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おとなりマダム
コロナ終盤、まだ東京駅の人は少なめ。とは言え外国人の観光客はぐっと増えてきた2023年2月末。
母の胆管がん疑いと認知障害を思うと気持ちは晴れないけど、こればっかりはなるようにしかならない。
新幹線で実家へ向かう。
空いてる車内で通路側の席を予約していた私の隣りに年上の女性がやってきた。
何度もチケットを確認してる。
そりゃあ
こんな空いてる車内で隣りに人?って思ってるのかなーと(コロナ禍だったしね)
「私、空席のところに移動してもいいので」と言ってみたら、
「違うの。いいのよ。駅で窓側って言ったらここだったの。チケット買ったの一昨日くらいだったから。お隣り失礼しますね。」と言ってそーっと着席された。
「どちらまで?」と聞かれたところから会話が始まり、彼女が降りる浜松まで楽しくしゃべった。知らない者同士なかよく喋る、一定数いるであろうおばさんあるあるだ。
年齢差は20歳だが気にならない。
会社員時代の先輩と話してるみたい。
浜松に住む94歳のお母様の様子を月に一度見に行くとのこと。
とにかく明るいマダムで、
「年がいってからなんだけどお茶を習ったの。お友達が先生なの。そしたら着物も欲しくなっちゃって。結構買いました。散財したわね。」
「結婚したけど子どもができなかったのね。子どもは諦めて主人と一緒にツーリングしたいからバイクの免許を取りに行ったんだけどあと一回で教習が終了ってとこで妊娠がわかって。あと一回よ。免許取りたかったけど、どっちが大事なんだって周りに反対されてそこで辞めたのよ。
人生に後悔があるとしたらそれね。
息子はいるけどバイクの免許がない。」
「息子産んで育てたけど、息子は冷たいじゃん。バイクの免許があったらなー。でももうダメよ。こないだ自転車でさえ転んでさ、広尾の日赤に行ったの。
肋骨折れててまだ痛い。」
座る時にぎこちなく見えたのはそのせいだったのか。
私のこともいろいろ聞いてくださり、ついにはバブル時代のOL話に。私自身は大学卒業時、すでにバブルが弾けて氷河期の初期。就活は苦労した。でもバブルの話を聞くのは大好きで、それを伝えると
「あなたミーハーだったの?」
ミーハー!
久しぶりに聞いたミーハー
私はミーハーだったのだろうか?
ニュアンスはわかる。
ヒールの靴で仕事してたよねという話から、昔のオフィスビルの階段で、階段の角の滑り止めにヒールの細い先を引っ掛けて踊り場まで転がり落ちて顔を打ち、目のまわりに青あざを作って、無事なほうの目のメイクも濃くして同僚はドン引きという話をしたら、彼女もヒールで転がり落ちた経験があると言い出し大笑いになった。脇腹を押さえて笑っている。
そうだった。
肋骨が折れていたのに悪いことをしてしまった。
別れぎわ、
「あなたが帰ればご両親安心されるわね。顔見るだけでね、違うものよ。」
と言ってくださった。
うれしかった。
気分が明るくなった。
楽しいお話ありがとうございました。
ラフな寛いだコーデだけど、
「おつかれ〜っ!」て手を振った彼女はバブル時代のキャリアウーマンだった。
こんな出会いと他愛もない会話にこれからもずっと励まされる気がしている。