ワニの「電通案件」にキレた
ワニが終わってしまった。
しかし、その後のいわゆる「電通案件」は噴飯モノだ。
最初に言っておくと、私は優れたコンテンツにはお金が払われるべきだと思っている。
日本人は、ネットで「質のいい」コンテンツに「お金を落とす」ことに消極的な節があるが、いいものにはお金を払うべきだ。
そうすることでコンテンツは発展すると思う。
しかし、今回のアレはない。
これを読んでいるみなさんならご存知だろう。きくちゆうきさん作「100日後に死ぬワニ」の一部始終を。
いきなりよくわからない公式アカウントが出現し、書籍化、映画化、グッズ化。いきものがかりとのタイアップ。
前日にYahooできくちゆうきさんのインタビューが載ったあたりから、正直イヤな予感はした。
ちなみに、私はワニくんに関してはにわかもいいところだ。
知ったのは終わる(死ぬ)15日くらい前だし、一気読みし直したのは終わってからだ。
そんなにわかな私だが、きくちゆうきさんは極めて優れたコンテンツメイカーだと思った。
素晴らしいのは、「100日で死ぬ」というコンテンツの枠組みだ。
「どうやって死んでしまうのだろう」という「興味の持続」とともに、有限の「生」を生きる、という儚さがユーザーに生まれる。
そして、物語の終わり方も、極めて優れていたと思う。
開始直後の「死まで97日」を踏まえた、原点回帰というべき終わり方。スマートフォンの描写。時系列。
世の中のクリエイターには、「風呂敷の広げ方はうまいが畳むことがヘタクソ」というクリエイターがいる。
映画化つながりで言えば、唐沢寿明とかが出てた少年モノの作者とか。
その意味でも、きくちゆうきさんは、物語のトータルコーディネーションという意味でも、優れたコンテンツクリエイターだなと僭越ながら感じた。多くの雑音もあっただろうが、初志貫徹、といった感じがしたし、強いメッセージ性を感じた。
そ・れ・な・の・に!
例の「電通案件」である。
映画化、いきものがかりをつかったタイアップ、グッズ展開。
繰り返す。
優れたコンテンツにはお金を払うべきだ。
しかし、振り返ってみてほしい。
この物語の優れているところは私は、「ユーザーと100日間センティメントをともにする」、というところだと思う。
変なカタカナを使ってしまった。マーケターが大好きなやつだ。
これはUGC(User Generated Contents)とかしたり顔で言う人は無視していい。そういう人は本が売りたいだけだ。
要は、100日間読み手はワニくんと仲間たちと生活、気持ちを共有している。ここにこの物語がもつユニークで、何者にもない価値があると思う。
100日同じものを共有している存在、あなたはいますか?
いや、お前は2週間だろ、と言われればそのとおりですが。
とにかく、ユーザーが、ワニくんと仲間たちがいる日々を、
SNSでバズリ、これだけ多くの人が過ごしてきた、というところに価値があるのだ。
登場人物はワニくんと読者だけでいい。あとは(強いて言えば)きくちさん。
な・の・に!
SNSでありがちな広告代理店の仕業として、「ユーザーの中に土足で入り込む」というのがある。
今回のケースはまさにそれだ。
ワニくんとの物語は、それぞれの読み手が、それぞれの解釈で100日間かけて築き上げてきた物語なのだ。それと同時に、リツイート数などで、ワニくんと自分自身の物語が、多くの人々、日本中に広がっていくのを、ワニくんが好きなみなさん方は感じていたはずだ。大きなムーブメントを目にしている。そういった興奮があったはずだ。
それなのに、「電通案件」は、それを、「無理やり作られた流行」のように見せ、ワニくんの死のあとのやるせなさ、悲しさを奪うばかりか、「これまでのワニくんと私(私達)の日々」も逆説的に、どこか虚しいものにしてしまうのだ。
ランサーズなんか使って提灯記事を作らなくても、人気は十分あったはずなのに。。
何度もいうが、優れたクリエイターにはお金を払うべきだ。
けれど、ワニくんは読み手が作ってきた物語だ。
これは一案だが、どちらかといえば、このネット発のムーブメントが、徐々に大きくなっていき、「ワニくんは死んでもムーブメントは死なず」的な展開が見たかったし、そうすべきだったと思う。たとえ電通案件だったとしても、そういうストーリーにせめて見せてほしかった。
SNSの発達で、人々は「つくられた虚構」に敏感だ。
今回の「電通案件」は、「つくられた虚構」ではないのに、遡ってそうであるかのように見せてしまう。
さて、「電通案件」「電通案件」と書いてきたが、実際に電通案件なのかは知らない。
けれど、いずれにせよこの「広告代理店的なやり方」は、広義な意味でのインフルエンサー(を使った)マーケティングわかってないなと感じてしまうし、そんなことより物語が台無しだ。みんなワニくんが好きで、見守っていたのに。
ワニくんは本当に100日で、「死んでしまった」。
それがとても悲しい。
それでも私は映画化されたら、見たいと思うし、3月に死んだのに実際の発送は6月という、追悼というよりはどっちかというとお中元に近いグッズも買おうと思う。
優れたコンテンツには、お金が払われるべきだと思うから。
でも最後に言わせてほしい、
この売り方考えたやつ、死ね!ワニじゃなくてお前が死ね!
おしまい。