見出し画像

#11 おいしい水と生物の力の関係



緩速ろ過法と急速ろ過法の本当のメリット・デメリット

まず、日本の緩速ろ過法の第一人者である信州大学の中本名誉教授の解説を引用します。中本先生プロフィール

「緩速ろ過という名前は、砂にゆっくり水を流して物理的にろ過することが発端ですが、実際には、ろ過槽の表面に棲んでいる、目に見えない生物群集の働きで水がきれいになります。そのスピードは速く、緩速ではありません。ですから『生物浄化法』という名前で呼ぶほうが実態に即しています。
薬の力は使わず、自然の力で水をきれいにするしくみは、森の土壌が水をきれいにする自然界のしくみをコンパクトに再現したものです。
震災直後も生物浄化法(緩速ろ過)浄水場は安全な水を作り続けましたが、シンプルで壊れにくい構造、浄水過程で電力が不要、塩素以外の薬剤が不要だからです。過酷な状況下でも平常の機能を失いませんでした」

「戦後、生物浄化法が急速ろ過へと移行したことは、水需要の急速な伸びに対応し、維持管理を自動化するなど合理的な面もあります。しかし、カビ臭、クリプト原虫の汚染問題などは急速ろ過法の技術的な欠陥であり、生物浄化法のままであれば問題は起きなかったでしょう」

現在、日本で主流の急速ろ過法も、活性炭投入、オゾン処理、膜処理など、さまざまな技術革新があり、おいしい水になってきました。(高度浄水)
しかし、維持管理や消耗品などにエネルギーやコストが多くかかる事実は、水道事業の財政的課題と無縁ではありません。
水道料金は、コストを利用者数で割って算出するので、人口の少ない地域ほど水道料金が高くなる為です。

緩速ろ過(生物浄化)は、浄水過程で薬品や電力を使わず、汚泥の発生もなく清浄でまろやかな懐かしい味わいの水を作ることができると判明したので
水道事業の課題にも気づかせてくれました。(別途で解説予定です。)

緩速ろ過式浄水場の水の味

実は、筆者は地域のおいしい水を守る会で上記で紹介させて頂いた
中本先生とお話をする機会がありました。

筆者の住んでいる地域は急速ろ過の給水地域ですが、
ズバリ、おいしい水とはどんなものですか? 
と伺ったところ驚きの答えが。
「水質基準などで定量的に表せない、水の匂いなどが大きく関係します。」
とのことでした。
この会では、市内に存在する緩速ろ過と急速ろ過の浄水場からの水道水を
飲み比べる機会
がありました。
水の温度が下がるだけでうまく感じることもあるので、
感覚的になってしまいますが、緩速ろ過の浄水場の水は、明らかにまろやか
なのです。生物の感度はものすごく高いので病原菌や汚れをしっかり浄化し
飲んでもまろかやでおいしい水になる
とのことでした。

実際、戦前の日本の緩速ろ過式浄水場では、生物膜の力で
かなり高レベルな浄水ができ、塩素消毒も不要なほどだったと言います。


緩速ろ過浄水場の割合と、消毒のみの給水の割合

自然の力をできるだけ活用する緩速ろ過法、別名生物浄化法の浄水場は、
首都圏以外の山間部や人口があまり多くない地域を中心に残っており
参考ですが、筆者の住む長野県では、水量ベースで約4%でした。
(緩速ろ過浄水施設数では長野県31カ所、全国1175カ所-R1 日本水道協会調べ)
更に、長野県で驚くべき事実は6割以上の上水道でろ過をせず消毒だけ
(湧水などを貯水→塩素消毒→給水)していることです。

全国平均と長野県の比較をまとめてみます。(水量ベース)
・緩速ろ過浄水場   長野県  4% 全国平均  3%
・緩速ろ過+消毒のみ 長野県51% 全国平均20%

全国平均 水道統計R3より

長野県は、緩速ろ過(生物浄化)に加え、
湧水を消毒のみで給水する割合も高い
ので山間の水はうまい!
と言われるのだと思います。


現在も稼働する緩速ろ過(生物浄化)の浄水場

#古い歴史をもつ剣崎浄水場
群馬県高崎市剣崎浄水場は、明治43年創設の高崎市最古の浄水場です。
生物浄化法の浄水場はシンプル構造で長持ちするので現役稼動しています。

