車窓の景色はいつも車窓の景色でしかない
「麗らかやしおりをはさむのも忘れ」
「何いってんの姉ちゃん。」
「俳句って知ってる?」
「知らない。」
姉は笑顔だった。
「俳句ってなに?」
「例えばこの会話。」
「僕は今俳句を喋っているの?」
「俳句を文字で書くときは点を打っちゃダメだよ。」
僕は姉の言っていることが少しわかった気がする。
「じゃあやっぱりこれも俳句だね。」
「そうかもしれないね。」
「俳句って楽しいね。」
「まだそうかもしれないね。」
姉が悲しい顔になった。
「でも俳句を文字で書くときはスペースを空けちゃダメだよ。」
「そうなの?」
僕は悲しくなった。
「じゃあこれは俳句じゃないね。」
姉は笑顔で言った。
「村上春樹の文って、点が少ないよね。でも、確かにそこにある。」
シートポケットに押し込まれた小説からは、栞紐が飛び出していた。
「車窓の景色はいつも車窓の景色でしかないように、俳句は俳句でしかないの。」
僕たちはいま、飛行機に乗っている。
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本もっとたくさん読みたいな。買いたいな。