LGBT運動の背後にいる大富豪たち
わずか10数年ほどのあいだにトランスジェンダリズムは世界の多くの国々で広まり、社会や法律や教育を変えていきました。その背後に巨額の資金を注ぎ込んだ大富豪たちがいるという事実は、もっと広く知られるべきです。
こちらは、トランスジェンダリズム問題を追い続けているジャーナリスト、ジェニファー・ビレクさんによる記事です。
ジェニファー・ビレク 『ファーストシング』2020年1月21日
それほど遠くない昔、ゲイの権利運動は、巨大な異性愛文化の中で自分たちの指向に従おうとする小さなグループだった。ゲイとレズビアンは弱者で、数で圧倒的に負けており、結びつきも緩やかで、差別や虐待に遭うこともしばしばあった。彼ら・彼女らの物語は悲劇的で、その苦しみは、AIDSとロック・ハドソン 〔1950~70年代のハリウッドスター。1985年にエイズを発症しゲイであることを告白、同年死亡〕、『ブロークバック・マウンテン』〔2人のゲイ男性の愛と悲劇的な別れを描いた2005年製作のアメリカ映画〕とマシュー・シェパード 〔1998年に激しい暴行と拷問を受け殺害されたゲイの学生。彼の死はアメリカ内外で議論を引き起こし、後にヘイトクライム防止法が成立〕によって劇的な形で表現された。
しかし現在のLGBT権利運動は、世間から糾弾されつまはじきにされた者たちのそれとはまったく異なる。LGBT権利運動――「T」が追加されたことに注意されたい――はアメリカ社会において強力で攻撃的な一大勢力となった。運動の支持者たちは、メディア、アカデミズム、専門職、そして最も重要なことに、ビッグビジネスや巨大慈善事業家のトップの座に就いている。いくつかの例を挙げよう。
ジョン・ストライカーはホーマー・ストライカーの孫である。ホーマーは整形外科医で、ストライカー・コーポレーションを創立した。ミシガン州カラマズーを拠点とするストライカー・コーポレーションは、2018年に手術器具とソフトウェアの販売で136億ドルを売り上げた。財産を相続したジョンはゲイであった。2000年、彼はLGBTコミュニティを支援するために、非営利団体アーカス財団を設立した。同性愛者であることをカミングアウトした時の経験が設立のきっかけになったとのことである。アーカスは2007~2010年だけでも5840万ドル以上をLGBT関連の活動を行なうプログラムや団体に資金提供し、世界最大のLGBT向け資金提供団体の一つとなった。ストライカー自身も同じ3年間で、彼が所有するストライカーメディカル社の持ち株を通じてアーカスに3000万ドル以上を資金提供している。
ストライカーは、ちょうどアメリカでエイズの蔓延がコントロールされるようになった時期にアーカス財団を設立した。アーカス財団を始める前、彼はデポット・ランドマークLLCの社長であり、この会社は歴史的建造物のリノベーションを専門としていた。そのおかげで、ジョンは後にアーカス財団のためにカラマズーにリノベートした物件を用意することができた。彼はまた、グリーンリーフ・トラストの創立時からの理事でもあり、この私企業もカラマズーに資産管理会社を有していた。
ジョンの姉妹のロンダ・ストライカーはウィリアム・ジョンストンと結婚した。ジョンストンはグリーンリーフ・トラストの会長である。ロンダはスペルマン大学の副学長 でもあり、アーカス財団は最近、レズビアン・フェミニストであるオードリー・ロードの名を冠した助成金200万ドルを同大学に寄付している。この寄付金はクイア研究プログラムに使途を限定されていた。ロンダとジョンストンはスペルマン大学に総額3000万ドルを寄付している。彼らは同大学の137年の歴史上、最大の存命寄付者である。ロンダはカラマズー大学(アーカス財団は2012年に社会正義リーダーシップ助成金2300万ドルを同大学に寄付した)の評議会メンバーでもあり、ハーバード大学医学部の理事も務めている。