#稼働以来一度もメンテナンスしていない西原浄水場
長野県須坂市にある生物浄化法の西原浄水場は、誰もいない小さな浄水場で電機は管理用のメーターのみ。
2004年の稼働開始以来まったくメンテナンスしていないそうです。
生物浄化法は適切に管理すれば、腐った藻や砂ろ過槽にたまった汚泥をときどき取り除く程度で、メンテナンスはほとんど不要とのことです。

#そのほかの地域
広島県三原市の西野浄水場では、急速ろ過と生物浄化法を併用する中で、2004年に生物浄化法一本の浄水場へ。
宮城県美里町では、急速ろ過の浄水場でしたが、老朽化にともない、
2008年に住民の意思で緩速ろ過を採用。
おいしい水が低コストでできることが決め手になったと言います。

水道水が美味しい都道府県と浄水場の関係

ネット上でみかける「水道水がおいしい都道府県ランキング」では
北アルプスを有する長野県、八甲田連峰を有する青森県、奥大山を有する鳥取県、阿蘇山を有する熊本県などがあげられることが多いです。
清廉な原水が豊富にあることで消毒や浄化薬剤の投入量を最小限にした水が
給水できることが背景になっています。

ただし、長野県在住の筆者の実体験ですが
同じ市内でも水道水は大きく味わいが異なっています
背景として、専門家(中本名誉教授)の長年の研究でも明らかなように
浄水場のタイプが異なることがあげられます。
つまり、水道水がおいしい都道府県ランキングといっても、
市町村によってばらつきが大きく、結局は下記の要素で決まると考えます。

・飲用に適した濁度が低い原水が入手しやすい地域
          かつ
・原水をできるだけ自然のまま浄化し給水している地域
 (原水消毒のみ>緩速ろ過>急速ろ過)

※これだと、水道水に適した軟水の水源がそもそも少ない県ランキングに入ってこないですね。

たったこれだけですが、もし市町村レベルでこの尺度で調査したら、
もっと正確なランキングが得られ、水道事業の維持のためにも、
管理費が少なくて済む伝統的な浄水方式が見直されるはずです。

<コラム>緩速ろ過浄水場と急速ろ過浄水場の面積を比較

水道事業の維持のために、緩速ろ過(生物ろ過法)の浄水場も見直した方が良いのではと書きましたので、急速ろ過浄水場との比較についてもう一つ補足します。

一般的に言われていることに以下の点があります。
・緩速ろ過方式の浄水場は広大なろ過池が必要
・急速ろ過方式の浄水場はコンパクト
 
→よって、この点からも急速ろ過方式の方が効率的との通説
しかし、実際は急速ろ過では、凝集剤を投入し汚れをまとめる際、
大量の汚泥が発生します

この汚泥処理のためには、広大な天日乾燥床の土地が必要です。
実際に、同じレベルの給水能力の浄水場を上空から比較すると、
急速ろ過と緩速ろ過の浄水場は同じくらいの面積でした。(写真添付↓)

天日干ししない場合でも、大型機械で乾燥させる必要があります。
どちらの場合も、トラック輸送し肥料などへ再利用するので、かなりのエネルギーを使っているので、この点からも急速ろ過方式は効率的な仕組みとは言い切れないと思います。(一般的に言われていることはホントではない)

あくまで急速ろ過の浄水場は、大量の給水量が見込める大都市圏向きの仕組みだと思うので、水道事業の維持のため、地方都市ではコストも安い緩速ろ過の浄水場を残していってもらいたいです。

急速ろ過浄水場(汚泥天日干しエリア有り)        速ろ過浄水場                   


さて、ここまで水道水や浄水場のことを細かく書いて来ましたが、
わかったことは
日本でも場所によって水道水の味も手間暇もコストも違う(違いそう)
ということです。



つぎの記事はこちら


#暮らし #水道水 #おいしい水 #ウォーターサーバー #急速ろ過 #緩速ろ過 #ミネラルウォーター #生物浄化法 #水道事業  # 浄水器 #シャワーヘッド  # モート商品デザイン