「毒になる親(1989)」を要約 |「毒親」の原典を読む
概要
スーザン・フォワード博士(Dr. Susan Forward)が1989年に著した『毒になる親(TOXIC PARENTS)』という本が「子供にとって有害な親」を意味する「毒親」を初めて表現した本であると言われている。スーザン・フォワード博士は米国のセラピストとして活動された方だが、詳しい経歴などについては正確なほかの文献に譲る。
昨今、YouTubeに毒親関係の動画が多くアップロードされているが、この書籍の内容に概ね則していると言ってよい。この書籍の内容を受け売りしているか、自分のアレンジを加えているかのどちらかである。
YouTubeで毒親に関する動画を何本も見るより、この本を一冊読むことをお勧めする(Amazonで購入可能)。
この本で述べられている事は、1989年に書かれた本とは到底思えない内容である(日本語版初版は1999年)。この苦しみは、実は既に研究しつくされており、原因まではっきりしているのだ、ということが分かる。
要約
子供時代に身体的、性的、精神的、搾取的暴力を振るわれた子供は、成人後に対人関係で問題を起こすことが多く、しかもその原因が自分の幼少期にあることに無自覚であることが多い。
そうした人間は、自己破壊的で自暴自棄な行動を取ったり、人間関係を諦める行動を取り、生きづらさを感じ苦しむ。解決には、自分が封じた過去の感情に向き合うことが重要である。
この書籍の主な内容
この本は以下の4つを順に説明する書籍である。
毒親とは何か
毒親の行動とそのパターン
子供が受ける心理的なダメージと、その後の人生にどう影響を及ぼすか
どういった苦しみ方をするか毒親に育てられた子供は、大人になった今、どう解決すればよいのか
引用について
引用は文化庁ホームページ「著作物が自由に使える場合」に従う。以降の引用箇所はすべて以下による。もし引用の仕方や量に問題あればお知らせ願う。
スーザン・フォワード(玉置悟 訳), 『毒になる親 TOXIC PARETNTS OVERCOMING THEIR HURTFUL LEGACY AND RECLAIMING YOUR LIFE DR. SUSAN FORWARD』, 毎日新聞社, 2013, 全318p
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/92466701_01.pdf
実際に苦しんでいる人たちの声
実際にセラピーに来た人たちが述べた言葉が多く載っている。読み始めて最初に衝撃を受けたのは以下の内容である。
私は一人で飲食店で食事をしている時、一人で公共の場に居なければならないとき、他人の目が気になり落ち着かない。「誰かが自分を攻撃するのではないか」、「誰かが自分を笑っているのではないか」と漠然と不安になる。だから大急ぎで食べ、味がしない。そうした経験がある人もいると思う。その気持ちが、30年近く前の、しかも遠い異国の土地で既に言葉にされていたのだ。
父(母)の暴力をとめない母(父)
私の父は、仕事でイライラすると5歳にもならない子供のころから、家族全員を手加減なしに物を使って殴り、蹴り、怪我を負わせる人だった。髪を振り乱し、大声をあげながら殴りつけてくる父親が私は怖くて仕方がなかった。今でも頭や顔に殴られた跡が残っている。兄は4歳でミニカーを顔面に投げつけられ、血が止まらず病院に担ぎ込まれたこともあった。
母親はいつも自分の子供が殴られる様を黙って見ているだけだった。母親の口癖は「だってしょうがないでしょ」だった。私が怪我を負うほど殴られると、母親は私を慰めることもあった。「痛かったねえ」と。今になって思うが、父親の暴力を止められる唯一の大人が一体何をしてるのか?「痛かったねえ」と慰めている場合ではない。警察に相談すべきだった。
スーザン・フォワード博士は自らの書籍をtoxic parentsと題した。これを直訳すると毒親になるが、よく見るとparentsは複数形なので、両親を意味すると思われる。そのため毒両親が正しい日本語訳ではないかと思う(勿論スーザン・フォワード博士が見てきた毒親「達」という解釈もある)。
なんにせよ傍観者たる母親(父親)についても以下のように述べられている。
この本の「本来はこうあるべきだ」という指摘は見事というほかない。本来見過ごしがちな責任のありかをすべて指摘している。
自分の子供の顔に向かってミニカーを投げるような父親は、まともではないとわかったはずだ。その時点で、私の母親は父親から離れる決断をしなければならなかったのだ。このことに気付いてから、私は母親のことも嫌いになった。
事実の否定・暴力の正当化
親は力の上下関係で子供をストレスのはけ口としてきたわけだが、今やその力関係が逆転していて、もしかすると過去にしたことを逆にされる可能性がある。そうした場合に最後にすがれるのは「親」という立場だけなのだ。だから相手の常識に付け込んで「しつけだった」という苦しい言い訳をする。
罪悪感を感じる子供
こうした家庭環境で何故ネガティブな感情を持つ子供になるのかについてはいくつかの要点があり、以下のように述べられている。
