【#えぞ財団:首長インタビュー①】村椿当麻町長×木下さん①~役場職員から町長へ、仕掛けまくった職員時代~
■村椿 哲朗:2020年から当麻町長。当麻町役場ではまちづくり推進課地域振興係長などを歴任。「出来ない理由より、出来る理由を考え行動する公務員」「食育・木育・花育による心育のまちづくり」主軸に積極的なタウンプロモーションを実施。1979年当麻町出身。趣味は読書、アイスホッケー。
■木下 斉 : 一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。
1982年東京都出身、母親が旧丸瀬布町(現遠軽町)出身。著書「地元がヤバいと思ったら読む凡人のための地域再生入門」「地方創生大全」「稼ぐまちが地方を変える」等。
でんすけスイカで有名な人口6400人の当麻町。役場の”元広報マン”だった町長が伝えたい当麻町の魅力
村椿:当麻町は北国、雪の降る街で当麻町といえば“でんすけスイカ”でして、初競りの最高値が去年の75万円でした。今年はコロナでどうなんだろうというところはあったのですが、その後一般の流通としては値崩れもせずスイカの王様ということで価値があるのではないかという事で今のところは安心しています。当麻町は北海道のほぼ中央部に位置しています。人口が約6400人。当麻町はでんすけスイカ以外にも12年連続北海道一の食味を誇る産地としてランキングされたり、キュウリも全道一の出荷量を誇っていたりします。お米を中心にいろいろな作物が全道トップクラスの農業地帯となっています。
当麻町特産「でんすけすいか」去年は初競りで1玉75万円の値が付いた
村椿:そんな当麻町、もともと農業が強かったのですが当麻町にはもっと魅力のあるところがあるはずだと掘り起こしを始めているところで、思いきって「全部ある当麻町」という事で進めています。当麻町にはキラーコンテンツと呼ばれるものはありませんが当麻町の人そのものが町を活気づけていくと考えて現在プロジェクトを進めています。ただ私自身、当麻町役場で広報を担当していたので知られなければ何の意味もないと思っています。いくら良いものがあってもそれをどう広げていくかというところが今自治体に求められているところじゃないかという事で徹底的な見える化を進めています。
「全部ある当麻町プロジェクト」、中学生まで医療費無料、一戸建て建築に250万円分の地元木材提供や最大300万円の起業支援など具体策を次々と
村椿:そういった挑戦をする方々の夢を叶えるといったところで官民関係なく当麻の良いところは全部発信していく、そんな意気込みで始めているのが全部ある当麻町プロジェクトとなっています。16項目ありまして違うデザインのものがSDGsばりにひとつひとつ小さな四角になっていまして、下の方にいくと「人情ある」とか「愛ある」とかちょっとハテナが浮かぶところもあるのですが、それそのものが町の魅力という事で全部ありますと思いきって言っております。具体的に何をしているかと言いますと当麻町三本柱を掲げて「食育」「木育」「花育」によるまちづくりを進めています。いのちへの感謝の「食育」、ふれあいを守り伝える「木育」、豊かなこころを養う「花育」の三本柱となっています。当麻町はターゲットを子育て世代、現役世代の皆さんに絞って政策を特化させています。まず注目されるのが中学生までの医療費が無料であったり、小中学校の修学旅行を助成させていただいたり、高校生への支援も行っていたりしています。こういった家庭への支援はもちろんなんですけれども、それ以外の部分でも取り組みを進めているところがあります。
村椿:農業がもともと強い町といった自負はあったのですが林業・木を活かせないかと考えております。大きな政策のひとつとして当麻町で50~60年前に植えられた木が今かなりの量を使える状況になっており、その豊かな資源を活かしたいといった思いで当麻町で一戸建ての住宅を建てられる時に最大250万円分の柱だとか梁、木材の原材料全てを提供させていただくということで、この制度が2013年から始まって今までに106軒の新築住宅が建っております。そしてもうひとつ力をいれているのが起業をする事への支援となっております。当麻町のお店元気事業補助金としましてお店の新設・リニューアル時の増改築費用、設備費用などの一部を最大300万円まで応援させていただきたいと思っています。こちらも今まで11軒のお店で活用していただきまして、そのうち9軒が新規オープンという形で町外から新しいチャレンジをしたいという事で魅力的なお店が集まってきています。そういった部分を徹底的に見える化する為にポスター・パンフレット・Web関係で発信していったり、それに付随する魅力を更に昇華させたいという意味でソフト型のコンテンツ制作も同時に進めています。当麻町の最近の取り組みについてです。
地元当麻町役場の広報時代、”お荷物”だった土地を価値ある町の財産へ(役場職員時代)
木下:政策は今お話しして頂いたようにいろいろな事をやってらっしゃると思うんですが、もともとどういうキャリアで北海道で生まれ育って、学校とかいろいろな人生の系譜があると思うんですけれども、そのヒストリーも含めてお話をお伺いできればなと思います。生まれから当麻町でいらっしゃるんですか?
