大雪山・原始ヶ原ママさんダンプ事件 ファイル2
前回のあらすじ
合宿の計画自体は野心的なもので、まず北海道の中心部である富良野から原始ヶ原と呼ばれる広大な針葉樹林の森を抜け、十勝岳連峰を越え、トムラウシ温泉へと向かう。トムラウシ温泉で一度休息した後、そこからは二月の凍える大雪山の主脈に移り、北海道の最高峰旭岳を目指そうとういうものだった。総距離百キロ。厳冬期の北海道の山の中を一カ月近くかけてスキーで踏破する計画は、もはや合宿というより国内遠征に近かった。(『探検家、36歳の憂鬱』p32)
・・・1997年に実施された早稲田大学探検部の大雪山縦走合宿
装備や食料は膨大な量になった。それに対応するためにはIさんが考えついたのがソリの使用だった。ソリといっても、使うのは極地探検で使うような高性能の人力ソリではなく、北海道のスーパーならどこでも手に入る除雪用のいわゆるママさんダンプだった。(『探検家、36歳の憂鬱』p33)
・・・膨大な装備を運搬する秘策「ママさんダンプ」
Iさん発案のソリは、残念ながら使い物にならなかった。荷物が重く森の中の深雪に埋まってしまい、一向に進まないのである。ソリがない方が確実に楽であることは出発してからすぐに全員が気づいたが、リーダーであるIさんの発案でもある手前、みんな中々そのことを口に出せなかった。(『探検家、36歳の憂鬱』p33)
・・・が、秘策は失敗に終わる!
不必要になったママさんダンプは後から拾いに来るという言い訳のもと、原始ヶ原の木にぶら下げておいた。道も何もない原生林の真ん中での話である。きっと今でも同じ場所にぶら下がっているだろう。(『探検家、36歳の憂鬱』p34)
・・・放置されたママさんダンプは果たしてどうなったのか!?
・・・というわけで、放置されたママさんダンプを探すべく残雪期の原始ヶ原へ向かったのであった。
捜索範囲
山と高原地図③大雪山 十勝岳・幌尻岳
大雪山が国立公園に指定された理由はその「広大な原始山岳環境」にあると言われています。広大な原生林の真っ只中です。いざ捜索するにあたっては、ママさんダンプがどの辺りに放置されたのかが解らなければ埒が明きません。まずはおおよその場所を推測する必要があります。まず、ヒントとなるのは次の記述です。
不必要になったママさんダンプは後から拾いに来るという言い訳のもと、原始ヶ原の木にぶら下げておいた。道も何もない原生林の真ん中での話である。きっと今でも同じ場所にぶら下がっているだろう。(『探検家、36歳の憂鬱』p34)
つまりママさんダンプが放置されたのは、①登山道外でおそらく登山道から目につかない範囲だろうということと、②原始ヶ原の樹林帯であるということです。以上のことから、まず登山道付近と森林限界より上部は捜索範囲から除外することができます。
赤色は捜索範囲外
ルートを推測する
さらに放置された場所を絞るために重要となるのが、「どこから入山し、どういうルートを通ったのか?」という点です。参考となるの記述は次の部分です。
合宿の計画自体は野心的なもので、まず北海道の中心部である富良野から原始ヶ原と呼ばれる広大な針葉樹林の森を抜け、十勝岳連峰を越え、トムラウシ温泉へと向かう。(『探検家、36歳の憂鬱』p32)
ちょっと情報が少ないのですが、この記述から普通に考えるとまず候補として考えられるのは①原始ヶ原登山口からの入山です。原始ヶ原登山口から夏の登山道とほぼ同じルートで原始ヶ原・富良野岳へと辿るルートです。原始ヶ原登山口へ通じる布礼別林道とその手前の市道は冬季閉鎖されますが、冬季に富良野岳へ登ろうと思った場合に最も合理的なルートです。
しかし、彼らは泣く子も黙る早稲田大学探検部です。そんな”普通”のルートを通るでしょうか?例えば前富良野岳も踏破する計画だとしたらどうでしょうか?その場合、原始ヶ原登山口を経由せず、②布礼別林道の途中から直接前富良野岳を目指すというルートも考えられます。
さらに他のパターンも考えられます。気になるのは”原始ヶ原と呼ばれる広大な針葉樹林の森”と言っている点です。このフレーズから想像されるのは登山道のある場所より東側の開けた場所、地図にも”原始ヶ原”と記載してある辺りです。もしこの地点を通ったとすると、③東大演習林から入山し大麓山・トウヤウスベ山を経由して原始ヶ原を抜けるルートも考えられます。
これらの3つの候補を地図にまとめると次のようになります。
考えられるルートは3つ
捜索開始
街中では雪がすっかり溶けて春の香りを感じさせる4月某日、実際に現地へ赴きました。とはいえ北海道の山はまだまだ残雪期です。なぜこの時期にしたのかと言うと、布礼別林道へ向かう市道が開通するのが4月1日からだからです。そのため歩く距離を少なくすることができます。また、雪が締まって冬季と比べて歩行が楽になること、そしてなによりも、寒い思いをしなくて良いからです。
早稲田大学探検部が辿ったルートの候補として3つほど挙げました。しかし、これらは想像の域を出ず、他に参考となる文献がないため確定することはできません。とはいえ、机上で考えるだけでは何も始まらないので、まずは一度現地を見てみることにしました。
実際に行ってみると布礼別林道にも途中まで除雪が入っていて、行程を少し短縮することができました。今回はとりあえず原始ヶ原登山口から夏道とほぼ同じルートを辿って、まずは原始ヶ原を目指すことにします。原始ヶ原から富良野岳へは山スキーとして人気のルートのようで、スキーのトレースもいつくか残っていました。
ここまで除雪が入っていた
原始ヶ原登山口
夏道を辿る
原始ヶ原分岐
ということで、原始ヶ原まで来たのであった。(続く)