評価が割れるCX-80についてぜひ知ってほしいこと
マツダのCX-80に試乗してきた。正直なところとても評価の難しいクルマだと思う。実用車として普通に乗るための不具合というラインで評価するのか。マツダがずっと唱えてきたクルマづくりのコンセプトを軸に評価するのかで、結論が全く違ってきてしまうからだ。
マツダは自らのクルマづくりのコンセプトをこう説明している。
で、本当にこの文章を真に受けると「人間とひとつになるクルマ」を求めてしまう。まあもちろんスローガンはスローガンであって、クルマから降りたら死んでしまうというわけではないので、その謳い文句をどう捉えるかは物理的な同定のようにはいかない。
一般的な評価軸か、コンセプトを評価するか。これは乗り心地問題でプチ炎上したCX-60の時も似通った状態だったと言える。以前、日経ビジネス電子版で6回にわたる連載インタビュー記事を公開しているので、すでにこれから筆者が申し述べることを先刻ご存じの方もいらっしゃるかもしれないが、CX-60とCX-80は同じコンセプト、同じ素材(ラージプラットフォーム)で造られたクルマなので、今回は基本あのインタビューを踏襲した話であり、評価になる。
この突き上げはなぜ許されたのか?
筆者自身、最初にCX-60に乗った時、サスペンションの突き上げはすぐに感じた。なのでこの突き上げを軸にした評価において「乗り心地が悪い」とする世間の声は否定しない。言われる通りである。
ただし、ラージプラットフォームのサスペンション設計チームにはマツダのサスペンションマイスターとも言える「虫谷 泰典」さんがいる。日本屈指のサスペンションの権威でもある虫谷さんが、この突き上げに全く気づかずにラージを仕上げたとは考えられない。
端的に言えば、筆者が気づく程度の問題を気づかないことはあり得ない。筆者は疑うことなくそう信じている。なのでこう考えた。「突き上げを許容したのは、それ以外にもっと重要な何かを優先したからではないのか」。
という仮説に基づいて質問すると、虫谷さんは得たりとばかりに解説してくれた。これは極めて興味深い話なので、インタビューから要約して抜き出す。全文を読みたい方はリンク先の元記事を読んでいただきたい。元記事では発言の合間に技術的な用語や概念についての説明を加えてあるので、そちらの方がわかりやすいかもしれない。だが、いくら自分の記事とは言え過去記事をまるまるコピペはできないので、虫谷さんの発言に絞った上で、多少の調整を加えて抜き出している。
つまりラージプラットフォームの設計コンセプトは、人間の感性に抵触しかねない「ブッシュによるトー変化」を徹底的に排除することを第一義に考えられているということである。だからこのサスペンションにおけるトーコントロールリンクの役割は、「トーを変えるもの」ではなく「トーが動かないように支えるもの」だと言うことになる。
理想を言えば、ブッシュに明確な指向性を持たせ、縦の突き上げだけをいなしながら、横の変化はガンとして受け付けない。それがこのサスペンションの目指すところになる。言葉を変えて言えば、今までサスペンションの評価軸で重視されてこなかった「横揺れ」を中軸に据えて、それを徹底して排除する。コンセプトを突き詰めて言うとそうなる。
「突き上げよりも横揺れのほうが有害だ」
マツダは人間研究を進めた結果、「人間の目は歩行中の視界を確保するために歩行による縦揺れに耐えるように進化してきたが、歩行ではあまり発生しない横揺れには弱い」という研究結果を得た。筆者の印象としては、ここは少しだけ言い訳的でもある。本当のことを言えば動画カメラのジンバルの様に、一切揺れないことが望ましい。けれどもどちらかを選ばなければならないのならば横揺れの方が有害であり、それは身体疲労や乗り物酔いの原因である、とマツダは結論付けたのだ。
だから突き上げには多少目を瞑りつつ、横揺れをがっちり止めるサスペンションを造った。それは自動車の乗り心地評価に対する全く新しい指標であり、理論であった。
けれども、口下手なマツダは、ここまでの話を事前に説明することなく、CX-60の試乗会で我々にいきなりハンドルを握らせた。
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