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A Midsummer Day Dream

 この原稿を書いている今、世の中はすっかりお盆で夏休み。東京から人がいなくなって、商店街もスーパーもいつもの人出の半分程度。仕事の電話もメールも来ないので、存分に原稿を書いている。いつもの夏である。圧力を感じるほどまばゆく白い強い日差しはさながら白日夢の様だ。だったらこの際、夢物語を書いてしまうかと。長らく「いつかはと思いつつ果たせていないリターンライダー」の妄想を書いてみよう。

 本当に本当におかげさまをもって、有料noteは好調である。noteより以前から各所に原稿料の値上げ要請をしていた上に発注がどんどん増えたので、有料noteと合わせて、筆者の貧乏が瞬時に吹き飛んだ。まだnoteの方は実際の入金が始まっていない皮算用にも関わらず、原稿料とセミナーの入金だけでも「あれ、なんか口座に見慣れない金額がある。こんな景色は見たことがない」という状態だ。noteの売上が入ってきてこのまま続けば……と、妄想が自在にできる環境がセットされたのである。

 さて、タイトルをどうしたものか? どうせ書くのは妄想、この季節と絡めて『真夏の夜の夢』はかなりいい感じだが、テーマ的に夜じゃない。が、しかし、日本語としてあんまり「昼の夢」とは言わない。それを言うならさっき出てきた「白日夢」なんだけど『真夏の白日夢』だと、もう原型がわからない。ということで原題の『A Midsummer Night's Dream』をもじってこういうタイトルにしてみた。

欲望と妄想に我を忘れてみる

 シェイクスピアの『真夏の夜の夢』は、欧州のメイポール(五月祭)を下敷きにした喜劇だ。心を寄せる恋人を諦めて親の決めた男と結婚するか、父親に刃向かった廉で死刑を選ぶかを突きつけられたアテネの上流階級の娘ハーミアは、与えられた4日間の猶予に恋人と共に森へと駆け落ちする。メイポールとはそもそも夜の無礼講。森の奥で「秘密」が行われる。日本の夏祭りとかもそうだが、古くは性的モラルのチート日みたいなことが世の東西を問わず共通にあったようなのだ。

 で、そういうインモラルな行動を他責的に処理する必要があってか、メイポールの前夜は、ヴァルプルギスの夜と言われ、魔女が集うだの妖精の力が強まるだのと言われる。そんなやっかいなタイミングの森へ、逃避行カップルだけでなく、2人を追って親の言いつけでハーミアが結婚させられそうになっている相手の男をはじめ、いろんな関係者が次々とやってきてしまう。

 そういう関係者の瞼に、この物語のトリックスターである妖精王が花の汁から作った媚薬を塗りまくる。この薬の効果は、薬を塗られた後、最初に見た相手に惚れてしまうこと。愛の逃避行カップルとその追跡者がめちゃくちゃな多角恋愛に陥る物語だ。

 いやいや、10年以上にわたり金銭的事情により、クルマも持たずに物欲を封じてきた筆者が、突然の収入増という媚薬を瞼に塗られ、見るものを次々と欲しくなっていく喜劇には申し分ないタイトルではないか。すでにロードスターRFが欲しいと公言しているわけだが、一度ブレーキをリリースすると歯止めが効かない。

日本のバイク大ブームを経験して

 筆者は1965年1月の生まれで、まさにバイクの大ブーム時代のど真ん中にいた。1979年、中学3年生の時「カワサキZ400FX」がデビューし、1980年の高校1年の夏にはヤマハ「RZ250」の発売。1979年から1983年までがあのHY戦争。バイク黄金時代の幕開けにシンクロして免許年齢を迎えたのである。

 にしても変わり者の筆者が高校2年生で最初に買ったバイクはカワサキ「AE50」。ロードスポーツ「AR50」の7.2馬力エンジンを積んだエンデューロ風のオフロード車である。その後ホンダ「VF400F」を増車し、免許取り消しになった友人のホンダ「XL250R」を半分自分のものにしつつバイク生活を送ったのである。このXL250Rは良かった。

XL250R。発売は1981年11月20日(写真:ホンダ)