子供は、異常な環境に居ることを当然認識できない。当時はSNSどころか、インターネットがなかったのでほかの家庭を自分の家庭を比べることもできなかったし、そもそも当然のことを聞こうとするはずもなかった。
こうした心理で、「なぜ親は暴力を振るってくるのか」ということに納得するために、子供は「自分のせいだ」「自分がよくないのだ」と結論を出して折り合いをつける。そうした幼少期を過ごしていくと、どうなるのかが以下にまとめられている。
この書籍の素晴らしいところは、残酷な事実を容赦なく突きつけてくることにある。「お前が欠陥のある人間に育ったのは、お前の親がお前にした幼少期の仕打ちに原因がある。そのことから目を背けるな」と言ってくるようだ。
毒親を許さなくてよい
損得勘定で考えると、「許す」という決断をした場合に得をするのはほかでもない毒親なのである。生物は先に生まれたものが先に死ぬので、毒親は許してもらったという安心感で幸せな最期を終えるのである。
毒親に苛め抜かれた子供は、人生がめちゃくちゃになり結婚もできず、または結婚生活が長続きせず、これからも死ぬまでひどい一生を送ることもある。許したことで得られるものはないのにである。
詳しくは書籍を購入し読んでほしいが、毒親を許さなくてもよいということ、要するに「我慢しなくていいんだよ、昔の感情でも、抑え込まないで、ブチギレてもいいんだよ」ということと、実際のグループセラピーで起きたことが述べられている。
毒親と対決する
この書籍の最後で、毒親と対決するように勧めている。この内容はこの書籍の核となる部分であり、誤解を含むような記述は絶対に避けるべきと思うので紹介しない。
所感
鋭く事実を指摘する点には心底驚いた。今まで読んできた本の中で一番内容が正確で、分かりやすく感じた。
毒になる家計
「毒親はその親が毒親である」ということを指摘している。
YouTubeで活動する多くの心理士も同じことを指摘している。しかし私は例外があると思う。
それは、ゼロから毒親が発生する可能性があるということである。突然変異でアルビノの個体が生まれることがあるように、健康な肉体にも日々癌細胞が生じるように、安定した情緒をもち、愛情を注がれて育ったにも関わらず、情緒や人間性が壊れた人間が突如としてその家系に生まれることもある。それ以降の子孫からすると悪夢のような現象である。
現に私の父親は親が安定した収入がある家庭に生まれ、親は安定した情緒を持ち愛情を注がれ、一度も暴力を振るわれたこともない人生を送ってきたにもかかわらず、壊滅的な人格を持つ。
しかしこれまで幾千の生物が自然淘汰され絶滅してきた。もし家系を種のように捉えれば、そうした劣った家系は自然淘汰されるだろうと思う。いくら普通の人に追いつこうと努力しても、努力したとてマイナスがゼロになるだけでプラスにはならないのだ。
マイナスをゼロにしても、同じ頃には周りはゼロからプラスに転じている。次に周りから書けられる言葉は、「全くゼロじゃないですか。今まであなたは一体何をしてたの?」という心無い言葉なのである。
人間に備わる免疫の力によって、毎日体の中で作られる癌細胞が消されていくように、毒親育ちという癌細胞は、人間社会から常識という免疫によって消される運命なのかもしれない。
結局《親ガチャ》
親ガチャという言葉が一時期流行った。結局のところここで述べられるような毒親の元で育った人間は、親ガチャはずれと言って間違いないと思う。
私は社会に出て、「自信満々で間違えてヘラヘラ撤回する上司」や「間違えを延々話し続ける同僚」を見るたびに、何故この人たちはこんなに自信があるのだろうと本当に不思議だった。
同僚の結婚式に出て、親に対する感謝の言葉を聞かされる機会があった。披露宴会場で新郎は「夏は海に、冬は山に連れて行ってくれた。人生は楽しむということを教えてくれた」と父親に感謝を述べていた。新婦は「いつもニコニコして優しいお父さんお母さん」と両親に言葉を送った。
自分は到底思いつかない言葉に、違う世界の住人を見ているかのような気持ちを感じた。私には、すぐ暴力を振るう貧乏で馬鹿な父親と、そんなのとしか結婚できなかった子供に無関心な母親しかいないのに、と思った。
この書籍を読んで、不思議に思っていたことが全部寛解した。そうした正常な家庭環境で育ち、幸せを掴みに行ける人たちと、自分とは全く心の基盤となる部分が違うということだ。前から違う世界の人のように感じていたが、実際に違う世界に住んでいるということが分かった。
このことに気付いてからは、上司に怒鳴られたりしても、「この人は正常な家庭で育ったまともな人間だし、自分は貧乏人の毒親育ちだからこれだけ言われても仕方ないんだ」と思うようになった。
一般の人にはネガティブに聞こえるかもしれないが、こうするとストレスが20%位に縮小されるし、素直に謝ることができる。相手と自分が対等であると考えるから100%のダメージを受けるのだとわかった。
大切なのは残酷な事実から目を逸らさず、それを受け止めることだ。そのことをこの書籍は教えてくれた。
同じ苦しみを持つ人は、是非読んでみることをお勧めする。
以上