【短編小説/恋愛依存症/記憶の縫い方】

2024年8月1日 19:46

記憶の縫い方

22歳の女性、心（こころ）は恋愛依存症に苦しむ。
幼少期のトラウマ、そして空っぽの心を埋めるために求め続けた愛。
その彼女が、ついに本当の愛を見つけ、自分を取り戻すまでの物語。

心が幼い頃、母親の再婚相手である優しそうな眼鏡の男性は、実は心に対して不適切な行為を行っていた。

彼の冷たい手が触れるたび、心は恐怖で体が硬直した。

母親の笑顔を守るため、心は誰にも相談できず、ただ耐え続けた。

夜、布団に包まって涙を流しながら、「いつかこの悪夢が終わる」と自分に言い聞かせた。

高校生になった心は、今までスマホなどにためてきた証拠を警察に提出する決意を固めた。

震える手でスマホを渡すと、警察官の優しい目が心を見つめていた。

「よく頑張ったね」と言われた瞬間、心の中で何かが崩れたように感じた。

男性は逮捕され、母親は真実を知って娘への申し訳なさからうつ病に陥る。

母親のうつ病は日増しに悪化し、心はそれを見守ることしかできなかった。

ある日、学校から帰ると、アパートに母親の姿が見当たらなかった。

「お母さん？」返事のないホワイトノイズの中、心は母親の部屋に駆け込み、そこで目にしたのは首を吊った母親の冷たい姿だった。

涙が止まらず、心は「お母さん、ごめんなさい…」と何度も繰り返した。

母親を失った心は、風俗法に違反するような店（キャバクラ）で年齢をごまかしながら働く。

お店の客や知り合いに頼んで登録したマッチングアプリで出会った人々と身体を交わし、空っぽの心に愛を注ぐが、心は満たされることはなかった。

ベッドの上で一人、天井を見つめながら、「こんなに頑張っても、心の穴は埋まらない」と呟いた。

やがて店長から年齢の件などバレたらまずいからと辞めさせられ、さらなる孤独に苛まれる。

マッチングアプリで出会った男と関係を持ち、その部屋に寝泊まりさせてもらう。男は優しく、心を様々な場所に連れて行ってくれる。

心は「この人なら私の心を満たしてくれる」と信じるが、男が他の男と連絡を取っている心に激怒し、暴力を振るう。

虐待の記憶がフラッシュバックし、心は涙を流すが、男の抱擁に再び依存してしまう。

「どうしてこんなことになるの？」と、心の中で叫びながらも、彼の温もりにしがみついた。

ある日、心は広い昼間の公園を一人で散歩していた。

そこで見たのは、小さな女の子とその両親の幸せそうな姿だった。

突然、幼い頃の記憶が蘇り、「愛してる」という父の声が頭に響く。

母親と父親との数々の思い出が走馬灯のように流れ、心は両親からの愛を思い出す。

水族館の大きな水槽の前で、心は母親と父親の間に挟まれて、魚たちの舞う姿を見つめていた。

父親が「こころ、見てごらん。あの魚たち、まるでダンスをしているみたいだね」と笑いかけると、心は「本当だね、お父さん！」と目を輝かせた。

母親が「私たちも一緒にダンスしようか」と言って、三人で手をつないでスキップするようにその場で踊った。

動物園では、父親が肩車をしてくれた。「お父さん、高いよ！」「こころ、ライオンが見えるかい？」「うん！すごくかっこいい！」

母親はその姿を見て微笑み、「私たちの小さな冒険者ね」と言った。心はその瞬間、家族の温かさと安全を感じていた。

心はその記憶に包まれ、涙を流しながらも笑顔を浮かべた。

「私はこんなに愛されていたんだ」と実感した。

母の遺書に書かれた「愛してる」の文字を思い出し、心は過去の傷を癒やしながら新たな一歩を踏み出す決意をする。

「ここからはもう大丈夫、私は両親の愛に支えられている」と、心は前を向いて歩き始めた。

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