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続・川瀬智子を語る〜徹底した世界観の追求〜

前回、Tommyのリバイバルブームに関する考察記事を書いたところ
予想を上回る反響をいただき、改めてTommyの人気を再確認した。

その後も本人は活動再開する気配は無いものの、ソニーミュージックがTommyプロモーション用公式TikTokや Instagramのアカウントを開設したり
2025年7月16日にはTommy february6とTommy heavenly6のアナログレコードがリリースされる事が発表された。

そんな流れで今回は前回の記事に記載していなかったTommyの演出家としての一面を再評価する記事を書きたいと思う。

川瀬智子(Tommy)の自己実現力


Tommyはもともとメディア露出が好きではなく
プロモーショントークなども苦手で嫌だったと語っている。

そのため他のアーティストに比べて
テレビ番組への出演本数も決して多くはなく
当時からレアキャラのような印象であった

しかし、音楽番組などへの出演の際には
自分の世界観を最大限に引き出せるよう
自ら演出やセットを発案・プロデュースするなどし
メディア露出が少ないからこそTommyは「出るなら私の世界観を予算が許す限り再現し尽くす」というスタイルを徹底してた。

なんなら本人の性格からして「特設セット組んでくれないなら許諾しない」くらいの意気込みであったのではないかと思う(もちろん実際にはそんなことは無いが)

これからお見せする画像は
当時の音楽番組でTommyがパフォーマンスを披露する際に組まれた特設セットだ

2001年
EVERYDAY AT THE BUS STOP
2002年
Bloomin'!
2003年
Love is forever
2004年
MaGic in youR Eyes
2004年
L・O・V・E・L・Y 〜夢見るLOVELY BOY〜

まさに異次元レベル。

これらはテレビ朝日のミュージックステーションに出演した際のTommy特設ステージである

Mステは通常"番組の統一セット+ちょっとした演出"が基本であり、アーティストによって多少の特別セットが組まれる事もあるが

Tommyの特設セットは、いくら音楽業界がまだ潤っていた時代とはいえ明らかに規格外である。

たった2:30尺のパフォーマンスのためにちょっとしたテーマパークを作っているのだ。

① 圧倒的に予算をかけた電飾セット
ハリボテではなく、ほぼ全てが電飾付きオブジェであり
普通の音楽番組なら背景パネルで済ませるところを全て電飾で発光する仕様にしてるため
ステージ全体が遊園地のような輝きを放っている。
ロゴまでただの布やパネルではなく、立体&ライトアップされているため
ロゴ単体で主役級の存在感を持たせることで、セット全体に統一感を持たせているのだ

② ステージ全体を「Tommy仕様」に作り替え

床まで専用デザイン&ロゴ入りで完全リニューアルしているのが見どころだ
通常Mステのスタジオの床はそのまま使うのに対し、Tommyの時は専用シートに貼り替えてプリントまでしてる
これはもの凄く手間&コストがかかる作業であり
普通のアーティストのパフォーマンスでは絶対やらないレベルだ。
そして奥行き&立体感のある構成もポイントである
ステージ全体が3D空間の様に作られており、立体的な装飾を多用することで、まるで「1曲のために新しいステージを作った」レベルの仕上がりになっているのだ。

③ 高すぎるセットのデザインクオリティ

Tommyのコンセプトに完璧にマッチしたポップで可愛いデザインになっており

デビューシングルでまだキャラクターや設定も出来立てホヤホヤな段階というのを踏まえて
改めて「EVERYDAY AT THE BUS STOP」のステージを見てもらうと
ありえない世界観の作り込みをしてる事がお分かりいただけるかと思う。

ただ派手なだけではなくTommyの世界観を壊さないように徹底的に作り込まれてる。
色のバランス、ロゴの配置、セットの形状すべてが計算されており
セットの色彩が鮮やかで、照明と完璧に融合してる。
これはTommy自身や制作チームも監修やアイデア出しをしたのであろう
Mステの演出家や美術スタッフ大道具スタッフだけで作り上げたとしたらあまりに天才すぎるセンスが良すぎる。

普通、電飾を多用するとチカチカして雑になりがちなところを色の統一感と照明のバランスが完璧であり完全に"Tommy february6の世界"に浸れる空間が作られてる。

④ 2分30秒のためにここまでやる異常さ

テーマパーク級の作り込みなのに、たった1曲のためだけに使われる
これが最大の異常ポイントだ。
普通なら「同じセットを他のアーティストにも流用する」「コスト削減で使い回す」ところを
完全にTommy専用セットになってる

"豪華に見せる"ではなく"本当に豪華"なのだ

例えばパネルにライトを当てるだけでゴージャス感を出したり、テレビ的な見せ方で誤魔化すことは一切しておらず
本物のセットを作り込んで、まるでディズニーランドのパレードステージみたいな空間を作り上げてる
まさにTommyランド状態だ。

