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「ITガラパゴス:無知の壁・無知の罪」

基本技術の完全空洞化

「ITガラパゴスの日本」で書いたように、業務処理のコンピュータ化において、時差を克服する必要がなかった日本では、ノーマライズされたリレーショナルデータベースを中心としたオンラインリアルタイムで動作するソフトウェアを必要としなかったために、ビジネスプロセスリデザイン(BPR)、データモデリング、オブジェクト指向設計などは一過性のものとして関心から消えて行ってしまったこと。

また、「ITガラパゴスのもう一つの要因」に書いたように、コンピュータサイエンスに全く関心をもたず、中身の見えないコスト扱いにした大半の経営者や、正しい情報を経営者にインプットできない、わかったふりをしていただけの情報システム部門のマネージャーたちによって、技術やノウハウが完全に空洞化してしまい、いまや、下請け孫請けであれ、もはや各種の業務を実際に行っている現場の作業者も、技術者ではなくただの作業者になってしまっています。

本来、カスタムメイドであれ、出来合いのパッケージ利用であれ、ノーマライズできていないバラバラなデータベース(参照整合性が確保できないテーブル群)とそれを取り巻くプログラムで構成されたソフトウェアの開発生産性、維持運用の生産性は劇的に悪くなるのは自明であり、論理空間認識・設計に必須である、ノーマライズしたデータモデル、ノーマライズしたプロセスモデルを作成するための概念やスキルは、業務で利用する企業にとっても、パッケージを開発して提供する企業にとっても極めて重要であるはずですが、とてつもなく残念なことに、日本のITやDXのほとんどの関係者は関心すら持てていないという驚くべき惨状になっています。

無知の壁

論理設計と物理設計の乖離

1980年代から1990年代初頭くらいの十数年間は、情報化の裾野の拡がりもあって、開発や運用の生産性向上という課題解決のために、ノーマライズされたデータモデリングに盛んに取り組んだ企業もあったと思います。しかし、実装先のリレーショナルデータベースシステムが大きなリソースを必要としたことや、機能的に未完成だったこともあって、ノーマライズしたデータモデルをそのまま実装することができなかったことによって、論理設計と物理設計の間の乖離がありました。

そのために、物理設計と構築を担うエンジニアからすると、使えない、意味がない、中途半端という意見が蔓延したことも、データモデリングをエンジニアの基礎スキル化していく障害にもなりました。

1990年代の後半には、その乖離もなくなったのですが、その時にはERPやパッケージソフト活用の時代に移っており、カスタムメイドでは、ERPやパッケージソフトの外付けシステムに位置づけられるソフトウェアとなり、設計のやり方や作り方への関心は急激に失われていきました。

ブラックボックス化から無知の壁へ

そして、外付けシステムをカスタムメイドで作ろうがどうであれ、見た目の良さや使い勝手だけが注目されるようになり、ソフトウェアのブラックボックス化が進み、ベンダーへの丸投げが典型的な業務スタイルとなり、そのベンダーにおいても、いまやER図を読める人すらいなくなってしまっている可能性が充分あると考えています。

つまり、恐ろしくも、もはや誰も意識されず知らないものになってしまったで、気づく人すらいないという論理空間に対する無知の壁がそびえたってしまっているというのです。

DXに必須の論理空間認識・設計ができる人探し

DXは、世界中に張り巡らされた高速ネットワークとそれに繋がる高性能コンピュータ機器によって作られた論理空間をデジタル空間と呼び、私たちが暮らしている物理空間における様々な制約を受けないデジタル空間に物理制約を受けない形で企業活動をデジタル化(漏れなくダブりなく(MECEに)ノーマライズされたソフトウェア化)して動作可能な状態にし、新たな競争優位を作り出して行こうという変革ですが、そのためには、論理空間認識・設計ができる人がメンバーとして必須です。

しかし、どんなに探しても、その象徴スキルたるデータモデリングができる人がひとりも市場に出てこない(当然ノーマライズしたソフトウェアの設計ができる人はいるわけもない)というのが、まるで無知の壁の存在を証明しているようで、探せばどこかにいるのではないかという淡い期待は脆くも崩れさりました。

無知の罪

そして、「無知の罪」とまで言及すべきかどうか、やや迷いましたが、もはやそう言わざるを得ない、待ったなしの状況だと思います。

とあるシステム開発案件の杜撰すぎる設計書

ここでひとつ典型的とも言える残念な事例です。

先日、優れたコンテンツを整ったデータベースに格納し活用する機能が全てと言っても過言でないシステム開発案件の設計内容の是非について意見交換を行う機会があったのですが、業界ではそれなりに名のある受託ベンダーから提出された設計書の一部であるER図をみて愕然としたのです。

ER図の体をしているだけで、少しでもわかる人間なら、ひとめでおかしいとわかるレベルの設計になっているのです。大袈裟でなく全てが間違っていると言っても過言でない醜悪とも言えるレベルの、あまり杜撰な設計書がベンダーの公式成果物として出てくるようになってしまっているという現実がそこにありました。

そしてデータモデリングができる人をいくら探しても出てこないことと符合します。

システム開発・維持運用の現場で起こっていること

まともなデータモデリングなしに作られた、参照整合性が確保されないバラバラなテーブルは、以下のような問題を引き起こします。

  • 複雑なプログラム仕様

  • 著しいプログラムコーディング量の増加

  • テストカバレッジを確保するためのテスト条件の増加

  • プログラムエラーの多発

  • バグ解析作業とプログラム改修作業の増加

  • プログラム改修時の影響範囲調査作業の増加

  • プログラム改修時の影響範囲の拡大

  • プログラム改修必要期間の拡大

そして、一括請負の場合には、予算と納期を守るための作業負荷の増大(⇒過労/離脱/離脱連鎖)が経験値として蓄積されるために、請負見積額の増大、準委任の場合には、予算超過/納期延長、維持コストの増大をもたらすことになります。そして、

得をするのは

  • 請負ボリュームが増えて大儲けする元請けのITベンダー

  • 丸投げで楽して仕事したことになる委託元の発注担当者

損をするのは

  • よくわからないままに本来払わなくてもいいお金が出ていく委託元の経営者や株主(気づいていない)

  • 心身を削りとられるだけで、生活のための給料を得る以外、技術者としての成長も得られないばかりか、人生の時間も健康も失う、実際の作業を行う下請会社の作業者(そんなもんだと諦めている)

もはや無知は罪である

もはや知らないでは済まされないことを、日本のCDOやCIOはもちろん経営者、IT部門、ITベンダーは自覚すべきであり、日本のユーザー企業とITベンダーなどのサービス提供企業全体として、この問題に取り組んで欲しいと思います。日本の産業競争力を毀損している重要要因の一つであることは間違いありません。

例えば、米国や日本以外の国では10億円で導入できるSAPが、日本だと100億円かかるというのが、本当に日本独自の慣習によるものだと本気で思っているんですか?

データモデリングに象徴される論理空間認識・設計能力があれば、SAPなどERPやパッケージソフトの構造を容易く理解できるし、上手に業務設計ができるでしょう。
システムコンサルタントと称する人も、単価に相応しいサービスを提供することができ、日本の産業競争力も日本以外の国とベースを揃えることができます。

少なくとも今のような状態でDXなんてちゃんちゃらおかしい。茶番にしかみえません。このことがわかっていない状態、見て見ぬふりをしている状態でDXを語るのは本当にやめたほうがいい。一銭も使うべきではありません。

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