海外HRTechサービスから日本での機会を考える - Deel(Payroll for remote teams)
第7回は、話題のDeelを取り上げます。2年以内にARR1億ドルを突破したという、化物SaaSです。Deelは、海外人材を雇用する際の手続きを全て代行してくれるサービスです。コロナ禍におけるリモートワークの世界的な一般化により、海外人材雇用が積極化した流れに乗って急激に成長しました。
今年に入ってからもファイナンスを実施しており、2022年5月時点でのバリュエーションが12B$(現在のレートで約1.6兆円)にまで達しており、デカコーンの仲間入りを果たしています。
<想定している読者(こんな方に読んで欲しい)>
・HRTechサービスに興味がある
・HRTechサービスの提供をしている会社で働いている、働きたいと思っている
・いつかHRTech領域で起業したい
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サービス概要
1. どのようなサービスなのか(簡単に)
「Deel」は、国外の従業員雇用・労務管理を代行するサービスです。通常雇用に関わる法律・制度などは国によって様々であり、特定の国の企業が複数の異なる国の従業員を雇用するのには、それ相応のコスト・労力がかかります。それを全て「Deel」が代行するというシンプルなサービスです。
サービス上で雇用形態と雇用しようとしている従業員の情報等を入力することで、契約関連の実務を全て代行します。これを可能にしているのが、「Deel」自体が世界各国に自社法人を所有しており、「Deel」が代理で雇用主となるというスキームです。これにより、各国の法令への対応や、契約のスムーズさを産んでいます。
コロナ禍において、リモートワークが一般化し、これまで以上に労働者にとって海外の企業で働くことを選択しやすくなっています。それに呼応して、色々な企業が国外の従業員の雇用を促進し、その流れの中で生まれた強いペイン(契約関係問題)を解決することで急激に成長しているサービスです。
2. どのようなサービスなのか(機能詳細)
今回は、日本でも彼らがビジネス展開をしており、弊社でもアカウントを作成することが簡単にできたので、実際の画面で説明をしていきます。ただ、彼らのビジネス同様、機能もとてもシンプルです。ここでは企業側の機能をメインに記載をしていきます。
①アカウント作成
アカウントは雇用主・契約社員・従業員で分かれています。
どのタイプを選択しても、シンプルなフォームを入力し、Googleアカウントと紐づけてサインアップすることができるようになっています。このサービスならではなのは、属している国やパスポート番号等を求められることです。複数アカウントが作成されることを防止すること、個人を特定することがとても重要だからです。
②雇用契約の作成
こちらまずDeelの管理画面TOPです。この画像だけで機能がシンプルなことがわかると思います。
サイドバーからCreate A Contract(契約を作成)を選択すると以下の画面に遷移します。
Deelで作成できる契約の種類は4つに分かれています。
上記の雇用契約を選び、以下の5つ(雇用者の情報・契約内容・期間・福利厚生等・順守法令等)を入力すると、契約が開始されます。
③給与支払い・経費精算
基本的に、給与の支払いは、上記の契約に基づいてDeel側が代行します。企業は、給与に併せて、Deelに契約に応じて費用を支払います。
従業員の経費精算等は、以下の機能を利用します。
こちらから経費精算等、雇用主側に請求をすることができ、この画面から承認をするとDeelが代理で支払いをしてくれる形式のようです。
④レポート機能
実際に利用をしていないので、詳細のレポートまではわかりませんが、契約状況・支払い状況・稼働時間等、様々なレポートを独自に作り出せるようです。
⑤その他
ATS・ペイロール・SAML認証等、様々なサービスと連携ができます。ATSも複数連携があるので、従業員情報をATSから紐づけることもできるようです。
3. プライシング
これまでと違い価格表がオープンです。コントラクター(契約社員)の雇用の場合3つのプラン、従業員(正社員)の雇用の場合の2プランで構成されており、シンプルなサブスクリプションプライシングです。Deelを通じて雇用した人数とその補償レベルによって金額が変わるというわかりやすいプライシングです。
4. ファイナンス状況
今年の4月に発表したSeriesD以降の新たなラウンドで、$12B(現在の日本円換算で1.6兆円弱)のバリュエーションにまで到達。景況感がこのような状況なのでタイミングは僕には推測もできないですが、上場にまっすぐ向かっているという感じですね。2019年に設立された会社で、本当に化け物です。
