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知識ではなく『問い』を持つ——思考する女性のためのフレイレ式対話

フレイレのダイアログを実践

「女性の声・プロジェクト」コミュニティがスタートして1年が経ちました。オンラインでの勉強会と交流会を定期的に行っていますが、これを知識を得る場ではなく、水平的な関係で語り合う場にしています。私はよく「女性同士の雑談」、「気軽に語り合う」、といった表現をしていますが、これは、サザエさん的な立ち話のことではなく、実はパウロ・フレイレの「被抑圧者の教育学」のダイアログ(対話)を意識しています。

このフレイレのダイアログ(対話)は、抑圧されてきた人々が抑圧構造を克服し、社会変革を実現するための重要な概念として知られています。日本でフレイレは、特に従来の「銀行型教育」(知識を一方的に注入する教育)を批判したことで知られていると思うのですが、その先の水平的な関係でのダイアログ(対話)こそ、もっと知られて欲しいと考えています。

フレイレのダイアログ(対話)の目的は、給湯室やママ友界隈のような情報交換会でもなければ、企業研修のような形式があるものでもありません。その目的は、「意識化」を促し、学習者が現実を批判的に捉え、社会の不正に気づき、自ら変革に向けた行動を起こすことにあるのです。(ちなみに、大学院での最初のモジュール、「社会正義の理論」の先生が入学前に読むのを強く推奨していたのがこの本です。)

フレイレのダイアログによる「意識化」の特徴

  1. 受動的な学習からの脱却

    • 教育を「銀行型教育」(知識を一方的に与えられるもの)から「問題提起型教育」(学習者自身が問題を発見し、対話を通じて理解を深めるもの)に転換。

    • 知識を暗記するのではなく、自分の生活と結びつけて考えることを重視。

  2. 社会の不正構造を批判的に捉える

    • 学習者が「なぜ自分たちは抑圧されているのか?」と問うことで、社会の構造的な問題に気づく。

    • 例:貧困、差別、労働搾取が「個人の努力不足」ではなく、「制度的な問題」であると理解する。

  3. 現実を変革する行動へつなげる

    • 意識化は知識の習得だけで終わらず、学習者が社会を変える行動を起こすことを目指す。

    • フレイレはブラジルの農村部で、労働者が文字を学ぶことで労働環境の改善を要求するようになった事例を示している。

    • 例:「女性の声・プロジェクト」でも、まずは自身の環境を変えるためのアクション起こす人が出てきた。


「オートバイオグラフィ」の効果

「女性の声・プロジェクト」として「私のライフストーリー」講座も始めましたが、これはフレイレに加えて、オートバイオグラフィ(自伝的記述)の効果も取り入れたものです。

オートバイオグラフィは自伝的記述、とも言われますが、単なる自己の振り返りではなくて、個人の経験を社会構造と結びつけて分析する手法として、社会学の視点からも重要な意味を持ちます。個人の経験は決して個人だけのものではなく、歴史的・社会的な文脈の中に位置づけることができる、というわけです。

例えば、日本では、性別、親の職業、地元、教育などの要素が、個人の人生に深く影響を与えています。「私のライフストーリー」講座では、特に「性別」の影響について深く考察するための時間を設けています。そして、各々が、オートバイオグラフィ形式で自分の人生を振り返ることで、「私はなぜこのような選択をしてきたのか?」「なぜこの出来事は私にとって重要だったのか?」と問い直します。そして、その背景にある社会制度や文化規範の中に生きてきた自分の人生の選択や出来事を浮かび上がらせることができます。

加えて、社会学でのオートバイオグラフィは、フレイレの「意識化」と同様に、抑圧や権力関係に気づく手段ともなり得ます。自分の経験を社会構造と結びつけて捉えることで、単なる自己理解を超え、社会の変革に向けた視点を持つことが可能になるからです。


「私のライフストーリー」講座を再開します

大学院生をしているときに、自分自身がどんな社会に生きているのか自分の目を開かせてくれたことをまとめて実践的にしたものが「私のライフストーリー」講座です。昨年秋以降は、私が日本からカナダへの移住準備とその後の生活基盤づくりに忙しかったために、一旦お休みしていましたが、生活が少し落ち着いてきたので再開します。自分の人生から、日本社会を眺めてみたい女性、強く生きたい女性におすすめしています。

「もしやそれは私のことでは?」という方、ぜひご参加ください!

社会学×自己探求講座「私のライフストーリー」~自分の言葉で紡ぐ~ 第4期(金曜夜コース) | Peatix

ぜひご参加ください!

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