備忘録として残しておきます.

大気の鉛直循環

 図1には3細胞循環と呼ばれる3つの鉛直循環が示されています.赤道から極側に向かって,ハドレー循環・フェレル循環・極循環です.ハドレー循環と極循環では,低緯度が上昇した空気が極側に運ばれ,極側で下降し,低緯度に向かって運ばれます.一方,フェレル循環は他の循環とは逆向きの循環です.

図1 鉛直循環

鉛直循環による顕熱の南北輸送

 顕熱の南北輸送は,気温と南北風の積で示される物理量です.異なる高度の気温の比較を温位で考えます.
 鉛直循環では,上層と下層で流れの向きが反対となっています.したがって,上層と下層の流れのどちらの寄与が大きいのかを考えなければなりません.大気上層ほど温位が高いため,鉛直循環による顕熱の南北輸送は上層の流れの寄与が大きいです.したがって,ハドレー循環は顕熱を北向きに,フェレル循環は顕熱を南向きに輸送します.
 図2に鉛直循環と波動による熱の南北輸送の緯度分布を示します.値が正であれば熱の北向き輸送,負であれば熱の南向き輸送を示しています.図1とは横軸の取り方が逆になっていることに注意してください.まずは,点線で示された鉛直循環による寄与に注目します.上記の段落で予想したように,北半球では低緯度ではハドレー循環が熱を北向きに輸送,中緯度ではフェレル循環が熱を南向きに輸送していることが分かります.
 なお中緯度では,波動(偏西風の蛇行)の北向き輸送の効果が大きく,波動とフェレル循環のトータルの輸送は北向きとなります.


図2 鉛直循環と波動による熱の南北輸送の緯度分布

潜熱の南北輸送

 まずは潜熱フラックスとは何かを説明します.潜熱フラックスは水蒸気フラックスに凝結熱をかけた物理量です.水蒸気を含んだ空気は,潜在的に凝結熱によって大気を加熱する効果を持っており,その潜在的な熱のフラックスという意味で潜熱フラックスと呼ばれます.

 次にハドレー循環による水蒸気の南北輸送について考えます.水蒸気は上層よりも下層の方が多いため,水蒸気は亜熱帯から赤道に向けて輸送されると予想されます.水蒸気フラックスと潜熱フラックスの向きは一致しますから,ハドレー循環による潜熱フラックスも亜熱帯から赤道に向かうと推測できます.中緯度ではフェレル循環と波動(偏西風の蛇行)によって,潜熱は北向きに輸送されるはずです.
 図3は顕熱・潜熱の南北輸送の緯度分布です.図3の実線と図2の顕熱輸送(実線)は同じものを示しています.潜熱フラックスは低緯度で南向き(負),中緯度で北向き(正)となっており,図1の鉛直循環によって説明できることが分かりました.

図3 顕熱・潜熱の南北輸送の緯度分布

 次に,降水量と蒸発量の緯度分布(図4)とのつながりについて考えてみます.今は降水量から蒸発量を引いた,相変化による水蒸気量の減少量(灰色)に注目します.赤道よりわずかに北側の極大はハドレー循環の上昇流,亜熱帯の極小はハドレー循環の下降流と対応しています.図1から考えた水蒸気輸送を黄色の矢印で示します.水蒸気フラックスは水蒸気の減少量の極大から極小に向かっています.したがって,ハドレー循環に伴う相変化による水蒸気量の増減は,鉛直循環と波動による水蒸気の南北輸送とバランスしています.

図4 降水量と蒸発量の緯度分布

 このブログの見出し画像は年平均降水量です.確かに図4の示す空間分布となっています.

まとめ

 図1に示す鉛直循環によって,熱と水蒸気の南北輸送のグラフの説明が可能なことが分かりました.なお,中緯度ではフェレル循環は顕熱を赤道向きに輸送するものの,波動による極側への輸送への寄与が大きいことに注意が必要です.

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