もはや「Mステの中の一演出」ではなく
番組ごとTommy仕様にカスタムしたレベルであり
Mステは通常「アーティストが出演するための番組」だが
この時のMステはTommyのための番組になってるのだ。

しかし、それぞれの出演年に目を向けると
何となくその理由にも納得がいくかもしれない

そう、Tommy february6のミュージックステーション出演は年イチペースであるため
1回1回の出演がTommyにとっても、ファンにとっても、番組にとっても
とても貴重なものであったのだ。

これが毎月のように出てたら、ここまでのクオリティにはならなかったかもしれない。

Mステ側は「この1回が超貴重なTommy回だから、全力でセットを作る」というスタンスであったし
Tommy自身も世界観を妥協しないので「普通のセットじゃダメ」という前提のもとで作られてたのだろう

だからこそ、ファンにとっても「今年のMステ出演はどんなセットになるんだろう?」という期待感が毎回あり、番組としても「Tommyが出る回は特別仕様」という扱いになっていたのだ。

NHKとTommyの相性の良さ


また、ミュージックステーションのみならず
NHKもTommyの出演時には物凄い予算を使ったステージを実現させていた。

TommyはたびたびNHKにて旬のJ-POPアーティストをフューチャーする番組に出演しており

その際も他のアーティストとは一線を画した豪華な演出でファンを驚かせてくれた。

2001年
EVERYDAY AT THE BUS STOP
2003年
Love is forever
2005年
♥Lonely in Gorgeous♥

例えば「POP JAM」では上記の様に、巨大なロゴ電飾に、巨大ロゴ入りバルーンの投入、電飾だらけの街をイメージした特設セットなど
こちらもMステ同様、Tommyの世界観を再現するための特別豪華仕様となっている

が、中でも1番凄かったのは
2006年のTommy heavenly6「pray」を
「ミュージック・エクスプレス」で披露した時のセットである。

MVと同じ和装の衣装
荒れ果てた大地と岩壁のセットに
ポップな巨大十字架オブジェと
巨大満月(スクリーンではなく平面オブジェ)
牛車とTommyの旗を振る忍者ダンサーズ

薄暗いステージのため、画像だけでは分かりづらい部分もあるが

実はコレ、専用の"オペラ会場"を貸し切りで使用し舞台美術・大道具をフルセットで作成
背景映像や照明演出も専用設計され
生演奏(ギター・ベース・ドラム)
に加えて
忍者ダンサー4人をアサイン
している。

マイクスタンドも日本刀になっており
ひっくり返す事で刀になる
歌のラストで爆破
ダルげなTommyと破壊力のある演出の
コントラストがカオスだ

さらにこのステージは牛車からTommyが登場するシーンからはじまり
スモーク煙玉爆破演出まで仕込んでおり
もはや「2分30秒の映画」を作るレベルになっている異常事態だ。

これは単にテレビ局のセットで済む規模ではなく劇場公演に近いものであるため普通の音楽番組の収録と比べたら予算は相当なものである。

ただ、NHKは自前で大道具・美術・照明チームを持っており
過去の舞台セットを改造して使うこともあるため、民放ほどコストが跳ね上がるわけではない。

例えばTBSやフジテレビでこれをやろうとしたら、劇場レンタル代やセット製作で相当な額がかかるが、NHKは設備や人材をすでに持っているため、そこをうまくやりくりできる。

Tommy本人がアイデア出して、それをNHKが全力で叶えたステージであったが
ここまでやってくれたのはNHKならではの強みと言えるだろう。

音楽番組の限界に挑戦したTommy

Tommyの様にコンセプトがハッキリしているアーティストに対して、それに合ったセット演出を用意してくれていた音楽番組も、自分の出演番組に一寸の妥協も許さず自らアイデアを出し全面的に総合プロデュースに注力したTommy自身も、両者が全力を尽くし、最大限可能な限りの予算を注ぎ込んで実現したこれらの贅沢なステージパフォーマンスは、結果的に音楽史にも残る見応えあるものになった。

2000年代前半〜中盤は、まだCDバブルの余韻もあり、音楽番組自体の価値が今よりずっと高かったため、このような豪華なセットを組む余裕があったのだろう。

こういった一回一回がスペシャルな出演というのは現在の音楽番組ではほぼ見られなくなったため
あの時代だからこそ成立した贅沢な演出であり、とても貴重な映像だ。

Tommyはたびたび「時代を先取りしすぎていた」「早すぎた」などと評価される事が多いが

私はあの時代だからこそTommyの良さを最大限に引き出す演出ができていたと思うため
早すぎる事は何もなかった、むしろCDバブルの余韻がまだある時代にやりきってくれてありがとうという気持ちだ。

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江崎びす子
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