村椿:そうですね、実家がずっと当麻町にあって2歳の時に戻ってきました。それからはずっとここで就職も当麻町役場にさせてもらいました。
木下:なるほど。先ほど広報をされていたというお話もありましたが、役場ではどのような事を手掛けられていらっしゃったのですか?
村椿:広報が一番長かったんですけれども、広報をしていると良い取り組みを伝えるだけではなくて、良い流れを自分の手でも作れるのではないかと考えた事がありました。広報と地域振興といいますか企画関係になるかもしれないのですが、それを全部ミックスさせて同時進行で何かプロジェクト的な事を起こせないかと考えていまして、そういう意味では広報と企画がミックスしたような形でいろいろと取り組ませていただきました。
木下:なるほど。何か職員時代に手掛けられていて手応えのあったプロジェクトというのはありますか?
村椿:そうですね、先ほど「食育」「木育」「花育」といったんですけれどもこれが今当麻町の柱になっていて、本当は当麻町が土地開発公社という町的に分譲している土地があるんですけど、そこがなかなか売れなくて当時土地開発公社で塩漬けになっている土地が話題になっていましてそれが大変な負債だと。
木下:土地開発公社は全国区でお荷物三セクの代表と言われている時期もありましたもんね。
村椿:そうなんです。それでかなり厳しい時もあったのですが、当麻町は本当に良い町だという自信はあったのでその魅力をいかに伝えようかと進めた事がありました。重要視したのは民間企業の方の考えをいただいて私たちと一緒になって官民の力でいかに進められるかという事で、こちらはおかげさまで流れが良くて分譲地はその後飛ぶようにでていって今は逆に宅地の供給が追い付かない状況になっているくらいでして、これはこれで問題なんですけれどもまた新しい発想で良い宅地を見つけていきたいと思っているところです。
超難題。”タダ同然の土地”を”価値ある土地”に…民間企業とのパートナーシップ強化へ(役場職員時代)
木下:そこは旭川都市圏の中で当麻町が選ばれるようになったという事ですか?働きに行くのは旭川市内で働く方々が家を建てられるんでしょうか?
村椿:そうですね、旭川市を囲む町がたくさんある中で当麻町も頑張ってはいたと思っていたのですが知られていなかったんですよね。それで誰に聞いたら一番わかるかと考えた時にハウスメーカーであったりホーム系の営業の方にお話を聞くのが一番だなと思いまして、積極的にお考えをお聞かせいただいた時に一つ言われたポイントで安売り合戦になっていたところがあったんですよね。
木下:当時ですね?
村椿:はい。分譲地があまりにも動かなかったので、私の聞いたところですと他の自治体では、土地1円だとか。
木下:(笑)投げ売りにも程がありますね。もう土地開発公社からしてもオフバランスしたい感じですね、切り離したいからどこか引き取ってくれと。
村椿:わずかな限られた区画だったとは思うのですがそういった取り組みもほかの自治体でされてきた中で、自分も子育て世代の一人としてじゃあ土地が安いからその場所に住みたいかといわれるとハテナが浮かぶと。その町が将来的に賑わいというか、活気があって面白そうだと思わないと、2000~3000万円する家を建てたいという風には思わないと思いまして、いかに町の魅力を作って伝えていくかという事に重きをおいて、プロモーションといいますか営業をかけた時に、その姿勢を見ていただいていたハウスメーカーの方たちが、こいつら本気だなと信頼関係が少しずつ生まれていったというところがありました。そして当麻町を推していただけるようになったというのが今の良い分譲の流れに繋がっているんじゃないかと思っています。
木下:なるほど。分譲が進んでいったのはもちろんもともと当麻町はあったわけですけれども、住んでいただきたいと思っているファミリー層の方々にはなかなか選ばれにくかったというところで、それに向けてさっきの教育的要素を含めて根付かせながらも知らしめるために、ハウスメーカーさんであったりそういう方々とのパートナーシップを強化していったという事なんですね。それが結果的に多くの方から当麻町意外と良いねっていう話になったわけですね。
村椿:そうですね。
土地が売れて家がどんどん建ちだした!活用される一戸建てへの木材提供、昨年は倍増
木下:今分譲用の土地自体がだいぶ売れてしまったという事ではあったんですけれども、子育て期の方々からどのくらいのスパンでパパっと売れるようになったんですか?十年くらい?
村椿:いえ、この6~7年くらいなんです。「食育」「木育」「花育」のプロジェクトと、分譲地の促進であったり、先ほどご説明した一戸建て住宅の木材を最大250万円分供給しますという事で、平均すると一軒当たりだいたい170~180万という相場みたいなんですけれども、そのご支援をさせていただいて一気に加速したという形ですね。
木下:なるほど。結構あっという間にはけたというか引き合いが増えたんですね?
