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社会的時差ボケと睡眠時心拍変動との関係
社会的時差ぼけとは?
社会的時差ボケ(Social Jetlag: SJL)とは、平日と休日の睡眠リズムのズレによって引き起こされる、生活リズムや体調の乱れを指す言葉です。
SJLは、個人の生物リズムと、仕事や学校、家事などの社会的制約とのギャップによって起こります。
言い換えれば、飛行機で海外移動をしていないのに、体が時差ぼけのような状態になっているということです。
SJLは健康やアスリートのコンディションに影響を与えることが知られています。
2019年に発表されたある研究では、SJLが睡眠中の心拍変動(Heart Rate Variability: HRV)や睡眠の質にどう関係しているかが検討されています。
今回は、その研究を見ていきます。
なお、HRVは自律神経系から見たコンディションを表す概念・指標です。
研究概要
分析対象者は、睡眠障害や心血管疾患を持たない男子大学生33名(平均年齢23.2歳)でした。
参加者は、平日(水曜日)と休日(土曜日)において、自宅での睡眠中のHRVを測定するためのデバイスを付けたとともに、翌朝には睡眠の質に関するアンケート(GSQS Score)に回答しました。
また、ミュンヘンクロノタイプ質問紙(MCTQ)にも回答し、クロノタイプ(個人が一日の中で、どの時間帯がもっとも活動的であるかを示す時間的特性)やSJLを求めました。
なお、MCTQ日本語版は、下記URLから利用できます。
※MCTQ日本語版の著作権は原作者(ロネンバーグ教授)と国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部のメンバーが保持
研究結果
参加者のSJLの中央値は93分で、これをもとにSJLが高い群(Higher SJL)と低い群(Lower SJL)に分けて分析しています。
その結果、平日(Workday)では睡眠データに大きな差は見られなかったのに対し、休日(Free day)ではHigher SJLの就床時間、入眠時間、起床時間が有意に遅くなっていました(表1)。
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Sűdy et al. (2019)Frontiers in NeuroscienceのTable 1
これは、SJLが高い人々は休日に夜更かしし、起きるのが遅い傾向があったということです。
次にHRVを見ると、Higher SJLでは、平日の睡眠開始から3時間までのHRVが低下していました(図1)。
また、SJLと平日と休日のHRVのギャップ(初めの2時間)との間に有意な相関関係も確認されました(図2)。
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Sűdy et al. (2019) Frontiers in NeuroscienceのFigure 1
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Sűdy et al. (2019) Frontiers in NeuroscienceのFigure 2
さらに、睡眠の質に関しても、Higher SJLは平日が悪くなっていることが分かりました(図3)。
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Sűdy et al. (2019) Frontiers in NeuroscienceのFigure 4
主として研究デザイン上の制約から、「SJLが高いから平日の睡眠前半のHRVが低く、睡眠の質が悪い」とは言い切れません。
それを前提として、論文の著者らは、「得られたデータは、睡眠の質と睡眠中の迷走神経活動に対するSJLの潜在的影響に注意を喚起するものだ」とし、「SJLの健康への悪影響を考慮し、社会的戦略の改善が必要」と述べています。
この社会的戦略の具体的なアプローチとしては、学校や仕事のスケジュールの柔軟性を高めることを挙げています。
また、個人が出来ることとして、朝の光を浴び、夕方以降の光を減らすことで体内時計を調整することを推奨しています。
私のクロノタイプとSJL
私自身もMCTQに答えてみたところ、クロノタイプが夜型で、SJLが90分でした。
ただ、フリーランスの私にとって、平日と休日の区別が曖昧なので、この数値の妥当性には疑問が残ります。
それでも、SJLを低くすることが私の仕事や活動、さらにはフルマラソンのパフォーマンス向上につながるのとは思っています。
周りの人たちに「トレーニング以外でパフォーマンスが決まっている」とよく極論を吹聴している自分としては、SJLを減らす努力をしたいと思っています。
それはそれとして、ここまで読んでくださった方々も、ぜひご自身のクロノタイプやSJLを調べてみてはいかがでしょうか?
引用文献
この記事は「Sűdy, Á. R., Ella, K., Bódizs, R., & Káldi, K. (2019). Association of Social Jetlag With Sleep Quality and Autonomic Cardiac Control During Sleep in Young Healthy Men. Frontiers in neuroscience, 13, 950. https://doi.org/10.3389/fnins.2019.00950」をもとに作成したもので、CC BY 4.0 で使用されています。
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