「デュラハン」~第三話 パンドラの箱 中編
勇翔は前方に注意を払いながら自分のペースで
進んでいた。
ダリル率いる特殊部隊は勇翔との一定間隔を維持
しつつも、万全の警戒態勢でついて来ていた。
デュラハンになるにあたり、あらゆる状況での
大規模なシチュエーションを変えた訓練を全て
クリアして、晴れてデュラハンになれるものだった。
彼等はエクストリーム財団の要とも呼ぶべき者たちで、
強さに多少の差はあれど、中には人知を超越した
能力を使えるものも少数ではあるが、実在した。
訓練と言えど、実戦並みの施設の攻略や山等を
使った本番に限りなく近いものだった。
勇翔は最後の訓練の相手はダリル率いる特殊部隊
であった。
どこまでいっても、訓練と実戦の狭間が消える事
は無いものだと、勇翔はデュラハンになった後、
実戦で知った。
最後の試験であったダリルの部隊は、あの最後の
訓練で手抜きはしてないが、
本気でも無かったのだと改めて肌で感じた。
それほどまでにフォーメーションを完璧に維持して
いた。頭ごなしにガキ扱いされた事も納得だった。
口だけじゃない本物の戦士たちだった。
彼等は人里離れた場所から、森を抜けて秘密組織が
新たに造ったらしき基地まで向かっていた。
警戒態勢を維持したまま、楽な距離では決して無い
のに対して、彼等は楽々と勇翔について来ていた。
森を抜け切る前に、勇翔から通信がダリルに入った。
「明かりが見える。森を抜けたら闇に同化するしか
無いが、見つかる可能性も高くなるが、どうする?」
「勇翔。お前の仕事は仕上げの時だ。それまでの道は
俺たちに任せてもらおう。お前はそのままそこにいろ」
「こちらダリル。これより施設外部にいる敵を排除する。
絶対に見つからないよう慎重に迅速に殺る。
スナイパーチームのメイカーとバローは左の敵を処理し、
ベニーとアーロンはそのまま右の敵を消せ。
それぞれ配置についておけ。
私が中央に注意を引かせるから、タイミングを合わせて
一発で必ずしとめろ。以上だ」
ダリルは空を見上げて、あと少しで月が隠れるのを
待っていた。
そして月に大きな陰りができた瞬間、驚くべき速度で
中央の門がある所まで駆け寄ると、そのまま草陰に身を
隠したかと思うと勢いに乗って二メートル以上はある
金網を、足音も立てずに飛び越えて着地した。
勇翔の夜目でさえも、その姿はもう見えなくなっていた。
じっと目を凝らせて、闇に吸い込まれるように
眼を向けると、影が次々とナイフを使って、静かに、
そして軽やかに、大きな施設の前方を巡回していた兵士
たちを皆殺しにした後、最後に門を守る警備室の軍人
らしき者たちを消していった。
そしてすぐにサイレンサー付きのスナイパーライフルで、
左右の見回り兵たちを撃ち殺していった。
まさに誰もが一流の兵士だと、本当に自分が必要なのか
疑うほどの強さと連携がそこにはあった。
しかし、デュラハン一名が消息不明した状態で、Aランクの
精鋭がおそらくは殺されているであろうと考えると、
施設の内部にとんでもない猛者がいると
考えるのが必然だった。それだけに勇翔からすれば、
ダリルとその部隊は頼もしく感じた。
隊長から掌握の合図である、灯火のような今にも消える
明かりが連続で光が点滅した。
隊員たちは一斉に行動に移った。勇翔は一歩出遅れたが、
ダリルの場所につく頃には、同時に到着していた。
「お前、デュラハンだろ? そんなんで大丈夫なのか?」
迎えにきて力試しを挑んできたアーロンは、
顏をしかめて勇翔を見つめた。
「やめろ、アーロン。コイツは本番に強いタイプだ。
強さは俺が保証する」
ダリルに言われて、アーロンは口を閉ざした。
「いいか、ここからが本番だ。
ギリシャ支部のデュラハンや、
Aランクの部隊がこんな奴等にやられる訳がないからな。
いつも通り気を引き締めて行くぞ」
「ここからは勇翔は後衛に回れ、お前が最後の砦になる。
道は俺たちがつくるから最後は任せるぞ」
勇翔はダリルたちが犠牲になろうとしている事を知り、
頷く事が出来なかった。
「聞いてるのか? これが俺たちの任務だ。いつも通り
全員覚悟の上だ。私的な考えは捨てろ」
16歳の青年には苛酷な覚悟である事は、ダリルも承知
していた。酷な事だが現実を受け止めさせる必要が
あった。
「隊長、そろそろ行かないと・・・・」
ダリルは勇翔の目を見て笑って見せた。
「俺たちは世界でも屈指の部隊だ。安心しろ」
その微笑みに勇翔は助けられた。
