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ある高齢者の肖像。「自分らしくある」とは。


ある高齢者の自分史



『若い頃は夢や希望、あるいはちょっとした野望もあったかな。
勢いで挑んだり、そこから反発したり脱線したりもしました。
だんだんどこに行けばいいのかわからなくなり、でもとにかく進みたくて。
やる気はあるのに、やり方がわからない。

結局、何もできずにうろうろしていたような。



そのうち家族ができて、その頃にはついた仕事にも慣れてきて、次第に責任を持つようになりました。
仕事の重圧が増えるなか、家での時間は少なくなり
家族には厳しく当たっていたと思います。
それでも自分の子供の成長を見ていると、まるで自分が第2の人生をやり直しているように見えてきて、あの時できなかった自分の生き方を再現してくれているような気持ちで見ていました。

その時初めて、かつての自分に足りなかったものが
わかったような気がしたんです。


仕事を退職してからは家では妻と二人になり、
自分のたちの時間を楽しもうと考えました。
今までできなかったことを始めてみました。
テニスをしだしたのも、この頃からです。

どこかに出かけたりする用事はあるものの、
追われてばかりいたはずの時間は、
もう気にならないくらいゆっくりと流れていました。




ある日、病気をきっかけに入院することになりました。
無事退院したものの、体は不自由なままです。
車に乗れなくなったり外を歩くのも苦労するようになり、
急にできないことが増えました。

その頃から、物忘れをするようになりました。
今していたことを忘れるようになったのです。
いままでの記憶が、薄れていきました。



代わりに過去の自分、苦労していた時の頃、子育ての頃の記憶が蘇ってきます。
若かりし頃の、気性が荒ぶっていたあの時。人や自分自身さえ傷つける言動。


病気になった後から、怒りっぽくなったようです。
普通のことをしているはずなのに、
周りの人に変な目で見られます。
ちゃんとやったはずなのに、どうもうまくできていないようです。
何が起きているのか、よくわからないことがあります。
不安で、苛立つことが増えました。

早くしなきゃと急いでいた時の記憶。
いつも何かに追われていて、あの頃の自分は世間が嫌いで、
なんでも反発していた時の自分。
なぜか若い頃の記憶が思い出されます。


かつての自分を反省し、人生を充実させようと
暮らし方を変えてきました。
私は成長してきたのです。
病気によって人が変わってしまったと言われますが、
私は何も変わっていません。変わっていないはずです。



どうか私の望みを、聞いてください。
自分らしくありたいだけです。
人に迷惑をかけるつもりはありません。
自分らしく、暮らしたいのです。』



介護保険サービスの導入時には、ケアマネジャーは皆様の生活歴を伺います。
どのように暮らしてこられたかを教えてもらうことで、
その人の考え方や望む暮らしについて、理解を深めます。

そして、自分らしい暮らしを続けてもらうために、
どのような支援ができるのかを一緒に考えていきます。

ケアマネジャーにご相談をする機会が訪れたときには、
ぜひ今までの暮らしのことについてお話しください。

また普段から身近な人やご家族などとお話をしておくと、
もしもの時の備えとなります。

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