岩波ウェブ連載「3.11を心に刻んで」に、新井高子編著『東北おんば訳 石川啄木のうた』について寄稿しました。
https://www.iwanami.co.jp/news/n23504.html
岩波書店のウェブサイトでは、3.11にまつわるさまざまな人の文章を、震災以来現在に到るまで毎月連載し続けている。いつも冒頭に誰かの言葉を引用し、そのあとエッセイが続くという体裁だ。
昨年末に寄稿依頼を受けたとき、まっさきに頭に浮かんだのが、手元に届いたばかりのあらたかさんの『東北おんば訳 石川啄木のうた』だった。詳しくはリンク先の文章を読んでいただくとして、この本、やはり昨年出た森山恵さんの『A. ウェイリー版 源氏物語』と並んで、詩歌の翻訳というジャンルにおける画期的な出来事であったと思っている。
どちらも原文と翻訳とが重なり合って新しい豊かな世界を醸しだすのだが、『東北おんば訳 石川啄木のうた』の場合、そこには3.11という生々しい現実がさらに噛んでいる。現実とその言語化という関係が、翻訳という装置によって鮮やかに浮かび上がってくるのだ。良質の詩歌翻訳でありながら、同時に詩歌の本質についての啓示に富んだ批評としても読める。
だがなによりも、僕はこの本を通してはじめて3.11を実際に味わった方の心に触れたような気がしています。