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765 業績低迷も大不況も恐れない理由は?ルイ・ヴィトンCEOマイケル・バーク「“生産過剰”を解決しなければ、持続可能性は実現しない」

6min2020.9.11
業績低迷も大不況も恐れない理由は?
ルイ・ヴィトンCEOマイケル・バーク「“生産過剰”を解決しなければ、持続可能性は実現しない」


フィナンシャル・タイムズ(英国)
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Text by Lauren Indvik
パンデミックの影響を受け、売り上げが大きく低迷したラグジュアリー業界。しかしルイ・ヴィトンのCEOマイケル・バークによると、同ブランドが抱えている在庫の量は「昨年と同じ」だという──。

10月、米テキサス州の北東部にある、かつては250エーカーの大牧場だったルイ・ヴィトン工場でのことだ。LVMH会長であり世界第5位の富豪ベルナール・アルノーは、アメリカのドナルド・トランプ大統領と娘イヴァンカの前で演壇に立ち、アメリカの消費者の力を称賛した。

「アメリカはLVMHにとって世界最大の市場であり、われわれのビジネスの約25%にあたる、年間100億ドル強を占めています」とアルノーは述べた。

だが、この1位の座はそう長く保てない可能性がある。

「最終的に、われわれのビジネスの中心は中国になります。問題はどれだけ早くそうなるか、ということです」。そう話すのは、LVMH最大のブランド、ルイ・ヴィトンCEOのマイケル・バークだ。


ルイ・ヴィトンCEOのマイケル・バーク(左)と、LVMH会長のベルナール・アルノー Photo: Rindoff / Getty Images


このインタビュー時、バークは表向きには休暇中で、緋色のソファーでくつろぎ、カジュアルなブルーのシャツ姿だった。

「5年以内にはそうなるでしょう。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、かなり早まっていますね」

業績低迷でも落ち着いていられる理由

新型コロナのパンデミックは、2810億ドル規模のラグジュアリー業界に大打撃を与えた。

2020年、同業界は20~30%縮小すると見られている。コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーによれば、2019年レベルにまで復活するためには、2022年、あるいは2023年までかかる可能性がある。パンデミックで消費者の信頼も下がり、アメリカでは複数の有名デパートが倒産に追い込まれた。

LVMHにもパンデミックの影響はあった。2020年前期の利益は68%減少し、これはアナリストの予想よりもさらに悪い結果だった。しかし「6月以来、消費活動に力強い好転の兆しが認められる」ともされており、これは中国や日本などアウトブレイクが終息に向かった市場の牽引があったからだ。

関連記事: 中国の“リベンジ消費”がラグジュアリー市場の危機を救うか

COVID-19による業績の低迷について訊ねられても、バークが落ち着いていられたのはこのためなのだろう。

「これは私が経験する7度目の不況です。少なくとも年末までには不況に突入するものと予測しています」とバークは言う。

「過去最悪の大不況」という言葉は「信じない」

バークは42年前からアルノー家と働いており、低迷していたフェンディとブルガリのブランドを蘇らせたのち、2012年にルイ・ヴィトンのトップに就任した。

このインタビュー時、バークは表向きには休暇中で、緋色のソファーでくつろぎ、カジュアルなブルーのシャツ姿だった。

「5年以内にはそうなるでしょう。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、かなり早まっていますね」

業績低迷でも落ち着いていられる理由

新型コロナのパンデミックは、2810億ドル規模のラグジュアリー業界に大打撃を与えた。

2020年、同業界は20~30%縮小すると見られている。コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーによれば、2019年レベルにまで復活するためには、2022年、あるいは2023年までかかる可能性がある。パンデミックで消費者の信頼も下がり、アメリカでは複数の有名デパートが倒産に追い込まれた。

LVMHにもパンデミックの影響はあった。2020年前期の利益は68%減少し、これはアナリストの予想よりもさらに悪い結果だった。しかし「6月以来、消費活動に力強い好転の兆しが認められる」ともされており、これは中国や日本などアウトブレイクが終息に向かった市場の牽引があったからだ。

関連記事: 中国の“リベンジ消費”がラグジュアリー市場の危機を救うか

COVID-19による業績の低迷について訊ねられても、バークが落ち着いていられたのはこのためなのだろう。

「これは私が経験する7度目の不況です。少なくとも年末までには不況に突入するものと予測しています」とバークは言う。

「過去最悪の大不況」という言葉は「信じない」

バークは42年前からアルノー家と働いており、低迷していたフェンディとブルガリのブランドを蘇らせたのち、2012年にルイ・ヴィトンのトップに就任した。

「不況となると、そのたびに『これが過去最大で最悪の大不況だ、この世も終わりで世界は二度と元に戻らない』と人は言います。でも私はそういうのは信じません」

バークの自信を支えるのは、ルイ・ヴィトンの最新メンズ・ファッションショーのパフォーマンスだ。同シーズンはデジタルで行われたパリのファッションウィークには参加せず、上海の港で実際におこなわれたランウェイショーにてデビューした。

ヴァージル・アブローがデザインした原色のスーツ、ボックス型のシングルコート、そしてチェックのニットなど、なかにはアニメーションのキャラクターがつけられているものもあったこのショーは、現地に集まった1500人の観客に加え、1億400万人がオンラインで鑑賞した。この数は世界のオンライン人口の約2%にあたり、同ブランドの前回のメンズショー観客数の5倍に当たる。

「きちんとおこなわれた生のショーというのは、こういうものなのです。リスクを負いながら、新しいことをするんです」と言うバークは、デジタルはファッションショーを「強化させる」存在であり、取って代わるものではないと信じている。

