ひとつ、で世界を照らすひと

今年、自担である加藤シゲアキさんから初めて「ファンサ」をもらった。

通算の参戦回数が少ないこと、東京ドームやたまアリといった規模の大きい会場の当選が多かったこともあって、自分がファンサをもらうなんてことはおろか、いわゆるファンサタイムの加藤さんの表情や身振りをきちんと見られたことがなかった。

ツアー『音楽』福井2日目、昼公演。1日目との交換で同行させていただいた席は、なんとメインステージから数列、センターステージを繋ぐ花道沿いだった。

当然、こんな席は初めてだ。ステージに呑み込まれそうなほどの迫力だった。近い。きゅっ、という靴音が聞こえる。視線の動き、唇の動きがわかる。ステージから「見られている」ことをビシバシ感じる。

weeeekのアウトロで、3人がセンターステージからメインステージに戻るときのことだった。

加藤さんがこちらのブロックに体を向けて歩いてくる。

私が持っていたうちわは、10文字弱のメッセージうちわだ。何よりも先に、あ、読まれた、と感じた。と思ったらバチッと目が合った。少し目を丸くしたような表情だったと思う。悲しいかな、視覚的な記憶はもう朧気なのだけれど、反射的に笑顔を作ろうと目元と頬がひきつったことをよく覚えている。それが何よりの証拠だ。そしてこちらに手を伸ばして、ひとつ頷きながら、「ありがとう」と口を動かすのがわかった。体の芯がカッと熱くなるのを感じた。

それから、(おそらく)わたしの前列にいた加藤担に視線を移して、照れたように微笑んだのを見た。

そのときの感覚では、ゆっくり数えて5秒くらい。実際は3秒もなかったのだろう。なんなら1拍くらいだったかもしれない。

はっと我にかえったときには、もう「練習してきたアレ」で曲を締めようとするくだりだった。

終演後、10月だというのに日傘がないと倒れそうなほどの暑さの中、ひとり歩きながら、ぼんやりした頭で思った。

知らなかったなあ、と。

知らなかった。加藤さんの客席に向ける顔がとびきり甘くて優しいことは、ライブ映像を見て知っていた。けれど、あんなに細かく視線を動かして、何度も「ありがとう」と言葉にして、まるで自分のファン一人ひとりと向き合うように目を合わせてくれていることは、全く知らなかったし想像もしていなかった。

だってグループを20年やっていて、5万人を超える観客を収容するドームでのコンサートの経験が何度もある人だ。むしろ私自身が、大きな会場を埋め尽くす名もない光のひとつになることに慣れていたし、それを心地よく思っていた。

それなのに、加藤さんはその光、それから声(今は上げられないけれど)、表情、うちわのひとつひとつを見て、聞いて、受け止めている。

その表情と視線の動きを何とかして記憶に焼き付けようと反芻するうちに、同じだ、とふと気がついた。

ラジオに届いたメールを全て読んでいること。ひとつのメールに、親身になって丁寧に答えることで、聴いている一人ひとりの心に光を灯してくれること。そう、ヒカリノシズクの歌詞のように、クローバーの歌詞のように。

ひとつ、に向き合うことで、世界を照らせる人だ。本気で、一人ひとりと手を繋いでいてくれる人だ。

そうだった。ずっと知っていて、ずっと好きだった。加藤さんの視線の先にいるのは、いつだってファン一人ひとりなのだ。私はそのいじらしいほどの誠実さに焦がれ続けてきたのだと、新たなかたちで実感したのだった。

その視線と表情を知らないままでも好きだったけれど、知ることができてよかったと思う。

それから。

私の前の列の人に向けた微笑みがすごく愛らしかったことも忘れられない。微笑み、というよりは照れ笑いといった方が近いかもしれない。くっと口角が上がる大好きな笑い方だった。

前の列の人は開演からずっと「近い!どうしよう!ひゃあ!」と微笑ましい反応をしていたのが印象的だったから、加藤さんが客席に向かってぱっと照れたように笑うときはそういう反応をされたときなのかなあ、と後から思ったりした。

考えてみれば、こういうときの客席に向けた表情って、「何(どんなうちわ、どんな人)に対して」の表情なのかはモニター映像でも円盤でも映らない。その表情を向けられた人しか知り得ないことがほとんどだ。

こんなことを思ったら、返してもらった言葉と表情がいっそう特別になってしまった。それに、今後少し離れたところからそんな表情を見たとき、そこにある素敵なコミュニケーションに勝手に思いを馳せて、私まで幸せになってしまうだろう。

名前も住んでいる場所も普段していることも知ることのない、ただあなたのファンだ、ということしかわからないわたしたちを見る、
柔らかい表情。一瞬交差しただけで一生を救われてしまうような真摯な視線。その「光」に、また来年も会いたいな、と思わずにはいられない。

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