「よし、フォーメーションは攻略タイプで行くが、
後衛には勇翔にアーロン、アッシュの三人にする。
一気に攻略して俺たちの力を世界に見せつけるぞ」
隊員たちは皆、微笑みながら頷いていた。
「隊長、なんで俺がアイツのお守り役なんすか?」
アーロンはダリルに不満をぶつけてきた。
「アイツはまだ16歳だ。仲間の死に慣れてない。
死人は間違いなく出るだろう。勇翔が突っ込んで
きたら最後の切り札を失う事になって、この任務は
失敗に終わるだろう。だからお前をつけた。
後の事は頼んだぞ」
アーロンは静かに瞼を閉じて了承とした。
近くにいたアッシュにもダリルは目を向けた。
アッシュは悲しい瞳をしながら頷いていた。
ハッカーが基地のコンピューターにアクセスし、前方の
大きな扉を開けた。前衛の兵士たちは大きな貨物も
出入りする扉の左右に分かれて、敵の確認をしようと
したが、妙な事に誰もいなかった。ただ床や壁には
大量の血が、撒き散らすように飛び散っていた。
ダリルは前進の合図を出すと、左右の隊員たちは壁沿い
に進んで行った。暫くすると、安全の合図を出してきた。
中衛にいたダリルは配下と共に、前方へ進みながら安全
を再確認すると、アッシュたちに問題無しの合図を
送った。アーロンとアッシュが前に出て、その後ろに
勇翔が続いた。床や壁の血の量から見ても相当な人数
が殺された事は容易に分かったが、死体は一体たりとも
消えていた。
前衛が基地内の中に、大きな広間を見つけた。隊員たちは
思わず足を止めて、隊長に連絡を入れた。
「隊長」スナイパーのベニーの声であったが、明らかに
異常を感じる声だった。
「どうかしたか?」
「ひとまず、安全を確保してまた連絡します。この異常性
は見た方が早いと思います」
「分かった。安全確保したら連絡しろ」
「了解」
最後の交信から5分が経過した。明らかに何かがあった事を
意味する時間の長さだった。ダリルは嫌な予感を勘ぐりなが
らも、ベニーに連絡した。
「ベニー、こちらダリルだ。制圧したか?」
彼からの返事は無かった。
ダリルは予定外ではあったが、この任務の難易度の高さは
承知していたが、仮に戦いになれば必ず連絡してくる。
前衛には20名の兵士をつけた。
その誰もが連絡する間も無い速さで全員殺されるなんて
信じられなかった。
彼は中衛と後衛の全員に無線連絡をした。
前衛部隊がやられた可能性があると。
そして、これから我々中衛部隊は前衛部隊に合流すると
伝えた。しかし、後衛部隊には何の通達も無かった。
ダリルは敢えて後衛にも情報共有したのは、もしもの
可能性が十分にあったからだった。
アーロンやアッシュにはそれが伝わって来ただけに、
自分たちも合流したい気持ちを抑えて、
下唇を噛んで任務を優先させた。
奥からは銃声が途切れる事無く、撃ち続けていた。
「俺たちも行こう」勇翔は二人が一番抑えている気持ち
を言葉にした。
「あんたたちが俺を抑える為につけた事は分かる。
だが、ダリルたちが倒される程の相手なら、三人で
行っても勝算は薄い。でも今ならまだ間に合う」
アーロンはアッシュに目をやると、同じ思いだと感じた。
「ガキに説得されるようじゃ俺も焼きが回ったな。
だが、お前は俺とアッシュの後ろにいろ。いいな?」
勇翔が頷くと、すぐに銃声飛び交う前方を目指して
駆けて行った。
「隊長!」
「お前たち!? 後方で待機していろ!」
「俺たちも戦います!」
ダリルは最新のアサルトライフルを撃ち続けながら
「援護に回れ! 勇翔はまだ出るな! お前の戦場は
ここじゃない、最後にはお前の力が必要になる!」
「アイツら!? 隊長、どういう事です!?」
「訳が分からん! 脳か心臓を撃ち抜け! 倒すには
それしか方法は無い!」
敵である彼等は前衛部隊のメンバーであった。
しかも動きも俊敏で、連携も取れてる状況だった。
「ダリル! 俺に行かせろ! 博士から貰ったこの装備
なら間違いなく楽に制圧できる! ここでこれ以上
人数が減れば援護がいなくなるだろ!」
「クソッ!! 分かった! 全員よく聞け! 勇翔の
援護を全員でする!」
ダリルとアーロン、アッシュが前方の敵に一斉射撃を
浴びせて、突破口を開いた。
「勇翔! 今だ、行け!」
デュラハン:あらすじ
デュラハン:人物紹介、組織関係図、随時更新、ネタバレ
デュラハン:敵の人物紹介、敵対組織、随時更新、ネタバレ
第一話:始まり
第四話:パンドラの箱 後編