大量のオーディエンスを得られたのは、俳優で歌手のクリス・ウーがサプライズでキャットウォークに登場したおかげでもある。ウーは巨大なクリーチャー型のバルーンを担いでラストルックを担当した。中国第二の規模を誇るSNSのウェイボーでは、「#Kris Wu Walks Runway With a 2M Doll(クリス・ウーが2mの人形とランウェイを歩く)」というハッシュタグがトレンド入りした。


2021春夏のメンズ・ファッションショーを歩いたクリス・ウー Photo: Yanshan Zhang / Getty Images


ルイ・ヴィトンの中国市場戦略

バークは具体的な数字を明かすことはなかったものの、同社の中国におけるビジネスはおおいに発展していると示唆した。「(中国での)ビジネスを倍増できずにいるなら、市場シェアを失っているということです」と彼は言う。

「われわれが今、市場でのシェアを失っていると考える人はいないと思いますね」

これまで中国人の消費者によるルイ・ヴィトンの売り上げは、3分の2が中国大陸以外からきていた。中国本土では付加価値税と輸入税のために、ヨーロッパや他の東南アジア諸国に比べ値段が高いことがその理由だ。

しかし旅行する中国人が減り、「地元での購入が大幅に増えている」とバークは言う。ルイ・ヴィトンは中国で3月に3%、5月にさらに5%値上げしたにもかかわらず、だ。

「ルイ・ヴィトンは中国市場に早くから参入し、良いスタートを切りました。考えうる最高のロケーションに、見た目も素晴らしく広々とした店舗をオープンしました」。ルイ・ヴィトンの中国での成功についてそう話すのは、バーンスタインのアナリスト、ルカ・ソルカだ。


旧正月に向けた店舗のディスプレイ
Photo: Ore Huiying / Getty Images


ソルカいわく、ヴィトンは中国の人々の好みを素早く把握し、小型のハンドバッグやストラップがメタルの腕時計を取り入れ、赤色を多用した。

「中国市場がこんなに猛スピードで洗練されるなんて、多くの人にとって驚きでした」とバークは言う。

「5年前、中国は(ヨーロッパやアメリカに比べ)それほど流行に敏感だとはみなされていませんでした。ですが、今は違います」


旧暦のバレンタインデーにあたる2020年8月25日、杭州の店舗には多くのカップルたちがプレゼントを買いに訪れた
Photo credit should read Feature China/ Getty Images


店舗を閉鎖しても「在庫過剰」にはならない理由

中国では相対的に有利なルイ・ヴィトンだが、数ヵ月にわたって店舗を閉鎖したことによる在庫過剰が起こる可能性はある。売れなかった靴やバッグをどう処分するつもりなのだろうか?

ルイ・ヴィトンが特に在庫過剰だという私の憶測を、バークはすぐに否定した。「現在の在庫は去年と同量です」と彼は言う。

小規模なブランドの大半とは異なり、ルイ・ヴィトンはほとんどが自社工場で生産しているため、3月半ばで生産の大部分を停止することができた。

「フランスの17工場すべてを2ヵ月間、閉鎖しました」とバークは言う。「非常に高くついた」という従業員すべての雇用を維持しながら、国の補助は求めなかったと彼は付け加えた。一部の工場はパリの病院用マスクを生産するために4月に再開し、6月には通常の生産体制に戻った。

さらに質問を重ねると、今年の春に売れ残った商品の一部が最終的には廃棄されることをバークは否定しなかった。大幅に値下げをして商品を捌かせることで、ブランドの価値に傷がつくのを嫌ういくつかの高級ブランドにとって、この行為は一般的なものだ(そしてヴィトンは絶対にディスカウントしない。値下げもせず、アウトレットも存在しない)。

2019年、フランスは売れ残った消費財の廃棄を禁止したが、この法律が実施されるのは2023年からだ。「もちろん法には従います」とバークは言う。

売れ残り在庫の削減に関しては、生産サイクルの最初の部分をどうするかという点をより強く意識しているとバークは語る。つまり販売能力を超えた生産はせず、工場の製造ラインの回転を速めることで、売れているスタイルの生産に切り替えられるようにするのだ。

「在庫を最小限に留めることに、もっとも力を入れています」と言うバークは、パンデミック中もストアではベストセラートップ100のアイテムの半分は在庫切れだったはずだと指摘する。

「私たちは牧場を所有すべきなのです」

この戦略を取らずにいるブランドに対し、バークは批判的だ。「ファッション業界の問題はそこです。成長を急ぎ過ぎている。早く成長しすぎると、結局は生産過剰になってしまうのです」と彼は言う。

「ファッションビジネスにおけるサスティナビリティの問題は、成長速度を緩めると誓い、それを実行しなければ解決できません」

競合他社はこれには同意しないだろう。彼らが成長速度を緩めれば、巨大企業LVMHにさらなる市場シェアを奪われることになりかねないからだ。2019年、LVMHは売り上げを15%伸ばしている。ファッション業界全体の4%という成長率に比べると、同社は急速な成長を遂げている。

持続可能性を高めるための取り組みとして、ルイ・ヴィトンはサプライチェーンにおいて自社で責任をもつ範囲を拡大している。

この取り組みを一つの理由として、同社はテキサスの大牧場を購入し、もともといた牛の中から16頭の若い雌牛を残した。この牛革をハンドバッグに使用する予定はないものの、自社製品に使われる原料について会社が学ぶ機会になるとバークは言う。

「業界を外から変えることはできません」と彼は語る。「私たちは牧場を所有すべきなのです。そうやって学ぶのです」

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