【超短編小説】 少女と崩壊する街
「こんなはずじゃ」
僕がスイッチを押した時にはすべてが終わった。
地面が割れ、建物は崩れ始めた。
街中の人々は混乱し、右往左往と走り回った。
ただし、一人の女の子だけが崩壊していく街をじっと眺めていた。
僕は女の子に駆け寄り、
「危ない。君もここから逃げないと」と言ったが、
「さよなら、地球。そして、二度目のお別れをしよう」と少女は微笑むだけだった。
「何を言ってるんだ。君は死ぬかもしれないんだぞ」と僕は声を荒げた。
しかし、少女は平然とした様子で、こちらに顔を向けた。
「あなたは自分がスイッチを押したせいで、こうなったと思っているの? でも、それは半分正解で、半分間違い」
「どういうこと?」
「つまり、あなたがスイッチを押そうが押すまいが、この地球はだいぶ前から崩壊し始めていた。そのタイミングがたまたま重なっただけに過ぎないの。この世界はある時点から壊れかけていたとも言えるのかもしれない」
「じゃあ、いずれ破滅していたってこと?」
「そう。それに今に始まったことじゃないわ。とある昔、「バゼル」とか言う破滅の言葉によって街が消えるということがあったの。あれから何年も月日が流れ、人々はそのことを忘れてしまった。でも、私は知っていた」
「どこかで聞いたことがある言葉だ」と僕は答えた。
「時間よ。ここから逃げましょう」
少女はそう言うと、僕の手を引いた。(おしまい)