 あ、そうだ。買ったわけでもなく、なんとなく乗り回していたバイクは他にもある。池上本門寺で坊さんになるべく修行中の別の友人がホンダ「NS250F」を寺領に隠し持っているのがバレて「今日すぐに撤去しないとヤバい。タダでいいから持って行ってくれ」と泣きつかれて数年持っていた。

ホンダNS250F。1984年4月25日発売(写真:ホンダ)

 それと世代的に試験場で大型二輪免許を取るしかなかったのだが、頑張った甲斐あって、地主で裕福な友人の親父さんからモトグッツィの「カルフォルニアII」を「全然動かしてないから俺の代わりにたまに走らせてくれ」と言われて役得とばかりにちょいちょい借り受けていたこともあった。

 しかし、クルマを持つようになると自然とバイクから遠ざかり、手持ちのバイクも次々と人にあげてしまって、今手元にあるのは150ccのスクーター、スズキ「アヴェニス」だけである(2007年に生産終了。同名の現行モデルとは異なる)。と来歴をざっと記したところで、長らくバイクの情報からも離れ、浦島太郎と成り果てたジジイが昨今のバイク事情をイチから学び直す物語が始まるのである。

アドベンチャースクーターに食指が動く

 以前、仕事の原稿書きのために各社のリリースをチェックしていたら、ホンダの新型車発表のリリースを見て「おっ? これは」と引っかかったのが「X-ADV」。調べると2017年のデビューだから、あれからもう7年も経っているのか。いわゆるナナハンのスクーターで、DCTの自動変速トランスミッションを持つ2気筒のアドベンチャースクーターというあまり類例のないモデル。AE50でバイクデビューした筆者らしく妙なものに引っかかる。

ホンダ X-ADV(写真:ホンダ)

 ちなみに筆者同様に最新のバイク事情に疎い人に向けて解説しておくと、アドベンチャーとは、積載性に優れたツアラーバイク(旅バイク)ジャンルの中で、特にオンオフ両用の性能を加味したモデル。高速道路を楽に長距離移動でき、未舗装の砂利道程度なら走り抜けられる。走れるといっても、コブをポンポンとジャンプするモトクロッサーのようなオフロードでの機動性は一般的には持たない。今の売れ筋ジャンルである。

 どうせ今さら峠道を攻めるようなことはしないし、悪路をぶっ飛ばして、ショックを全部足の曲げ伸ばしで吸収してみせるような体力などあるわけがない。昔と違ってそもそも公道でそういう無茶をする世相でもないだろう。

バイク旅をしながら原稿を書いて暮らしたい

 筆者の場合、元々二輪に関してはバイクも自転車も旅志向。自転車で言えばランドナーが欲しい人だ。だから日本全国を旅ガラスしながら原稿を書くノマド生活が夢だったりする。つまり飛ばせなくてもいいのだが、高速での長距離移動が楽なことは必須。100km/h巡航で高回転を余儀なくされる250ccでは辛い。まあ普通に考えてミドルクラスかその上、つまり600cc以上になる。

 高速を降りてからも田舎道を気楽安楽に走り回りたいので、多少の未舗装路でも行けてしまうX-ADVは妄想が捗るのである。

 価格を見ると132万円。まあ今時この排気量クラスとしては安くはないが、高くもない。昨今の750クラスはリーズナブルなモデルでも大体100万円から。排ガス規制の影響で125ccクラスになったホンダの「カブ」シリーズや「モンキー」を買おうとしたって、今や40万円は必要な時代である。

 いつか金回りがよくなったらと漠然とリターンライダーになるつもりでいたが、年が明けると還暦。もう一度バイクに乗るならそろそろ限界である。すでに限界を過ぎているという説もあるが、このままバイクに乗りたい気持ちを成仏させずに自然消滅というのも気持ちが悪いではないか。

スズキの「V-STROM」もいいじゃないか

 そんなタイミングで、幸か不幸か少々金回りが改善してきた。で、ちょくちょくバイクの情報を拾って見ているうちに気になってきたのが、スズキの「V-STROM(Vストローム)」。排気量そのものがツアラーに向かない250はともかく、大型だけでも650、650XT、800、800DE、1050、1050DEとある。こんなにバリエーションが多いのは、今やスズキの二輪で主力級のヒットモデルだからだ。

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