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快晴のち大雨~J2第8節 ファジアーノ岡山 VS 水戸ホーリーホック~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

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二段構えのプレッシャー

 岡山は山本が右サイドを突破した流れから白井のシュート、水戸はボールを収めて自らペナ内に持ち込んだ中山のシュートと、両ゴール前でのプレーが多くなる展開で試合は始まった。いわゆる行ったり来たりのオープンな展開である。立ち上がりの両者はパスで前進するよりはまず縦に、前線のターゲットに蹴ってそのセカンドボールを回収してドリブルで運んでいこうとするプレー選択が多く、始まったばかりなのにまるでもう試合終盤のようなテンションでプレーしているようだった。お互いのテンション(⇒特に水戸)が時間相応に落ち着くのに10分ほどかかったのだが、その時間帯は水戸が前線の中山や安藤のフィジカルを使って押し込む形を増やしていた。

 前述した立ち上がりの10分が過ぎて、試合の流れが落ち着きを見せ始めると、岡山は徐々に攻守で準備してきたことを出せるようになっていく。ここでの岡山の準備というのは、「ボールを持つとき、持たないときに関わらず、できるだけ高い位置に人数をかけていきたい」とする水戸の狙いを外して、逆に自分たちが敵陣でプレーする形を増やしていくための準備であると言って良いものであった。

 まずは水戸がボールを持つときの展開、つまり岡山がボールを持たないときの展開について見ていく。ボールを持ったときの水戸は「内側~中央のエリアに縦パスを打ち込んで起点を作り、そこからできるだけ中央、ゴールの幅で崩しに行く」ということを第一優先に狙っているようだった。そのため、ボールを持つときに4-3-3のようになる水戸の前線3枚(中山-安藤-ブラウンノア)は、基本的に横幅を取らずに中央~内側のエリアで後方からの縦パスを受けようとしていた。もちろん中央だけで攻め切れることは少ないので、その際にサイド攻撃の主役になるのはSB(柳澤と三國)。SBが横幅を取る役割を担う部分は岡山と似ているが、水戸のSBは常時かなり高い位置を取ろうとしていた。

 前線に縦パスを打ち込んでいきたい水戸は、CBの住吉とタビナス、アンカーの鈴木の3枚でボールを運んでいこうとする。おそらくこの3枚から直接縦パスを入れ、そこからのポストやレイオフプレー、ワンツーによる打開のプレーにインサイドの選手(木村と森)を関与させて、崩しにかける人数を増やしたいとするのが理想だと思われるので、あまり後方からのボール保持にインサイドの選手を関与させたくないところがあるのだと思う。

 そんな水戸の思惑に対する岡山の振る舞いは、4-4-2の第一ラインの齊藤と山本の2枚から水戸のビルドアップ隊(住吉、タビナス、鈴木)にプレッシャーをかけるところからスタートする。この第一ラインのかけるプレッシャーの狙いはここでボールを奪うことではなく、水戸のボールの動きを中央→外に、そしてワンサイドに制限をかけること。齊藤と山本の2枚は横並びではなく段差を付けて(⇒前方、自分の背中のパスコースを消したいため)、そして住吉やタビナスに遠いところを向かせないように、近くの選手に出させるようにプレッシャーに向かっていった。

 水戸のビルドアップ隊が自分たちの思惑通りにボールが運べないとなると、当然木村や森といったインサイドの選手だったり三國や柳澤といったボールサイドのSBだったりがピックアップしようとする。ここで岡山は、第二ラインを形成する中盤の4枚でプレッシャーの第二波を浴びせにかかる。プレッシャーの対象としては水戸のインサイドに白井と疋田のCHが、ボールサイドのSBに上門と木村のSHが当たることになっていた。特に岡山としては水戸のインサイドがボールを受けに下がったところにプレッシャーをかけることを狙っており、ここでボールを取りきることで岡山の前線と中盤が近い距離を保てていることを利用したショートカウンターに繋げようとしていた。疋田がプレッシャーをかけて齊藤がボールを回収、そのまま攻め上がった疋田がシュートに持っていったシーンはまさに理想的な形だったと言える。

 岡山はミドルゾーンでボールを回収しきれなくても、ここまでの第一ラインと中盤のプレッシャーが決まっていれば水戸のボールの動きをかなり制限させることができている(⇒ボールの動きをワンサイドに追い込まれている)ので、水戸が苦し紛れに前線に出した縦パスに関しては岡山の最終ラインがポイントを押さえてチェックをかけることができており、中山や安藤、ブラウンノアといった水戸の前線の選手はポイントを絞った状態で迷いなくマーキング、チェックに行ける岡山の選手に対してなかなかボールを収めることができていなかった。このときの岡山は水戸の縦パスを引っ掛けてそのままカウンターに繋げることを優先しており(⇒水戸が攻めに人数をかけているのでカウンターを打てるスペースが多い)、特に古巣戦となった右SBの河野は相当積極的にボールカットを狙っていた(⇒それゆえ安藤に入れ替わられるシーンもいくつか見られていた)。