ジョンのもう一人の姉妹であるパット・ストライカーは、ゲイ男性のティム・ギルと近しい協力関係にある。ギルはアメリカ最大級の非営利LGBT団体の一つを運営しており、ジョンがアーカス財団を設立して以来、ストライカー一家とは親しい付き合いである。1999年、ティム・ギルは自分の所有するコンピューターソフトウェア開発会社のクォーク社に自分の持ち株を売却し、コロラドにあるギル財団の運営を開始した。ギルはパット・ストライカーと他に2名の大富豪慈善家らと協力した。容赦のない政治戦略も辞さなかったため、この4名は黙示録に出てくる(飢饉・疫病・戦争・死の)4人の騎士の異名で知られ、共和党支持者が主流の赤いコロラド州を民主党支持の青い州に変えることを目標にして活動を展開した。彼らは5億ドルをLGBT支援を目標に掲げる複数の小団体につぎ込んだ。ギルは2015年のGLSENリスペクトアワードの冒頭あいさつでジョン・ストライカーを紹介する際、お互いに知り合ってから2人は「策を練り、絵図を描き、ハイキングにもスキーにも行った」と語り、「悪者を罰し、善人に報奨を与えた」と発言した。
2015年以前から、ストライカーは世界中でジェンダー・アイデンティティ・イデオロギーとトランスジェンダリズムを推進するための政治的インフラを構築するために、大小さまざまな団体に何百万ドルも寄付していた。その中には、ヨーロッパと中央アジアの54ヵ国の団体が参加しているLGBT団体ILGA への数十万ドルの寄付や、ヨーロッパとアジアのトランスコミュニティを代弁し43ヵ国の団体が加盟しているトランスジェンダー・ヨーロッパも含まれている(トランスジェンダー・ヨーロッパは、アイルランド・トランスジェンダー平等ネットワーク(TENI)のような、より小さな団体にも資金提供を行なっている)。
2008年、アーカス財団は、大規模会議の組織化、リーダー育成プログラム、調査・出版などを担当する部署であるアーカス運営基金を設立した。2008年にイタリアのベッラージョで開かれた会議で、29ヵ国からリーダーたちが集まり、LGBTの権利を支援するために国際的な慈善活動の拡大に邁進することを確認した。この会議で、ストライカーやドイツのドライリンデン財団の創設者であるイーゼ・ボッシュと並んでいたのは、マイケル・オフラハティであった。彼は、「性的指向と性同一性に関わる国際人権法の適用に関するジョグジャカルタ原則」(2006年にインドネシアで起草された原則)の報告者の一人である。このジョグジャカルタ原則は、ジェンダー・アイデンティティ・イデオロギーをわが国の法体系に入れ込むために撒かれた種だった。オフラハティは2004年から国連人権委員会の公選委員でもある。
ベッラージョ会議から、アーカス財団はLGBT運動推進プロジェクト(MAP)を立ち上げた。これは、ジェンダー・アイデンティティ/トランスジェンダリズムを推進する活動への資金提供と運動展開の手の込んだシステムを追求するプロジェクトである。同時に、LGBTIの人権問題を代表して国連に伝えるために、国連加盟国の非公式な地域横断的グループとして「LGBTIコアグループ」が結成された。このグループの加盟団体はアーカス財団から資金提供を受けており、そこには、アウトライトアクション・インターナショナルや全米人権委員会などが含まれている。コアグループの参加国には、アルバニア、オーストラリア、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、クロアチア。エルサルバドル、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、日本、モンテネグロ、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェー、スペイン、イギリス、アメリカ、ウルグアイ、EU、さらに国連人権高等弁務官が含まれる。
