ランクルを舐めたらいかんぜよ
3年ほど前に、ちょっと様子のおかしいEV信者がシェアした動画があって、思い出すと今でも腹立たしい。元動画をアップしたのはロシア人で、筆者の言うEV信者は日本人。ロシア人の動画をシェアして「重いSUVでも、EVはソフトウェアで何とでも制御出来る。ICE(内燃機関)車と斜面走破力を比較したこの動画を見ればEVの凄さが分かります」とまあ適当なことを拡散したのである。こちらが元動画のリンク(3分あたりから)だ。
なだらかな砂浜登坂で150系ランドクルーザープラドがスタックし、同じ場所をBYDのSUV「唐(Tang)」が、BEVならではのトラクションコントロールでスルスルと登っていく。
こんな坂でランクルがスタックするか?!
のだが、流石にこれはいくらなんでもありえない。本当にTangのオフロード性能がすごいのならランクルに勝ったっていいと思うが、嘘はいかん。そして、オフロードでランクルに少しでも乗ったことがある人なら、ランクルと名が付く全てのクルマが、そこらのモノコックボディにAWDシステムを搭載したなんちゃってオフロードに負けることがないのは常識だ。少なくとも筆者は悪路走破性能でBYDのクルマがランクルに勝つという話は、街のチンピラがアメリカ第1海兵師団と全面抗争して勝つくらいありえない話に聞こえる。ラノベだとしてもストーリーの出来が悪い。ところが真に受けているアホが結構いるので驚いた。
ランクルにとって児戯にも等しいシチュエーションでスタックするのがそもそも不思議だし、仮にスタックしたとしても、トランスファースイッチを「H4L(ハイスピード・4駆・デフロック)」に切り替えるだけでスルリと抜け出せるはずである。ちなみに通常時のモードは「H4F(ハイスピード・4駆・デフフリー)」。この他に極端な急登坂や岩登りで使う「L4L(ロースピード・4駆・デフロック)」がある。
それでまだダメなら「マルチテレインセレクト+クロールコントロール」を使う。これは路面状況に応じて5つのモードが用意されている(MUD&SAND/LOOSE ROCK/MOGUL/ROCK&DIRT/ROCK)。エンジン出力特性と、ブレーキの強さ、さらにはトラクションコントロール(TRC)の一部として、ブレーキを使った疑似LSD機能の強弱もモードごとに最適制御される。末弟とは言えプラドはランクル一族、何重にも脱出メソッドがあるのだ。
あの動画の裏を推測するに、わざわざ対角線のタイヤがはまる位置の砂を掘り、トランスファースイッチでタイヤが浮くと駆動力が抜ける「H4F」モードを選んで、意図的にスタックさせている、ということだろう。
プラドはこんな砂浜の坂よりもはるかに厳しい環境下で、ドライバーがどこにどう駆動力を掛けるかを選択できるようになっている。その機能を悪用し、不利な状況を作った不誠実なテストである。
なので、本当のところ150系プラドがどのくらいのところを走れるのか、それをご覧いただけるトヨタの公式動画がないものか探したのだけれど、ノーマル車両で急登坂のシチュエーションがなかなかない。仕方がないので個人が上げている動画を参照で貼っておく(こちら)。30°の斜面だが動画を見て「この程度の斜面?」と思う方は、スキーやスノボの体験を思い出していただきたい(おそらくこの連載の読者層なら多いハズ)。傾斜角度が30度もあれば、降りるほうからするともう「壁」だ。
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