CBを動かすSBの裏

 次に岡山がボールを持ったときの振る舞いについて見ていく。水戸の守り方は相手のボール保持に対して後ろを余らせるのではなく前からマンツーマン気味に噛み合わせてプレッシャーをかけることを狙っており、奪ったときのカウンターの矢にSBを使うことを目論んでいるようであった。そのため、特に前半に見られた岡山の狙いは「ボールを持たないときでも高い位置を取ろうとする水戸のSBの背後に起点を作り、水戸のCBを中央から動かすこと」であった。このときにサイドで起点になる形は、前線の齊藤と山本がサイドに流れてボールを受ける形であった。

 前線の齊藤、もしくは山本が水戸のSBの背後に流れてボールを受けると、水戸はCBのタビナスだったり住吉だったりがマークに付くのでCBが中央から動く形となる。ここで水戸にボールを奪われる、ボールを失うと岡山としては逆にカウンターを受けてしまう厳しい展開になるのだが、齊藤と山本はボールをキープするだけでなく相手のCBを引きずるようにして自らサイドからボールを運んでいこうとする形を何度も見せていた。前述したように水戸の守備は前からマンツーマン気味に噛み合わせるので、CBの管轄エリアで相手にボールを運ばれると一気にピンチになることが多い。岡山はサイドで起点を作った齊藤や山本の折り返しから何度かチャンスを作ったが、もう少し中に人数は欲しかったところである。

 では岡山はどのようにして水戸のSBの背後にボールを送っていったのか。この試合の大きな方針としてあったのは、後方の選手からの、特にCBの濱田や井上からの長いレンジのボールを磐田戦や愛媛戦と比べても意図的に増やしていったということである。高い位置からボールを取りに行こうとする水戸のプレッシャーを空転させて一気に裏返すのには、現状では後方でのボール保持時間を短くして、パスの成功率は低くなるが長いボールを増やすのが良い、という選択は非常に合理的である。

 ここで一つ強調しておきたいのは、前半に関しては、だからと言って単調なロングボール一辺倒にはなっていなかったということである。前半の岡山は水戸のプレッシャー、特にインサイドやアンカーのポジションを前に引き出すために(⇒CBのヘルプ、カバーリングを遅らせるため)長短のパスを織り交ぜることで、ある程度再現性を持ってサイドからボールを運んでいく形を作ることができていた。この試合では、白井と疋田といったCHの選手だけでなく、上門や木村といったSHの選手も意識的に内側のやや低めのポジションを取って、水戸の中盤を引き出す形を作ってSBの河野と下口を出口にして、そこから縦のボールを入れることで前述した水戸のSBの背後に起点を作ることを狙っていた。特にプロ初スタメンの疋田は相手が寄せてくることを恐れずに、むしろ相手を引き付けようと意欲的にボール保持に関わっているようであった。

 前半の岡山の攻撃のメインとなっていたのは右サイド。右サイドに流れる齊藤が起点となって時間を作り、上門や河野を攻撃に関わらせる形であったり、上門が大外に位置して、そこからもう一度齊藤がサイド奥に流れて上門が斜めの動きで中央に切れ込む形だったりを見せていた。愛媛戦の後半はあまり感じられなかったものの、この試合の前半の上門の右は、左サイドでのプレーよりもどこか連続性が感じられて好印象。一方で左サイドから木村が仕掛ける形は、基本的に右サイドで時間を作ってからのことが多かった。サイドの深い位置を取ってそこからエグっていく仕掛けから味方に合えば一点ものの折り返しを何度か見せていたが、もう少しシュートに持っていける選択肢があっても良かったかもしれない。

 時間の経過とともに岡山の攻守の狙いが水戸に刺さっていった前半の展開。スコアが動いたのは前半のAT。白井の右CKを中央で反らしたボールがファーに流れ、そのボールを下口が押し込んで岡山が流れのままに先制に成功した。下口のゴールは先代24番を彷彿とさせるような形であった。ボールウォッチャーになりがちな水戸のセットプレーの守備をスカウティングできていたのか、サイズのある水戸の守備にタイマンを張るのは良くないと思ったのか、前半の岡山のセットプレー、特にCKは様々な工夫が見られており、その工夫が報われた形であった。前半は1-0で岡山がリードして折り返す。

自ら招いたバッドエンド

 攻守ともにほぼ理想とする形で前半を進めることができていた岡山。濱田のパスカットからの疋田のミドルシュートだったり、上門のミドルシュートが枠を襲ったり、後半の立ち上がりは前半の流れを汲むような形で推移していく。後方で一度落ち着けることなく縦に蹴っていたのは一つ気がかりではあったが、立ち上がりということでリスクはあまりかけたくなかったのだろう、ということでその時は納得していた。