日本の同様のサービスの概況
Webサービスの形で、各国の契約代行をするサービスは調べたところ日本にはなさそうです。司法書士・弁護士に依頼をして、現地での契約のレビューおよび実務の代行を依頼することは日本でも行われていると思いますが、Deelのように海外に法人格を有して、代理雇用をするようなサービスはおそらく日本にはまだないと思います。
では今後日本で「Deel」のようなサービスが一般化するのか?についてですが、日本の一部の企業が活用するにとどまる状況が続くと考えられます。海外の従業員がワークする業務は、リモート前提(出社・現場勤務等が必要ない)であること、その上で業務を円滑に進める上で必要なレベルでコミュニケーションが行えることが最低限求められます。また、カスタマーサポート等の、これらの条件を満たす仕事であっても特定のスキル(日本語が流暢に話せること)が求められ、条件を満たす人材が圧倒的に少なくなってしまいます。一定数の採用ができなければ一般化には至らないと考えると、顧客とのコミュニケーションが不要であるという条件も追加されると考えていいでしょう。
そうなってくると、現状も活用されているようなインターネット系企業における開発関連実務に携わる人員がメインの状況が続き、大手IT企業、スタートアップが活用するにとどまる状況が続くのかなと思います。もちろん同時通訳技術はどんどん進化しており、言語の壁も少しずつ低くはなっているものの、コミュニケーションを同じ効率で行えるレベルになるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。ですが、経済産業省が発表しているように、将来的に日本は慢性的にITエンジニア不足になることが予想されており、その大きな解決手段になってくれる可能性も大いにあると思います。
日本で展開する上でのポイント
本サービスのポイントは、シンプルに働き方の変化・トレンドに対するスピーディーな対応です。コロナ禍における世界レベルのワークトレンドに対して一番最初に全速力で対応したのが彼らということなのだと思います。今回の「Deel」のようなサービスは日本企業が展開するには言語の壁がとても大きいです。当然英語が母国語の国同士では、代理雇用もスムーズに機能すると思いますし、働く従業員としても言葉が変わらないというメリットがあります。同時に、サービス提供側の企業としても、色々な国の現地法人設立にあたって、契約はもちろん交渉関係の業務においても言語が同じであることは業務を効率的に進めることは確実です。そう考えると、Deel自体が日本でもサービス展開をしていることも踏まえると、これから日本企業が同様のサービスを日本で展開しようにも、差別化が難しい状況だと思います。
ここに、日本から「Deel」のようなHRサービスがうまれにくい要因の一つがあります。日本は、独自の雇用習慣を持ち、移民もまだまだ少ない単一民族国家です。言語も日本語というこの島国でしか使われない言語。世界標準のサービスと、日本標準のサービスにどうしても差分が生まれます。そして起業家も私のようにほとんどが日本人ですから、日本をターゲットにしたサービスが生まれて当然の状態です。
では、日本からどうすれば世界的なHRサービスが生まれるのか。これは日本のHRTech系起業家の永遠の問いだと思います。
世界を理解し、世界の国々の人々のニーズを満たすサービスを作りに行こうとしても現地の方々に対するビハインドが大きすぎるので、一つは、日本で生まれた文化・雇用習慣・人事施策を世界に発信する、普及する形かなと思います。高度経済成長期の日本は、世界が驚くスピードで経済成長し、その当時の経営戦略は各国に学ばれたものだと思います。当時はインターネットを通じてその戦略をグローバルで汎用的なものにすることが難しかったかもしれませんが、また日本企業が躍進する時こそ、世界で利用されるHRサービスの発明のタイミングかもしれません。
もう一つは、より根源的な欲求によりそう、シンプルなサービス開発かなと思います。雇用習慣や、現地の文化に依存するものは、スケーラビリティを伴わないことがほとんどです。ですので、人間の普遍的な欲求を満たすためのトライをするという考え方です。これは言うは易し、行うはとても難しですが、indeedのような、できるだけ早く自分の求める職に出会えるようにするといったコンセプトは、世界共通のものだからこそ、世界に広がっていると考えられるかなと思います。
日本展開の上でのポイントの話ではない内容になってしまいましたが、今回は以上です。
※出典・参考記事一覧
- サービスLP
- 調達関連記事
- CrunchBase
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