【長編小説】 閉じこもりの日々に別れが来る、そして再会の物語
〈あらすじ〉
1999年12月末。自分の部屋から忽然と姿を消した当時高校2年生の青野優(あおの すぐる)は研究者の父が開発した時間基盤を使い、未来へとタイムスリップした。偉大な研究者であった父だったが研究所の爆発事故に巻き込まれ、2年前に他界。父が残した時間基盤で見える未来は7回までとなっており、時間基盤は2000年4月に記録が途絶えていた。
それから23年後の2023年。青野の担任であった私と弟の悟(30歳)によって海に漂流した時間基盤を発見し、残されていた年月日と海の近くという情報を元に青野優を助けるべく23年前にタイムスリップするのであった。
「どうして・・・、どうして、ここに?」
優は、突然現れた二人に驚きを隠せなかった。
「青野君、信じてもらえないかもしれないけど、私達は23年後からこの世界に来た。一緒に帰ろう」
「そうだよ、兄さん、馬鹿なことはやめてくれ。兄さんが死んだって何も変わらないよ」
「青野君、まだやり直せる。先生は、こんなところで人生を終わりにして欲しくない」
優はすぐには首を縦に振らなかった。
「先生、僕は前に言いましたよね。賢くなったって何も良いことないって。父さんは組織の人間に殺されたんです。研究の成果だけ奪い取られたんだ」
「兄さん、それは違う。父さんは事故死だったんだよ。その証拠がここにある」
悟は当時の研究所の事故原因が書かれた資料を手渡した。
「嘘だ、そんなはずない、そんなはず・・・」優は泣き崩れた。
「青野君、これが真実なんだよ。お父さんは仕事を全うした、本当に不慮の事故だったんだ。受け入れ難いかもしれないがね」
優は膝から崩れ落ち、手に持っていた時間基盤を落とした。
その瞬間、悟は勢いよく駆け寄り、基盤を海に投げ捨てた。
ポチャッという乾いた音が響いた。
「何するんだよ」優は悟に向かって叫んだ。
「もう終わりにしようよ、兄さん。僕らはまたやり直せるよ」
「青野君、先生が言ったこと覚えてるか。『青野は、落ちこぼれなんかじゃない』って。先生はずっとそう思って、君を助けに来たんだ」
優は何も言わなかったが、私達が乗ってきたタイムマシーンに乗ることを拒みはしなかった。
これから書く物語は私が彼に最初に出会った24年前の話である。
私はこの物語を書かずに胸の内に留めておくつもりであった。
しかし、当時17歳だった彼は予言していた。
「先生は、2023年に小説を書くよ」
これは私にとっての宿命であり、まだ、この物語の始まりに過ぎなかったのだ。(完)