見出し画像

7. 歯車回るよいつまでも・・ Homer(‘61)

こんにちは。
おやじの左手です。
趣味のひとつとして、1960年代の国産手巻き実用腕時計を集めてはこつこつと修理をしています。
記事の趣旨は、「自己紹介」をお読みいただければと思います。


昔から岡本太郎の作品が好きで、毎年4回くらい、岡本太郎美術館に足を運んでいます。
先日のGWは急な用事で行けなくなり、自分の芸術が爆発できず溜まっています(笑)。
NHKでタローマンの再放送やってくれないかなあ。
「同じことをくりかえすくらいなら、死んでしまえ!」(太郎の名言)と太郎に言われてしまいますが(笑)。


① CITIZEN Homer

型番:HO150802  17石  5振動(毎時18,000振動)
ケース径:35mm(リューズ含まず) ラグ幅:17mm   
1961年8月製造(S/Nより推測)

1950年代から'60年代初頭までは、薄型、ドーム風防デザインが中心でした。
風防も裏蓋もパチン!とはめるスナップタイプ、ムーブメントは文字盤側から外します。

ケースと一体化した細いベゼルと張り出した風防の曲線、素敵です。

② 正面

風防は新品と交換。
文字盤もレトロ感満載レコードデザインのデッドストック品と交換、合わせ金針にしました。

自分、'60年代初頭のこの手のホーマーもけっこう復活させており、文字盤をデザインのあるものに交換して楽しんでいます。
和服を着た時に合わせたいですねえ、和服持ってませんけど。

③ 左右側面

とても薄くて軽いです、実測、薄さ8.7mm、重量25g
着用時はこげ茶のベルトを選び、さらにレトロ感を醸し出すようにしています。

この手のケースはラグ外側に穴があり、ベルトの取り外しがとても楽です。
'60年代中盤からのケースになると、外穴は無くなり、内側からしかバネ棒を外せません。
なにぶん古い時計、バネ棒の固着には相当悩まされます、この辺の話は別の機会にできればと思います。

④ 背面

S/N一部マスクしています

この時代の時計は防水仕様ではなく、ベゼルや裏蓋、リューズからも、水気、湿気が入り放題。
晩秋から冬、早春までの季節限定、晴天限定製品です。

⑤ ムーブメント

これらのホーマー、たいていは不動品であり、それを承知の上で入手しています。
これも当初は、ゼンマイを巻いても動きませんでした。

先にその原因を言うと、四番車の軸曲がり。

軸がほんの少し曲がっており、四番車に秒針を刺すと、
刺し口が、二番車、ツツカナにあたり、針が回らないという事象でした。

たぶん、過去に変なふうに秒針を刺して曲げてしまったんじゃないかなあと思います。

やらしいことに時々針が回るので、はっきりこうするとNGというポイントをなかなか見つけられず。
ゴミの混入や受け石の摩耗など駆動輪列ばかりを疑い、深い泥沼にはまりました。

結果、四番車を交換して完了です!

⑥ ひとり納得

香箱からテンプまで基本的な駆動輪列部品を並べてみました。

  一番左:香箱 別称:香箱車、一番車
  左から二番目:二番車 これが分針を司ります。
  左から三番目:三番車
  左から四番目:四番車 これが秒針を司ります。
  右から三番目:ガンギ車
  右から二番目:アンクル
  一番右:テンプ 細く言うとビゲゼンマイと合わせ調速機
          ですが、簡易にテンプと呼ばせてください。

今回の話、四番車の不具合でもあったので、
せっかくなんで、テンプから四番車(一周60秒の秒針)までの話におつきあいください。
簡単に、5振動(毎時18,000振動)の輪列でお話しします。

・5振動のテンプは1秒で5回首を振ります。
 例えば”左右左右左”の5回の首振りで1秒の作りになっています。
 2.5Hzと言った方がわかりやすいかも。
・よって、アンクルも1秒に”右左右左右”に首を振り、ガンギ車の歯を
 ひっかけます。

・ゼンマイの力で回ろうとするガンギ車を
 アンクル爪の"右"で歯を止め、"左"で歯を一個進め、また"右"で止め
 て、"左"で進める。
 こんな感じで、ガンギ車が回ります。
・ガンギ車の歯数は15枚あり、上の動きなら、1秒で歯2.5枚分、6秒で
 一周することになります。

・ガンギ車を問わず、時計の歯車は、歯車とカナで構成されています。
 ガンギ車で言うと、大きい輪の歯が歯車、上部にある小さい輪の歯が
 カナになります。

・お次は、カナです。
 ガンギ車のカナの歯数は8枚、より、一周6秒でカナの歯は8枚分回る
 ことになります。
・ガンギ車のカナは、秒針を司る四番車の歯車を回します。 

・四番車の歯数は80枚です。
 6秒で8歯数ということは、60秒で80歯数=秒針1周分、回ることになり
 ます。

輪列の各歯車の動きは、時計屋さんやメーカーのHPやYoutubeで詳しい説明がありますし、綺麗な絵でわかりやすくお話しされておりますnoteもありますので必要十分。
割愛しまして、今まで見かけたことが無い、歯車の歯数から、その動きの確認をしてみました。

実物と計算が合うと気持ちいいですね。
ひとり納得に、ご満悦(笑)。

代わりに、目玉はそうとうに疲れました(笑)。
他の歯車も目玉を凝らして歯数を数えひとり納得してますので、この先のトラブルの事象に合わせ話せたらと思います。


HI-BEATだとガンギ車と四番車の間に中間車が入るのがあるとか、
45系GSはガンギ車が四番車と秒車のふたつの歯車を回すとか、
摩擦軽減のためのコーアクシャルなんて複雑機構もあり、ガンギ車ひとつとっても奥が深いです。
これらの技術を創造する人のことを考えるだけでも、想像が膨らみます。


ケースや文字盤のデザインに、その時代の風景を想い、
中の精密機械に、いにしえの技術者の息吹きを感じる。
たんたんと回る歯車は見飽きません。


ちょっと話が長くなってしまいました。
長文におつきあいいただき、ありがとうございました。

*****

記事にする時計たち、これからも左手で活躍して欲しく、骨董市やマルシェで出品しようと思っています。
出店など決まりましたら、この場を持って案内をいたします。
そのときは、お声がけなどいただけるとうれしいです。

「バースディウォッチ」という言葉をご存じですか?
お生まれ年に作られた時計を時計好き界隈で「バースディウォッチ」と呼んでいます。
自分が過ごした歳月を感じられる腕時計と、ともに過ごすなんて素敵かも。
1965年(昭和40年)生まれの私、懸命に針を動かしている同世代の腕時計たちにいつも励まされています(笑)。

⑦ 1961年(S36)の出来事、流行(ネットより抜粋)

・NHK朝の連続テレビ小説放送開始
・横浜マリンタワー開業
・全国初の自動車専用道路誕生(京葉道路)
・ソ連有人宇宙船地球一周の成功
・トヨタが大衆車パプリカ発売(39万8千円)
・流行歌
銀座の恋の物語(石原裕次郎、牧村旬子)、上を向いて歩こう(坂本九)
・映画
ウェストサイド物語、荒野の七人、駅馬車
・ヒット商品
エンゼルパイ、マーブルチョコレート、テープレコーダー、キッコーマン卓上瓶
・おおよその大学卒初任給  12,900円
・物価
映画:200円、ラーメン50円、週刊誌:40円、牛乳:15円、かけそば:40円

FLH