ルーツを辿ってみた話
始まりはお客さんのこの台詞から。
『群馬の桐生は物づくりが盛んな職人の街。あなたが美容師になったのは、お父様の血かもしれないわね!』
父の生まれた群馬県には数回しか行ったことがない。
しかもどれも小さい頃のはなしで、じいちゃんばあちゃんの顔も覚えていない。
年に1.2回だけ帰国したときに来店するお客様がいた。
初回をたまたま私が担当して、そこから指名してくれていたけど、私で…良いんだろうか?というのが正直な感想だった。
その方は一点物のストールのブランドを持っていて、今はもう違うけど、そのむかし桐生に工場を置いていたのよ、と。
国内をたくさん見てまわり、自然が豊かで人があたたかく、かつての城下町で職人溢れる桐生にインスピレーションを受け、工場を置いたと言っていた。
母の故郷の北海道で生まれ育ったわたしは、群馬の親戚たちをほとんど知らない。
自分のルーツはぜんぶ北海道にあると、漠然と思っていた。
年に数回帰国するそのときに、ご縁のあるジェラート屋さんでストールのポップアップをするんだそう。
『来週3日間やるの。あなたも良かったら来てみてね!』
う〜ん。私の予定のない連休とかぶっている。
日帰りで行ける距離だと言ってたな…
でもこんなに地図が読めないで有名なわたしが?
1人で初めての地を歩けるんだろうか。
行ったほうがいい気がする…
ちょっと怖いけど……
こういう時はいつも母に電話をする。
『あ〜、それね、たぶん行ったほうが良いやつだわ』
そうだよねぇ〜〜〜〜
背中を押してもらって、勇気を出してひとり旅を決行する事にした私は、まず桐生の駅でとりあえず立ち尽くす。
【ミッション①〜自転車をレンタルしてジェラート屋さんへ向かう〜】
みどりの窓口的なところのおじさんに事情を話す。
私 「このジェラート屋さんに行きたくて」
おじ『お!銀ちゃん(仮名)とこでねぇか!お〜い!銀ちゃんとこ行きてぇんだとよ!』
私 「銀ちゃん」
携帯のナビをセットして、出発する。
桐生の街を眺めながら自転車をこいで行くと、自分の苗字(父方)のお店が多いことに気づく。
◯◯板金、◯◯塗装…
わたしのルーツがここにもある…
わくわくする!!!
そして無事に道に迷う。
んも〜〜〜〜〜〜
困ったら人に聞け、が母の教えなので、迷わず交番にかけ込む。
お巡り「一本戻ったらすぐですよ!」
私 「惜しかった〜!」
無事に到着し、お客様とも銀ちゃんとも会えて良くしてもらう。
【ミッション②〜群馬のじいちゃん宅が行ける距離なら行ってみる、ダメなら電話で声を聞く〜】
群馬のじいちゃんは、お盆とお正月に電話をするのが何年も続いている。
足が悪いけどボケていない、でももう80歳は過ぎてるはず。
いつでもできる電話って案外しないから、近くにいるうちにしておいでって母が。
たしかに!
銀ちゃんに聞いたところ、なんと自転車で10分くらいらしい。
行くしかない。
ナビをセットして、自転車をこぎ始める。
すいすい〜っと進んで目的地に到着。
表札のない、プレハブみたいなお家が何戸か集まっている。
ど、どれだ…?
電話をかけてみる事にする。
プルルルル…
待って、わたし自分からじいちゃんに電話かけた事ない。いつもお母さんがかけて代わってもらって話してただけだった。なんて言う?
爺チャン 『もしもし』
私 「!! も、もしもし群馬のじいちゃんですか?北海道のカオリ(仮名)です。」
こんなの新手の詐欺すぎる。
爺チャン 『・・・かおりかぁ?』
私 「そうだよ!!あのね、今日縁あって桐生に来ていて、じいちゃんの家のそばまで来たんだけど、同じような家がたくさんあってどれか分からないの。もしかしたら場所間違えたかなぁ?」
爺チャン 『・・そうかぁ。でも爺ちゃんな、足が悪いんだぁ』
私 「そうだよねぇ…」
爺チャン 『ちょっと待っとれぇ。ブツッ』
切れたな?
でも今の電話で窓付近に動きのあるお家があるかもしれない、と思ってもう一度ぐるっと一周してみる。
・・・無い。
やっぱり場所間違えたんだ。
もう一回地図みて移動するか…
『かおりぃ〜〜』
?!
声のする方に向かって進んでいく。
!!!
お父さんにそっくりな人がいる!
爺チャン 『かおりかぁ?』
私 「群馬のじいちゃんだ〜〜!!!」
お家に上がらせてもらって、仏壇にお線香をあげる。
群馬のばあちゃんの写真に手を合わせる。
〜ばあちゃん、北海道のカオリです。なかなか来れなくてごめんね。
お父さんを北海道に送り出してくれてありがとう。わたし達は北海道で楽しく暮らしているよ!
これからも見守っていてね。また来るからね!〜
爺チャン 『おまえ、母さんに電話すれぇ』
私 「そうだね、たしかに!」
プルルルル…
母 『もしもし』
私 「あのね、お母さん、聞いて驚きな」
母 『どうした?迷った?』
〜スピーカーにする〜
爺チャン 『もしもぉし』
母 『え〜!!あんた、会えたの?!』
私 「会えたよ!すごいよ!褒めな!」
母 『あんた、ケータイで写真撮っておいで!』
私 「任せな!若者をなめるんじゃないよ」
帰りの電車の時間があったので、バタバタすぐ出発する。
私 「じいちゃん、また来るね!」
爺チャン 『おぅ』
帰り道になった途端に道に迷う。
んも〜〜〜〜〜
最後に神社に寄って、ご挨拶をする。
〜初めまして。ここには私の父方の親戚たちが住んでいます。
桐生に住む方達にとても良くしてもらってここまで来ました。
わたしも毎日がんばるので、親戚達のことを見守っていてください。
また来ます!〜
ずっと天気が良くて、帰りに渡った渡良瀬川がキラキラしていてすっごく綺麗だった。
後日、北海道組の集合写真と手紙をじいちゃんに送った。
これでみんな会えたね!
コロナ禍に入って、また来るね!はまだ実現していないけど。
絶対来れるもんね。ぜったい。
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