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ジャガーのCIとType 00をどう見るか
英国発祥の高級車メーカー、ジャガーがCI(Corporate Identity)を行った。告知の動画にイーロン・マスクまでが突っ込みを入れているのはご存じの通りだ。話題作りとしては大成功というところだが、CIの狙いは、そして成功の見込みはどうなのか。現段階ではあまりに情報が限られているが、できる限り読み解いてみよう。
情報として唯一提供されているのは、12月3日にジャガーが発行した「Type 00」のプレスリリースだ。以下、逐語訳する。ちょっと意訳するのは筆者の癖なので見逃して欲しい。直訳の不自然な日本語が気持ち悪くてならないのだ。で、そこに解説を加えていく。
JAGUAR UNVEILS TYPE 00. UNMISTAKABLE. UNEXPECTED. DRAMATIC.
ジャガーはType 00を発表。紛れもなく予想外かつドラマチック。
まあここはキャッチなので軽く流しておこう。
Introducing an unmistakable, unexpected and dramatic physical manifestation of Jaguar, as the brand continues its transformation.
ブランドが変革し続ける中、ジャガーの紛れもない、予想外で、ドラマチックなデザインコンセプトを紹介します。
ブランドが変革し続けているのは、当たり前と言えば当たり前。何も変わらないなんてのは、旧東ドイツで33年間作り続けたトラバントや、2020年に清算された英国のブリストルくらい(ブリストルも最後にあがいたけれど)。ただジャガーはフォードのプレミアオートモーティブグループで再生があまり上手くいかず、リーマンショックの時にフォード本体の苦境によって手放され、インドの財閥、タタ・グループの傘下となった。
「ジャガーである意味」を失い続けてきた
ジャガーはセッティングの上手いメーカーで、不思議なことにインド資本になっても、乗るとちゃんと味わいはジャガーであり、ハンドリングも「セダンボディのスポーツカー」というジャガーらしさを色濃く残していた。
ただ残念ながら、世界中から愛された美しいボディシェイプは失われてしまった。ライバルたちに居住性で負けないために、アンダーボディもグリーンハウスも厚くなり(前回参照)、世の中に数多あるLセグサルーンの1台になって、ジャガーを選ぶ理由がなくなった。二兎を追うものなんとやらである。そういう意味ではプレスリリースの言う「変革」はほぼ失敗の歴史である。
で、プレスリリースの「紛れも無い」が指すのはジャガーらしさであり、「予想外」はつまり大胆なコンセプト変更をしないと座して死を待つことになるから大幅に変えるよ、という意味。ドラマチックはあんまり意味がなさそうである。誰かに「それはあなたの感想」と言われそうなヤツだと思う。
まあ要するに、ジャガーとしては伝統を守りつつ、大胆な変化をしなきゃならんという覚悟のほどを訴えている、ということだろう。
Jaguar is recapturing its original ethos to ‘Copy Nothing’. Following the debut of its bold new visual identity last month, the next step on its transformational journey has been revealed in the form of a distinctive design vision concept
ジャガーは「コピーナッシング」という創業以来の精神を取り戻そうとしている。先月、新しい大胆なビジュアルアイデンティティを発表した後、変革の旅の次のステップは、独特のデザインビジョンコンセプトの形で明らかにされた。
ここはブラックジョークに思える。そもそも創業時のジャガーは、日本のミツオカみたいな会社で、ルーツ・グループの大衆車「スタンダード」のコンポーネンツを用いて、ガワだけアストンマーチンのコピーのようなクルマを作り、“プアマンズアストン”としてスタートした会社。「コピーナッシング」と言われても返す言葉に困る。
「成り上がり」のなり振り構わぬ気概が魅力
ただし、それ以来ジャガーはそのスタイルに見合うように性能を上げていった。初期モデルの「XK120」の120は、最高速度120マイルという意味だ。そのくらい、デザインに対して性能が劣ることにコンプレックスがあったのだと思う。
後にジャガーはディムラーを買収して傘下に収める。ディムラーはドイツのダイムラーを英国に輸入することでスタートした会社で、やがてダイムラーのコンポーネンツを用いて独自のクルマを作るようになる。ドイツの高級車をルーツに持つディムラーは高級車としてのブランドを確立しており、そのディムラーを傘下に納め、顧客名簿を手に入れたことで、ジャガーの名前は高級車のブランドへと成り上がって行った。
元々はコピーカーの会社であり、いわば「足りずに生まれたもの」。そういう出自だからこそ革新の気概に満ちており、世界初のディスクブレーキやレースでの活躍など、足りないものは自ら補う、という努力で結果を出していった。叩き上げ、という意味では筆者はジャガーというブランドが好きである。そして「昔から上品な高級車だった」振りをするところも、ちょっと可愛いと思ったりする。
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