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ストレージボックス発売記念特別インタビュー:レコードイラストレーター$HOW5 × Face Records
2021年11月27日、「レコードの日」として盛り上がりを見せるその日。Face Recordsはレコードイラストレーターとして活躍する$HOW5さんがデザインを手掛けたストレージボックスを発売します。渋谷のFace Records ShibuyaとFace Records Miyashita Park、下北沢にあるGeneral Record Store、そしてオフィシャルWEBストアにてオーダーが可能。初心者だけでなくコレクターも納得するその素晴らしい機能性のほか、レコード好きの心をくすぐる魅力的なデザインを装いました。
今回はそのストレージボックスに命を吹き込んだとも言える$HOW5さんへのインタビューを実施。発売日が迫るなか、デザインの構想が浮かぶまで、またご自身のレコードにまつわる思い出話を伺いました。
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Q. レコードイラストレーターとはなかなか聞き慣れません。いつから、どのような経緯でこの肩書きを使うことに?
皆さんよくアーティストという言葉を使うと思うのですが、僕には曖昧で誤魔化した言葉に感じます。よく分からないものは全部アーティストにしておこうみたいな。それなら、はっきりと分からないことを言ってしまった方が本当なのかなと。だから初めて見るような肩書が良くて、いつからかは忘れましたがコレにしました。誰もやっていないようなことが好きなんです。
ー 元々レコードを描いていたのですか?
大学生の時はバイトもせずに、家で親のレコードを聴くだけで一日が終わっていました。「あ、これDJプレミアだ」「ピート・ロックのネタだ」とかそんなことで一日が終わってしまっていたんです。「オレは(このままで)マジで大丈夫か?」と考えていました。(笑)
怒られないようにレコードをこっそり聴いていたんですね、親が仕事行っている間に。それでも良い音楽は自分のストックが欲しいから音源をテープに録音して、レコードジャケットの絵も描いて自分の物として持っていました。
大学の授業も最初は面白くありませんでした。でもデザインの仕事がしたいから、98年からFRONTとかWOOFIN’でMUROさんやDEV LARGEさんが紹介するレコードを家から探し出して絵を描くということをずっとしていたのが最初です。ファンキーなレコードを聴きながら絵を描いて、最大限に時代感やアートフォームを吸収することで”自分が何かをやった”という達成感がありました。
Q. DJの感覚を生かしながらレコードに関する作品を制作されています。DJとイラストレーター、それぞれの活動は互いにどのような影響がありますか?
母親が図工の先生で画材は家にあったので、どんどん描いて気付けば100枚。制作を繰り返し過ぎて音は見えるようになり、絵は聴こえるように。描くこともDJ MIXするような感覚になって、「次はこれを描いてみたいな」と思うように。僕にとっては描くこともDJも身体の内側から飛べる快楽があり同じような行為なんです。
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ー ジャケットのデザインと音楽がリンクするのでしょうか?
レコードを買う人はみな内容を知る前にジャケットを見てから聴くので、「これはヤバそうな音楽だ」と試聴機で聴きますよね。意識の度合いが違うだけで、その感覚は誰もが持っていると思います。もちろんハズレも含みますし、当時の“邦題”の様なズレも楽しみます。※つまり 正解かどうかという様な思考はあまり重要ではありません。自分が当時の妄想や想像がしっかり出来ているかが重要なんです。
※可笑しな邦題の一例として、米国のラッパーKurtis Blowが1980年(昭和55年)に発表した同名の1stアルバムがある。当時はまだヒップホップが一般的ではなく、ラップ=喋ると訳され、『おしゃべりカーティス/メロウなおしゃべり』という名で日本国内盤レコードが発売された
Q. レコードボックスが完成するまでのエピソード・逸話などありますか?また、Face Recordsの2店舗が載った素敵なボックスに仕上がりましたが、最終的にこのデザインに行き着いた経緯は?
以前からニューヨークの街やお店、景色を描くのが好きでした。人々が新しいものを作り上げてきた壮大な歴史を感じる顔のように思えるからです。今回のレコードボックスは、7インチ・12インチレコードを通じてニューヨークと東京を行き来するような僕の妄想を表現しました。
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ー デザインのイメージはすぐに出来ましたか?