村椿:そうですね、最初はメーカーの方たちもよくわからない制度が始まったなと認知期間が厳しかったです。それから一年くらいして当麻町さん頑張っているし使いやすいし応援しようかなとなった時に、一年14~15軒平均から、昨年に至っては28軒その制度を活用いただきました。
町外企業と連携で”木材トレーサビリティ”、先祖が育ててくれた木材で公営住宅を建築(役場職員時代)
木下:当麻町には木材とか資材を建材として加工される会社さんがあったりするんですか?
村椿:はい。製材の第一段階までできる工場がありまして、その後乾燥工程・集成材工程というのは他の町にお願いしているのですが、町外の企業の方にもご協力いただきましてひとつのトレーサビリティですよね、当麻町の資材を一元的に管理するという仕組みを作って、当麻町の木材を使っていただくという制度を成立できたというのが一番大きかったですね。
木下:今のような制度を活用されて新築で建てられる方もいらっしゃって、プラスアルファ他の引き合いもあったりするんですか?例えば公共施設を建てる時に使うとか、そういった事もあるんですか?
村椿:そうですね、まさにこの制度がどうして木材流通のチェーンを作れたかというそもそもの仕組みなんですけど、まず公共施設から始まりました。一番最初に手を付けたのが公営住宅だったのですが、公営住宅ってなんとなく鉄筋コンクリート造りじゃないといけないようなイメージが強かったと思います。
木下:全国区であまり考えずになんとなくRCで建てるのが当たり前で、すごくお金をかける割に全部同じような団地っぽくなるというのはありますね。
村椿:そうですね(笑)民間ベースの考えでいくと二階建ての集合住宅っていうのは費用対効果から見ても木造がほぼベストなのに、なんで公共工事だからといって鉄筋コンクリートじゃなくちゃいけないんだっていうところを菊川前町長からおかしいと。当麻町で先祖が育ててくれた木が今まさに伐期を迎えてどう使われるんだというような状況の中で、50年くらいかけて育ってきた木もパルプ材や木質燃料として大量の在が一律に燃やされるより出来れば住宅建材として、付加価値の高いものとして暮らしを支えるべき資源じゃないかというこだわりで、前例はなかったのですが思い切ってこれから当麻町の公営住宅は全て木造化するという事が大きかったですね。
先祖が育ててくれた木材で建築された公営住宅
役場職員から町長へ!”100%木材の役場庁舎”と共に”同志”菊川前町長から託されたバトン。
木下:実際に公営住宅の建て替えを木造で行った中で前提としてまさに先ほどの建材全体の工程に関わるような方々とのお付き合いも成立していたという事なんですね。
村椿:そうですね、公共建築で非常に良い流れができて、こんな事ができるんだと予想以上に外からの評価が良かったんですよね。そしてコストが抑えられたというのも大きかったですし、あれよあれよという間に最終系に進みまして当麻町役場庁舎の建て替えを2年前にやりました。この庁舎が最終目標だった100%町産材を使った建物として実現することが出来まして、今までのひとつひとつの積み重ねがゴール地点の庁舎という形でやらせていただきました。
100%木材で建築された当麻町新役場庁舎
木下:それが二年前に建ったという事なんですね。
村椿:はい、そうです。
木下:なるほど。ちょうど村椿さんが町長になられるタイミングと重なりましたよね?
村椿:そうですね。私は今年の2月、町長に就任させていただいたのですが、菊川前町長と失礼ながら同志というような形で、この町の為にどうしたら良いのかを常に考えさせていただいていましたし、「食育」「木育」「花育」という事をやらせていただいてそれを繋げていくというタイミングで、お話いただいた時には正直自信はなかったのですが、一緒にやってきた者としてこの意志を継がないとなんて逃げ腰なんだろうって自分でも思ってしまってですね。
木下:なるほど(笑)
村椿:これはもうやるしかないというような思いで今に至っています(笑)
菊川前町長と村椿町長
木下:そうですか。庁舎建て替えにも関わっていらっしゃったんですか?
村椿:そうですね。この庁舎の一つ前に内閣府の地方創生系の事業で木育拠点施設というものを建てさせていただきまして、そこは木工のクラフト系を作る事と知的障害のある方達の作業の場のミックスでした。そういった意味で異業種の方との官と民の方が一緒にその施設を使うという発想の下でできた施設があったのですが、そこがまさにこの庁舎のモデルとなる町産材98%くらいまで使い切ったものがあって、実現した後にそこが高評価をいただいていた事もありまして、町長が庁舎も当麻スタイルでやるぞということで一気に進みましたね。
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