【超短編小説】 久しぶり
水面を歩く彼女は、私を見ていた。
「久しぶり」と言う彼女の近くを小鳥たちが飛んでいた。
これは現実なのか、ただの幻想なのか。
目に映る光景を私は直視しながらも、半ば疑いを抱かずにはいられなかった。
彼女は行方不明になっている。
それが5年前の秋で、某県にある湖だった。
その地域の大半は湖が占めており、人口よりも水の量が多いと聞いたことがある。
私の目に映る人物は、本当に彼女なのだろうか。
恐る恐るスマホで彼女の写真を撮ると、しっかりと画像に記録された。
「私ね、5年経って、水の上を歩けるようになったの。掟があるから詳しくは教えられないけど、忍者の世界に入ったの」
「忍者?何のこと?」
「この地域には古くから忍者の末裔が住んでいて、5年間修行して忍者になることにしたんだ。子供の頃からの夢だったから」
「待って、話がよく分からないよ。こっちに来てゆっくり話をしよう」
「もう行くね、敵が近くまで来てるから。またね」
そう言って、彼女はどこかに消えて行った。
竹筒が見えたような気がしたが、上手く撒いたのだろう。
「そういう訳にはいかないよ」
私はその場に服を脱ぎ捨てると、彼女の後を追った。
「今度こそ、決着をつける時だ」
こうして、忍者同士の派閥争いは幕を開けたのであった。(おしまい)