はい。ロゴのベースをレコードのように描いたもの、大好きなFace Records初期のショッパーのデザイン、ボックスは 立体なのでお店のミニチュアのようなイメージ。デザインはこの3つが思い浮かびました。
昔、Face Recordsにはスタンプカードというか、会員カードがあったのですがそのデザインがまた格好良かった。それまではどのショップも古書店のようなものしかなかったので、そのカードを見て「東京や!」と思いましたよ。僕が特によくFace Recordsに行っていたのは今の場所に移る前で、まだ雑居ビルに入っていた時。7inch関係の木製グッズもあり、(デザインにこだわりを持つレコード屋としては)それまでにない初めてのショップでした。
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Q. ストレージボックスが完成しましたが、$HOW5さんの個人的な推しポイント、アピールポイントを教えて下さい
当時の書店的なレコード屋さんと同じように、僕の父親も専用のレコードボックスを買うことはありませんでした。レコードを入れる段ボール箱も、スーパーマーケットによくある物で「スイカが入るこの箱が7インチとちょうどのサイズだ」とか父親は全部把握していました。「今日はコレとコレだ」と言われて、持って帰るのは嫌だなと思っていましたね。(笑)
だからこそ、Face Recordsとのコラボレーションの話しが上がって「こんなシーンを待っていたぜ!」と、父親に言いたいと思いました。当時は無かったから。
可愛らしい感じを出したかったので、完成するまでFTFの担当者とともにカラー出力の事など印刷業者に細かく質問攻めしました。
ー 実際に使ってみてどうですか?
想像以上に使いやすいです!7インチのボックスは良い具合にレコードが倒れないし、思っているよりも枚数が入る。12インチ箱は上部に折り返しがあることでレコードの出し入れがしやすい。1個でも存在感があるし、重ねてもお洒落。持ち手の厚みも良いですね。アンディ・ウォーホルの作品の様に出来るだけたくさん並べてみたいです。
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Q. 今回、「Buy-Sell-Trade」というアナログレコードが世界を循環する様子をロゴを印象的に使って表現して下さいました。ご自身もレコードディガーである$HOW5さんにとって「思い出深いレコードとの出会い」はありますか?
父親がソウルのファンジン(同人誌)を作っているレコードコレクターで、3万枚くらいのレコードが家にはありました。思春期で何もかもが通じない親子を繋いでいたのがレコード。絵だけで大学に行きたい僕と、数学の教師をしていた父親とは進路や考え方に大きなズレがありました。喧嘩に巻き込まれて停学になったことも。でも、レコードが親子の会話を繋いでくれたんです。僕が大好きになったヒップホップ。でも、そのサンプリングネタは父親が聴いているレコードだったんです。
会社でもパンク課長にパンクやニューウェーブについて質問攻めして仲良くなれたし、外国人の接待では真っ先にJames Brownの「Sex Machine」をキャメルウォークしてイントロから歌えばだいたい仲良くなれました。僕は運良く、レコードや音楽でやっと社会に馴染めたんです。
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Q. いろんなDJの方ともコラボされていますね。忘れ難いエピソードがあれば教えて下さい
父親がいつも聴いていたThe Dramaticsの「In The Rain」のイントロはBUDDHA BRAND、DEV LARGEさんの楽曲「Funky Methodist」のネタで、聴いたときは思わず一瞬で耳を奪われました。後にDEV LARGEさんとお話したときに、なぜソウルやファンクが好きになったのかと聞かれたのです。どうして君はこういう音楽が好きなったのかと。「親父がファンジンを書いていたんです。マニアックで分からないと思うのですが」と名前を言ったら、『その雑誌を読んだことがある』と深く頷かれた姿を忘れられません。レコードによって壮大な時間、時空を越えて分かる人には分かる、素晴らしい作品が人を繋いでいるのだなと感動しました。
Q. 一度レコードをディグってみたい国があれば教えて下さい
ニューヨークのFace Recordsに行って、偶然和物を掘っているThe AlchemistやDaringerに会ってみたいです。
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Q. 2000年代初頭にFace Recordsにも来ていただいていたそうですね。$HOW5さんの目から見て、渋谷の音楽文化はどのように変わりましたか?