これらの取り組みは、政治活動、リーダーシップ、トランスジェンダー法、宗教的自由、教育、公民権などの分野でリーダーを育成することにより、ジェンダー・アイデンティティとトランスジェンダリズムを推進している。アーカス財団から支援された運動推進団体のラインナップを見ると気が遠くなる。ビクトリー・インスティチュート〔LGBTの候補者を支援する米NGO団体〕、アメリカ進歩センター、ACLU、トランスジェンダー法センター、トランス司法基金プロジェクト、国際アウトライトアクション、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、GATE、グローバルアクションに賛成する国会議員の会(PGA)、世界平等評議会、国連、アムネスティ・インターナショナル、GLSEN(Gay, Lesbian and Straight Education Network)。さらに、全米セクシャリティ情報教育評議会(SIECUS)は、「アドボケート・フォー・ユース」、アンサー、GLSEN、ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)財団、全米家族計画連合(PPFA)と協力関係にあるが、このSIECUSは人権ベースのフレームワークを用いて、セクシャリティとリプロダクティブ・ヘルスに関する文化的言説を書き直すためのキャンペーンを主導している。これらに加えて61の団体が、現行の教育カリキュラムの全面改訂を支持する手紙に署名している。
2013年には、ジョージ・ソロスのオープンソサエティ財団(トランスジェンダー・イデオロギーの熱心な推進団体で、トランスジェンダー児童のノーマライゼーション運動を主導している)の古参メンバーであるエイドリアン・コーマンが、アーカス財団のジェンダー・アイデンティティ・イデオロギーを世界に広めるための国際人権プログラムの代表に指名された。コーマンはかつて国際ゲイ・レズビアン人権委員会でプログラム・ディレクターを務めていた。また、2015年にアーカス財団はNoVo財団のトランスジェンダリズム関連プログラムに資金提供している。NoVo財団は大富豪ウォーレン・バフェットの息子、ピーター・バフェットによって設立された財団だ。
これらのプログラムと取り組みは、信仰団体、スポーツ・文化団体、警察のトレーニング、小中高の教育プログラム(GLSENの創設者は2012年にアーカス財団に理事として引き抜かれ、多くのK-12〔幼稚園から高校卒業までの教育期間〕学校カリキュラムに影響を及ぼした)、そしてさまざまな大学や医療関係機関、アメリカ心理学会(APF)などへの支援を通じて、ジェンダー・アイデンティティ・イデオロギーを大いに推進した。アーカス財団はAPF(アメリカの心理学団体の代表組織)を資金援助し、トランスに肯定的な心理学的実践を確立するガイドラインを発展させた。心理学者たちはこれらの資金提供団体に「後押しされ」て、ジェンダーに関する自分たちの理解を改め、生物学的現実の範囲を広げて抽象的な医学的アイデンティティをそこに含めるようにした。
同時にアーカス財団は、企業にLGBT関連の投資を促すことでジェンダー・アイデンティティ・イデオロギーとトランスジェンダリズムを市場においても推進している。ストライカーが136億ドルもの資産価値を持つ医療関連会社の相続者であることも忘れてはならない。2020年のプライド月間におけるLGBT支援企業リストを見れば、アーカス財団がこの分野でいかに成功を収めたかがわかるだろう。
アーカス財団の例に見るように、かつてのLGB公民権運動は、容赦のないビヒモス〔旧約聖書で恐怖の支配を行なう怪物。ビヒモスは大地を、リヴァイアサンは海洋を支配する〕に変貌してしまった。この怪物は製薬業界やグローバル企業と強いつながりを有しており、製薬業界ロビイストはアメリカ連邦議会における最大のロビイング勢力である。LGBT活動家らは、自分たちの運動を差別と抑圧に苦しむ非力な弱小グループによるものとして人々に提示するが、実際には巨大な権力と影響力を振り回している。彼らはこの力をさらに行使して、法律を変え、学校や社会までも変えようとしているのである。
原文:https://www.firstthings.com/web-exclusives/2020/01/the-billionaires-behind-the-lgbt-movement
訳:大原レイカ