1045 ニデックが掛けた低迷企業再生の魔法NEO-COMPANY 解なき世界で解なき世界で

ニデックの企業買収はおもしろい。引用する。

買収宣告は突然に ニデックが掛けた低迷企業再生の魔法

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2024年10月29日 2:00

ニデックによる工作機械メーカーのTAKISAWAへの「同意なきTOB」が成立してから27日で丸1年を迎えた。ニデックは21年11月、非公式に買収を打診。TAKISAWAが断ったことで同意なき買収に発展した。2度の買収提案に揺れた交渉の軌跡をたどる。

2023年7月13日木曜日、午後2時すぎ。TAKISAWAの原田一八社長の携帯が鳴った。高熱のため会社を早退し自宅で寝込んでいたが、着信の相手を見て驚いた。ニデックの西本達也副社長からだった。

急いで電話をとると、西本氏は淡々とした口調で切り出した。「TAKISAWAへのTOB(株式公開買い付け)を発表します。これから担当者が御社にうかがいます」

突然の同意なき買収の表明だった。だが、伏線は1年8カ月前にあった。

1度目の打診は僅差で拒否

原田氏がニデック幹部と最初に会ったのは、21年11月ごろのこと。日本電産マシンツール(現ニデックマシンツール)会長に就任した日本電産(現ニデック)の西本氏が挨拶回りで滝沢鉄工所(現TAKISAWA)本社を訪れた時だ。その後、会食の誘いを受けた。

22年1月、2人は再び顔を合わせた。東京都内のワインセラーが並ぶレストランで食事していると、西本氏は唐突に切り出した。「私たちと一緒にやる気はありませんか」。第三者割当増資による買収の打診だった。

原田氏はすぐさま「敵対的にするおつもりはありますか」と聞き返した。西本氏は「今のところ、そう考えておりません」と返した。原田氏は社内に持ち帰って検討することにした。

1〜2カ月、取締役や執行役員らと議論を重ねた。原田氏自身は「このままではじり貧になる。なんとか立て直したい」と、賛成の立場だった。「日本電産と競合する顧客が製品を買ってくれなくなる」という懸念の声も大きかった。「まだまだ独自でやれる」という意見も出た。

多数決の結果、僅差で買収反対となった。3月、原田氏は西本氏に断りのメールを送った。その際、断る理由は特に説明しなかった。それ以降、両社のやりとりはなかった。そして23年7月、ニデックが動いた。

ニデックは21年に三菱重工業から子会社を取得して工作機械事業に参入した。永守重信代表取締役グローバルグループ代表は「工作機械でもナンバーワンを目指す」と宣言。22年2月にOKK、23年2月にイタリアのPAMAを相次ぎ買収した。

TAKISAWAは金属を回転させながら削って加工する旋盤と呼ぶ装置が主力だ。モーターやエンジンなど円筒形の部品が必要な現場で幅広く使われる。工作機械のフルラインアップ化を目指すニデックには欠かせないピースだった。

TAKISAWAは工作機械のフルラインアップ化を目指すニデックには欠かせないピースだった(岡山市)

ニデックの提示したTOB価格は2600円。直前の株価の2倍程度の水準だった。TAKISAWAはホワイトナイト(友好的な買収者)を探したが手を挙げる企業はなかった。経済産業省は23年6月に「企業買収における行動指針」の案を取りまとめていた。企業価値向上につながる提案を合理的な理由なく拒んではならないという内容が盛り込まれていた。

TOB成立「阻止しても先はない」

TAKISAWAは23年3月期に連結純利益が3億円と、前期比で10%減っていた。22年の打診時よりも受け入れの余地は大きくなっていた。

「買収を阻止しても先はない。指針に沿って対応したら、賛同しか答えはない」(原田社長)。2カ月の議論の末、最終的に反対していた役員も賛同に転じた。10月27日、TOBが成立した。

その5日後、永守氏は岡山市のTAKISAWAの本社に姿を現し、集まった約250人の従業員に語りかけた。「これまで買収した72社は全て高収益に生まれ変わった。だまされたと思って1年ついて来てください」

永守氏は月に1度以上のペースでTAKISAWAを訪問し、朝10時からの幹部を集めた経営会議に参加する。「どうやって具体的にするんや」「その場しのぎで噓ついたんやないやろな」と時には大きな声が飛ぶ。昼は「ほっかほっか亭」の弁当を囲み、15時過ぎまで続く。

TAKISAWAの原田一八社長は「企業文化が変わった」と語る(岡山市)

「新規2件、既存2件、休眠2件だ」。永守氏は営業案件をどんどん消化すれば、新規案件を掘り起こせると説いた。営業担当は1日あたり1〜2件だった顧客への訪問件数を6件にする目標を立てた。顧客は従来の自動車だけでなく、医療や航空宇宙にも広がった。

「倉庫はまとめた方がいい」。永守氏の指摘を受けて確認すると、外部の倉庫を6つ借りているなど次々とムダが見つかった。本社内の工場や倉庫にスペースをつくり、借り倉庫の大部分をやめると年間で数千万円の賃料が浮いた。

TAKISAWAの原田社長は「企業文化が変わり、利益を出すためにやることが増えた」と語る。24年4〜6月期の営業利益率は10%を超えた。前年同期の赤字から転換した。

成長に向けた取り組みも始まる。技術者をニデックマシンツールなどグループ会社に派遣し、歯車加工などの周辺技術を泊まり込みで学ぶ。ニデックの研究所にある大型コンピューターを使い、気温によって旋盤が変形しても精密な加工ができる技術の研究を進めている。

25年3月期は連結売上高で23年3月期比4割増の400億円、営業利益は同4倍の50億円と過去最高を目指す。達成すれば社名に「ニデック」が加わり、給与もニデックグループの水準並みに引き上げられる。「それが社員のモチベーションになっている」(原田氏)

同意なき買収が広がりM&A(合併・買収)のルールも変わる。もはや「従業員や取引先を守るといった理由だけで提案を拒否できない」(大和総研の吉川英徳氏)。平時から企業価値を高めるためにベストを尽くし、自らの選択の理由を説明できるようにする。それが「解なき世界」を生き抜くための一つの解となる。

この連載は京塚環、江口良輔、井上孝之、細川幸太郎、佐藤諒、林英樹、浅山亮、新田栄作、沖永翔也、湯沢周平、岡本孔佑、松田直樹、西岡杏、山田航平、佐藤優衣、松浦奈美、小園雅之、古沢健、浮島翼、熊谷有佳、岡西善治、新井健太郎、武井由実、檜垣雅希、藤沢愛が担当しました。

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