昔は店頭から欲しいレコードが売れてなくなるのが嫌で、試聴できない店もあったので取り敢えず買っていました。今は手当たり次第にレコードを買うのはやめて、本当に必要なレコードかどうか、ストリーミングでよく聴いてから買うべきか考ることができるようになりました。(笑) 今の若い世代がスマホやPC、SNSでコミュニケーションをしていることを、当時の僕たちはクラブやレコード屋という現実世界でしていたと思うとゾッとするし、ワクワクもします。
でも、今は凄いと思います。ヒップホップ好きな女の子がInstagramのストーリーでマニアックな曲をかけて踊っている。「お、こんなトラップ知ってるの?」みたいな。今は時間さえあればネットでディグることが出来ますね。
ー 今は発売前に音楽を聴くこともできます。昔はレコードを買う時に蓋を開けないと分からないワクワク感がありましたね
ワクワク感と騙された感がありました。「先輩が良いっていうからシールド(未開封品レコード)で買ったのに」ということが昔はあったのに今はない。(笑)
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ー 今はネットに情報があるから、レコードを選んで買えるようになりました。そのため、良い意味でも悪い意味でも損をするという事があまり無くなりました。期待外れもないし、期待以上もない
良いレコードだと思って買って失敗する経験があるからこそ、逆に感動する経験もあった。今は良い作品が明らかに多いのに、何故か昔より感動が少ない気がします。(ストリーミング等で)簡単に聴ける音楽作品が世の中に沢山あり過ぎるから、有り難みがなくなってしまったのでしょうか。
Q. 現在10代、20代でレコードを掘ってる方が世界的に増えているようです。そのような若いディガーに向けて伝えたい事はありますか?
難しいですね。皆が各々自由なので邪魔したくはない気持ちです。
Q. ズバリ、レコード屋に期待することは?
レコードカルチャーを中心にDJやアーティストを巻き込んだポップアップやイベント、選曲リストなど色々なコラボレーションの動きがあっても面白いと思います。東京にはDJも多くいるし面白いラジオも沢山あります。これからはレコードを聴ける環境全体が売り物としてのサービスになってゆくのかなと期待しています。
Q. 最近よく聴くレコードを教えて下さい
吉田美奈子さんの『扉の冬』です。細野晴臣さんのBASSが好きなので、特にYMO以前にBASSで参加されていた曲を探して聴いています。
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Q. ご自身のコレクションの中で、無人島に持って行きたいレコードを3枚選んでください
James Brown『It’s A New Day So Let A Man Come In』、Bob James『One』、Bobby Brown『Every Little Step』の3枚。結局は Bob / James / Brownの3人かなと思います。
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Q. 今、手に入れたい or 狙っているレコードは?
オノ セイゲンが「コム デ ギャルソン」ショーのために作曲した音源集『Comme Des Garçons』です。オノ セイゲンのアルバムはCDでは持っているのですが、レコードではまず見かけない。川久保玲さんから“まだ聴いたことがない音”というリクエストを受け制作したと聞いています。ジャケットのグラフィックも素晴らしいです。
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$HOW5さんへのインタビューは笑顔も絶えず、穏やかな雰囲気のなか行われました。レコードへの情熱と愛情が、言葉の端々からひしひしと伝わってきます。その溢れんばかりのレコード愛はまさにFace Recordsとシンクロするところ。音楽と人の記憶が詰まったレコードが、こうして一人のデザイナーとレコード屋を繋ぎ合わせたのです。
2021年11月27日、「レコードの日」。世界中のレコード好きのために、たっぷりの愛とレコードが入る、特別なストレージボックスをFace Recordsがご用意します。レコードを愛してやまない方は是非お見逃しなく。
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【$HOW5 (テガキ)】
「レコードイラストレーター」。
大阪・京都・東京などでDJとして活動。その感覚を生かしながらレコードのイラストを描く。
1998年にレコードジャケットをテガキしたカセットテープ作品を100枚以上、続けてCDRにも200枚以上制作。それらの作品をinstagramにアップしたところFACT(UK)、Ego trip(NY)、スチャダラ通信、TheTrilogyTapesなどのメディアに次々と紹介される。
初個展の開催の際には、SHINCO氏(スチャダラパー)、 D.L氏(ブッダブランド)、 DJ旗本退屈男氏がサポートDJを行った。
また、アストアロボット、Firekingcafeでの個展開催や、水谷光孝著 『Wassup!NYC ニューヨークヒップホップガイド』の挿絵制作、ロボ宙さんのカセットテープ、the Apartment 11th Tシャツのイラスト製作のほか、最近はDOMMUNEのブートレグ特集にトークとDJとして出演。雑誌POPEYE映画特集の見開きイラストを担当するなど活躍中。
instagram : show5_original
blog page : https://b.houyhnhnm.jp/tegaki/
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