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大雪山・原始ヶ原ママさんダンプ事件 ファイル4

前回のあらすじ

不必要になったママさんダンプは後から拾いに来るという言い訳のもと、原始ヶ原の木にぶら下げておいた。道も何もない原生林の真ん中での話である。きっと今でも同じ場所にぶら下がっているだろう。(『探検家、36歳の憂鬱』p34)

・・・今もなお木にぶら下がり続けるという伝説のママさんダンプを求めて原始ヶ原までやってきた

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・・・探検部の証跡を追って広大な原生林を彷徨う

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・・・何の成果も得られず、ある疑惑を抱きながら一日を終えたのであった


謎の穴

ママさんダンプを探す傍ら、それとは別に不思議に思っていることが一つありました。それは、所々で木の根元に空いている謎の穴です。

「キタキツネかエゾユキウサギが掘った穴だろうか?」

しかし、穴の中をや周りを見てみても、足跡や毛が落ちていたりといった動物らしき痕跡は見当たりません。

「木の枝から雪の塊が落ちてきて穴が開くのか?」

掘って開けた穴というより、何かの衝撃で空いた様な感じがするので、その可能性も考えてみました。しかし、雪落ちてきたのなら穴が開くのではなく、逆に盛り上がっているはずです。

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写真では分かりづらいが、穴が空いている

そんな事を考えながら歩いていた、その時です。「バサッ!!」という音ともに視界の端で何かが動くのを捉えます。

「クマか!?シカか!?」

4月にもなるとヒグマがすでに活動し始めていることは新聞などでも報じられていて、道内各地でヒグマの足跡や姿の目撃情報が出ていました。当然、この大雪山も例外ではないはずです。しかも、登山ではなく山菜採りではありますが、実際に道内でヒグマによる死亡事故も発生しています。

ドキッとしながら慌てて音がした方を目視しますが、そこには何の影もなく、ただ枝が揺れているだけでした。

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そこには何もいなかった


穴の正体

ヒグマではなくホッとするとともに、このことで穴の正体が判明しました。つまりこういうことでした。

冬に雪が降って、枝に乗った雪の重みで木の枝が垂れ下ります。さらに雪が降って、木の枝がそのまま雪の中に埋まってしまいます。そして春になってだんだんと雪が溶けていき、ある程度まで雪が溶けると、枝がバネの様に持ち上げられます。すると、その跡に穴が残されるというわけです。

ママさんダンプ.005


疑惑

一つの謎が解消されました。が、しかし、この一件で新たな疑惑が生まれました。角幡さんは著書の中で”きっと今でも同じ場所にぶら下がっているだろう”と書いていますが、本当にママさんダンプは木にぶら下がっているのでしょうか?

原始ヶ原の木にぶら下げておいた”とのことですが、原始ヶ原の周辺に生えている樹は主に、アカエゾマツトドマツダケカンバなどです。これらの樹をよく見てみます。すると、ダケカンバは手の届く高さには枝はほとんどありません。アカエゾやトドマツは手の届く高さに枝がありますが、その多くは垂れ下がっているか、折れてしまっています。

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年季の入ったアカエゾ

仮にこれらの枝にママさんダンプをぶら下げて、二十数年経った今でもぶら下がり続けているということがあり得るのでしょうか?雪の重みで枝が垂れ下がればママさんダンプはずり落ちてしまうでしょうし、重みで枝そのものが折れてしまう可能性もあります。また、ママさんダンプはその形状から風の影響も受けやすいと思われます。風に煽られて飛ばされてしまったかもしれません。

そうなると、もし当時のママさんダンプをぶら下げた木に辿りつけたとしても、雪の下に埋まっていては見つけることはできません。

ママさんダンプ.006

こうなっていてはどうしようも無い


下山

翌日朝起きると、昨日よりも空気が澄んでいて絶好の登山日和でした。朝の富良野岳もきれいです。当初の予定ではこの日も捜索を続ける心算でしたが、これ以上闇雲に探しても意味がないので、早々に下山することにしました。

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朝の富良野岳

もし本当にママさんダンプを見つけようとするなら、どうするべきでしょうか?少なくとも、実際に合宿に参加した人に当時通ったルートを聞かなければ無理でしょう。さらに、雪の下に埋まってしまった可能性もあるので、雪が溶けきる前のママさんダンプが顔を出しそうな絶妙なタイミングで捜索する必要がありそうです。

国有林で特別保護区でもある原始ヶ原です。許可を取れば夏の捜索もできるかもしれませんが、「ママさんダンプを探したい」」という訳の分からない理由に許可が下りるとも思えません。

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絶好の登山日和の中、下山する

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芦別岳方面もよく見える

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ヒグマの足跡?

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春ですね


ということで、何も見つけられないまま終わった今回の捜索でした(はなから見つけらるとは思っていませんでしたが)。とはいえ、実際に現地を歩いて見ないと分からなかったこともあったので、無駄ではありませんでした。何よりも天気が良かったので単純に楽しかったです。

もし当時を知る人に会う機会があって、当時のお話を聞くことができればまた捜索に行くかもしれません。(たぶん、続きません)


参考


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