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#10 おいしい水道水は、原水と浄水場のタイプに左右される

おいしい水の大きな要素である臭いについて前の章まで書いて来ましたが、
一般的には、味としてわかりやすいのは硬度ではないでしょうか。



おいしい水の深い話

日本では軟水地域と硬水の地域が分かれます。
これは、水道水は原水によってその性質が変わることを意味しています。

日本の国土は狭く傾斜が急な山々に囲まれ、
山のふもとから海が近い場所がたくさんあります。
そのため、雨が地層の中に滞留する時間が短く、
水に溶け込むミネラルの量が少なくなるからです。(欧米はその逆)

また、その地域に石灰岩の地層があれば、硬度が上がるので
県ごとの水道水の味わいが違ってきます。
これは、おいしいのか・そうでないのかというより、
県ごとの特色として考えておきたいです。

標高と河口からの距離
東京大学 堀まゆみ 特任助教 研究データーより



山あいの地域の水はうまい! 当然、それも水道水なのですが、、、、
視点を変えますが、
山間の地域や高原に出向くと水がおいしいですよね。
標高が高いと水が冷たいから、おいしく感じるということもあります。

そういったエリアの水道水は、
山間の河川からくる清廉な水を原水としているはずです。
そんな水を都会と同じように高度浄水処理までしているのでしょうか。
答えはノーです。

前の章では、高度浄水処理を取り上げましたが、清浄な原水以外にも
水のおいしさに影響を与える浄水場の条件があります。

日本の浄水場の浄化方法は大別すると3つあります。
 ・緩速ろ過方式
 ・急速ろ過方式
 ・膜ろ過方式

ここでは、主力の緩速ろ過と急速ろ過の浄水場を解説しながら
おいしい水のポテンシャルがどこにあるかを見てゆきます。

浄水場の種類と特徴

①緩速ろ過方式の浄水場
日本の現代的な水道の始まりは、
1887年イギリス人技師の指導により横浜に作られたもので、
このときに日本が採用したのは
当時のヨーロッパと同じろ過の仕組みを持つ「緩速ろ過方式」。
「緩速ろ過方式」は砂層に水をゆっくり通すだけで十分除菌力があるため、
そこにさらに何かを投入して殺菌する必要はないほど
でした。

何故、こんなに殺菌の力があるかというと、
砂で水をろ過する際、砂の間にいる微生物が汚れを
全て食べてくれる
からです。
大腸菌などの病原菌、ウィルスも全て食べてくれて
塩素消毒も殆ど不要な良質な水ができあがります。
専門的に言うと、緩速ろ過では、砂層全体で物理的なろ過と
生物膜による吸着の両方で濁質を除去できるので浄化度が高くなります。

②急速ろ過方式の浄水場
そんな中1896年アメリカで「急速ろ過方式」が実用化されました。
これは、薬品を使って速く大量に浄水する方法であり、
処理工程の前半で、ポリ塩化アルミニウムを凝集剤として混ぜ
汚れをまとめて沈殿させるのが特徴です。
※この工程では、ろ過池の砂層に詰まったフロックや濁質粒子などを洗い流す逆洗も定期的に行うことが必要です。これにより、一時的にクリプト原虫を含む有機物を巻き上げているとが考えられます。(信大中本名誉教授)

しかしながら、自然の力を利用する「緩速ろ過方式」とは違って、
除菌力が不十分であり、塩素の投入が必須になるという
デメリットが指摘されていました。更に、塩素消毒しても
もともと塩素耐性のあるクリプト原虫は除去しきれないという課題もあり、この水道水が原因で、
過去にアメリカや日本で集団食中毒を起こし問題になりました。
その対策としても、前章にある高度浄水処理を工程に追加することで
何とか解決してきた経緯があるのです。
※日本では緩速ろ過でも塩素消毒していますが、これは急速ろ過のやり方を横展開し、より安全サイドの消毒をするようになったと言われています。

まとめ(緩速ろ過方式と急速ろ過方式の比較)

緩速ろ過=Slow sand filter
※砂層の上にできる生物膜の力を最大限活用するので生物浄化法とも
装置が安価で浄化能力も高いので、発展途上国でもこの方法を使う。
(信州大学繊維学部 中本名誉教授による研究)

  緩速ろ過(生物浄化法)の特徴まとめ
    ・微生物の力を利用して浄化する処理システム
    ・着水井、緩速ろ過池、配水池
    ・ろ過速度が遅い
 ・ろ過池の濁度を低く保ちやすい
 ・薬品処理や電力を必要としない単純な構造
 ・耐用年数が長く、維持費が安い、比較的綺麗な原水が必要
 ・原水の汚れが強い場合は、粗ろ過工程を追加
 ・水本来のおいしさが味わえる

急速ろ過=Commercial filter
※処理工程比較し易くする為、急速ろ過の処理工程には
高度浄水処理を含めていません。

急速ろ過の特徴まとめ   
 ・薬品で濁りを分離した後、砂でろ過して浄化する処理システム
    ・着水井、混和池、フロック形成池、沈殿/ろ過/配水池(+高度浄水処理)
 ・大量の水を浄化できる
 ・戦後アメリカから持ち込まれ日本の主流になった手法
 ・システム複雑、汚泥が大量、装置が高い、耐用年数が短く維持費が高い
 ・ろ過池の濁度が一時的に高くなることがある
 ・水質基準をクリアする為高度浄水処理を追加する浄水場が増えた
 ・高度浄水処理(オゾン+生物活性炭)された水はおいしく飲める


欧米の浄水場タイプ

欧米で、緩速ろ過(生物ろ過法)が主流なのは
イギリスのロンドン、オランダの各都市
です。
これらの国では、
水道水がおいしいく飲用できる=水道水を飲用している割合が高い
と考えれば、イギリスでミネラルウォーター消費量が少なかったのも
うなづけます。
#6  ミネラルウォーター一人当たりの消費量

これ以外の先進国では急速ろ過式の浄水場がメインとなりますが、
投入薬品や消毒の管理が難しいので、
それらの国の水道水は飲用水としてはあまり適さなくなり、
必然的にミネラルウォーターの消費量が増加していったと考えます。
(カナダは、清廉な湖沼が多く良質な原水が入手し易いので、急速ろ過式の浄水場でも塩素投入量が少なくて済むので例外です。)

では日本の急速ろ過と緩速ろ過の採用状況はどうなっているのでしょうか。
興味深いデーターがあるので、次の章でみてゆきます。

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