 何とか流れを変えたい水戸は57分に平野と奥田を同時投入。ボールを持てる、運べる選手を入れて中盤の3枚の内2枚を変えて中盤のテコ入れを行う狙いの見える交代であったが、この交代はなかなか岡山の守備に刺さることとなった。岡山の狙いとする守備の肝は、ミドルゾーンでのプレッシャーで水戸のボールの動きを制限させることだったのだが、多少のプレッシャーでは簡単にボールを失わない平野と奥田が入ったことで、岡山のプレッシャーがかからなくなって水戸にボールを運ばれるシーンが目立つようになっていった。前半からの疲労に加えて、水戸の中盤を警戒しないといけないために背後を気にして守らないといけなくなったこともあってか、岡山の第一ラインからのプレッシャーも徐々に落ちていくことになった。

 逆に水戸としては中盤でボールを落ち着けることができるようになったことで前線へのパスが通り出し、高い位置を取るSBがより積極的に攻め上がることができるようになっていった。徐々に主導権を自分たちに引き込んだ水戸はドリブラーの松崎を投入し一気に攻勢を強めようとした。

 第一ラインからのプレッシャーをかけられなくなって、時間とともに前半の狙いとするような守備ができなくなった岡山。齊藤や山本の運動量が徐々に厳しくなっていたのが大きな要因の一つになっていたのだが、それもそのはず、後半になってからの岡山は、ボールを持ったときにショートパスを織り交ぜる形が激減。ほとんどノータイムで前線の選手をサイド奥に走らせるようなロングボール一辺倒の形になってしまっていた。流石に水戸もSBのポジション修正、CBの出るタイミングに修正をかけており、岡山の前線は孤立する形で体力の消耗を余儀なくされていた。それでも何度か木村が左サイドから打開する形は見せていたが、体力のジリ貧は明らかであった。

 それでも飲水タイムまでは、1点リードしているというのを利用してか、第一ラインからのプレッシャーを控えて4-4-2のブロックを一度セットして守る形を取ることで、そこまで水戸に危ない形を作らせることはなく試合を進めることができていた岡山。水戸が松崎の投入後、しばらくの間4-4-2にシステム変更したことで噛み合わせがハッキリとしたことも功を奏していたのかもしれないが、飲水タイムが明けてからのほとんどファーストプレー、タビナスの右サイドへの展開から松崎のカットイン、そこから中央を割られる形で中山に同点ゴールを許してしまった。この失点は、4-4-2のブロックをセットした時に第一ラインがどこまで水戸のビルドアップ隊の動きを制限するかだったり(⇒タビナスをフリーにしてしまった)、カットインしてきた松崎から逆サイドの安藤が走り込んできたときに上門の絞りが足りなかったことだったりの守備のディテールの問題もあったが、基本的には事故的な失点として割り切ればいいものだったと個人的には思う。

 岡山が最もいただけなかったのは、同点に追いつかれてから自らでコントロールを手放してしまったような稚拙な試合運び。中盤や最終ラインでボールを落ち着かせることもせずに縦に蹴る形に終始、消耗した前線が孤立した状態でボールを収めることはなかなかできずに水戸にボールを渡してしまい、さらに水戸がボールを持つと無理にプレッシャーをかけに行こうとして水戸に前進を許すスペースを与えてしまって、水戸の望む「行ったり来たりのオープンな展開」に自ら足を入れてしまった。自らボールをキープして運ぶことのできる奥田や松崎が入った水戸がさらに押せ押せで試合を進めていったのは自明。岡山のそんな稚拙な試合運びは最悪の形でしっぺ返しを食らうことになってしまう。これは終了間際の90分、あまりにリスキーなチェイシングとオフサイドトラップを剥がされて松崎に抜け出されての決勝点だけではない。過剰な行ったり来たりを強いられることになった齊藤がハムストリングを痛めて長期離脱となってしまったのである。

雑感

・追いつかれてからの試合運びとしては、ある程度4-4-2のブロックを維持しての守備重視で良かったのかもしれない、という結果論。ホームで引き分けOKというのではなく、水戸が嵩にかかって攻めに出たのだったらそこで受け止めて再び突けるスペースを引き出すという戦い方ができれば、ということである。そういう意味では疋田→喜山になったにも関わらずそこで一度ペースを落ち着かせようとしなかったように見えたのは個人的には大いに疑問。落ち着かせたかったがチームの力不足でできなかった、というようには見えなかったので。

・上門の右、相手最終ラインの背後を取りつつ高い位置で起点を作ることができる前線の起用など、前の4枚の組み合わせとして光明が見えてきたところでの齊藤の離脱は相当痛いのは間違いない。川本と福元、野口や松木あたりの選手たちがどこまでゲームに関われるのか。10試合も経過しないうちにかなりのターニングポイントである。

試合情報・ハイライト


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