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「らくちん!キャバリエ~」で学ぶ日本市場の特異な性格


 大手メディアは……、という書き出しでもう何となく先が読めてしまうだろうが、本当に彼らの「日本をディスりたい」欲求には強烈なものがある。精度の低い理論や別の業界の事例を借りて、大げさな危機感と悲壮な終末感を振り撒き、日本メーカーの不作為をなじる。

 そして予想を外したことには訂正どころか反省もなく、新たなストーリーを探してきて「日本はもうお終いだ」を終わらない変奏曲のように鳴らし続けるのである。キャッチーな記事が作りたいのはわからないではないが、こうしたオールドメディアの山賊行為によって、多くの自動車メーカーが「PBR1倍割れ」問題に見舞われて来た。これは報道による実害と言っていいだろう。

 その大手メディアは、ちょっと前まで、「日本は電気自動車(バッテリーEV、以下BEV)に出遅れて黒船テスラに占領される。目を覚ませ」と大騒ぎだった。その間、筆者はずっと「そんなこたぁない」と主張してきた。

日本の自動車市場の国産車の強さは異常

 そもそも日本の自動車マーケットは歴史的に国産車が強い。異様な強さと言ってもいいくらいで、世界的に見ても、輸入車がこんなに売れない国は類例がない。「輸入車の墓場」と呼ぶ人もいる。

 自動車は工業インフラが発達していない国では造れない。造れること自体が高い工業力の証左なのだ。わずかでも自動車を生産している国は世界の国々の中でも上位25%。100万台以上を作っているのはわずか18カ国で10%に満たない。その選ばれし国々の中でも、日本は異例中の異例の、輸入車を撥ね退ける市場を持つ国なのだ。

 これは過去から連綿と続いている話で、輸入車のシェアは、バブルの絶頂期に一瞬10%に届いた程度で、自動車輸出の覇者、ドイツのプレミアム御三家(ベンツ、BMW、アウディ)が、Bセグメントに進出してまで攻勢をかけても微塵も揺らがなかった。

 他の自動車生産国にしてみれば「非対称貿易だ」と騒ぎたい気持ちもわかるが、日本マーケットの場合、何か輸入車に不利な政策が敷かれているわけでもなし、純粋にユーザーの選択なのでどうにも手の打ちようがない。

 強いて言えば左側通行がそれに当たるかもしれないが、左側通行の宗主国たる英国ではすでに民族系ブランドがほぼ絶えてしまった。オーストラリアに至っては生産工場もサプライヤーも全部撤退済みで自動車の純輸入国である。左側通行が自国自動車産業保護の切り札にはならないことは歴史的に証明済みなのだ。

 「ウィンブルドン現象」という言葉がある。英国の経済自由化と、それに伴う自国産業の敗退、そしてそれと対になる外資による席巻を表す経済用語だ。ウィンブルドン現象については、日本でも家電はかなりそうなっていると思うが、こと自動車に関しては、すでに述べた通り、世界で最も堅固な市場である。

 もちろん人口が多く、国内販売がピークで3000万台超えを記録したこともある中国は、現在ダントツの自動車生産国であり、マークしておく必要はある。しかし、日本市場を中国メーカーのクルマがいきなり席巻する、といわれると、与太話にしか聞こえない。そんな事態はなかなか考えにくい。

 しかも過去に何度も説明してきた通り、EVシフトそのものが原材料の確保からも、経路充電の採算事業化の面からも課題が山盛りである。BEVが普及すると言っても当面グローバル平均で2割にも届かない。ということは残り8割は内燃機関付きになる。内燃機関でアドバンテージを取られたのならまだしも、BEVの優位でひっくり返すと言われたってそのBEVのシェアが全体の2割もない。仮にBEVの領域でシェアを半分持っていかれるくらいの大敗をしても、10%以下の話ではないか。どこが日本経済終了の危機なのか小一時間問い詰めたい。

かつて日米自動車摩擦ありけり

 いい機会なので、日本の自動車市場の歴史的背景をもう少し振り返ってみよう。

 古くは日米自動車摩擦の頃、米政府は、日米の貿易不均衡に対して、不公平だと不満を顕にし、「米国製のクルマを買え」と散々日本を脅した。実態として見れば、むしろ不公平な関税を掛けているのは米国の側であり、日本からの輸入には、乗用車カテゴリーで2.5%、トラックに至ってはかなり非常識な水準である25%もの関税を今に至るまで掛けている。対して米国から日本への自動車関税は完全にゼロのノーガードである。ただし、日米自動車摩擦の当時は、部品にはまだ関税がかかっていた。

出所:日本自動車工業会ホームページ

 このまま不公平と言い募ると、関税の話になって藪蛇なことを理解した米政府は、新たに「非関税障壁」なる言葉を発明して追及を始める。その一つとして「日本のメーカー系列専売制ディーラーの販売店制度に問題がある」と大騒ぎした。

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