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【new!】スズキの「新・中計」に見る脱・カリスマの成功例とワクワクする未来

 2月20日。スズキは都内で新・中期経営計画(中経)を発表した。(冒頭写真はスズキの発表会より)

 これが凄かった。

 筆者が今まで見てきた中経は、たいていが概念や方針を示すものだ。典型的な従来型中経がどんなものだったかと言えば、5年程度先の未来に向けて、例えば「全体としてビジネスの中心を北米にシフトしていく。そのためには北米攻略モデルがいるので、それらをこういうスケジュールで、かつこういう技術を投入していく」みたいな、ざっくりとしたビジネス的現状理解と、それを反映しての概略的ストーリーとスケジュールを示すものであった。

 念のために断っておくが、こういう中経がダメだと言っているのではない。これはこれでとてもわかりやすく、特に記事展開のし易さにおいては、書く側からすればとてもウエルカムと言える。

これはもしかして手順書か?!

 ところがスズキの新・中経は、もう圧倒的に具体的。むしろ事業の手順書のように書かれている。1ミリたりとも“キラキラ成分”がないばかりか、ふんわり感も皆無。図やイメージもほぼなく、あってもせいぜい表組で、圧倒的な文字量のテキストで全体が構成されている。手順書という例えでわかりにくければ、ジムでインストラクターが作ってくれる筋トレメニュー。ひたすらやるべきことが書かれている。中経っぽくない。

 まずはスズキがこの数年何をしてきたかから始まる。スズキは2021年以降、稀代のカリスマだった鈴木修元会長を頂点にいただく体制から、鈴木俊宏社長を中心とした集団指導体制へとシフトしてきた。それはかなり成功したように見える。

 修氏はこれまで何度も「第一線から引く」宣言をしてきたが、その度辛抱しきれず前線に戻ってきた。なので側(はた)からみると、事業継承の失敗例に見えることすらあった。筆者もその当時、全体としては順風満帆に見えるスズキの経営を、誰がどう継承するのかが唯一にして最大リスクだと認識していた。


 まあ置かれた状況も予断を許さなかった。協業を始めたフォルクスワーゲンが、手のひら返しで敵対的買収によってスズキを乗っ取ろうとした件では、当時会長兼社長だった修氏は高齢を顧みず憤怒の激闘を繰り広げ、裁判を戦い、フォルクスワーゲンが保有するスズキ株1億1161万株の合理的な金額での買い戻しに加え、金額非公表ながらおそらくは莫大な違約金を払ってまで手切れを断行した。

鈴木修氏が豊田章男氏に放った衝撃の言葉

 しかも実はその闘争の最中から、トヨタとの次の提携を模索していたと言う。そういうスズキブランド存続の危機の直後でもあった故だろう、修会長は15年に後継者に任命したはずの俊宏社長の仕事ぶりをぼやいた。

 面と向かってぼやかれて驚いたのは、豊田章男トヨタ自動車社長(当時)だ。「修さん、あなたまさか他の人の前で、息子さんのことをボヤいたりしてないですよね」と確認すると、悪びれもせず「やっている」と。慌てた豊田社長は「いやいや、それはダメだ。俊宏さん以外に誰が後を継げるんですか」と半ば嗜める口調で言うと、修会長から衝撃的な言葉が返ってきた。

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