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同じ視覚障害でも、抱えている悩みは違う。全盲のアドバイザーが描く、一人ひとりの悩みに寄り添う歩行支援
スマートフォンひとつで、道案内と障害物検出、歩行レコーダー機能を備えた歩行支援アプリ「Eye Navi」。
これまで、Eye Naviは視覚障がい者の方を中心に、「誰もがどこへでも、自由に楽しく移動できる社会の実現」を目指して、サービスを提供してきました。
そんなEye Naviを開発するメンバーに、サービスにかける想いを聞く「Eye Naviインタビュー」!
今回は、視覚障がい当事者として、Eye Naviの社外アドバイザーを務める赤松賢一さんにお話を伺いました。
元システムエンジニアで、現在はふくおか視覚障害者雇用開発推進センターの理事長を務める赤松さんは、中途視覚障がい者として、また技術者としての経験を活かしながら、アプリの進化を支えてくれています。
赤松 賢一(あかまつ・けんいち)
ふくおか視覚障害者雇用開発推進センター理事長。元システムエンジニア。OAソフト開発やFA装置の制御、画像処理など幅広い技術開発の経験を持つ。中途視覚障害となった経験を活かし、視覚障がい者の生活向上と就労支援に取り組む。Eye Naviのプロジェクト開始当初からアドバイザーとして参画。
視力を失い、一度は引きこもり生活に。社会復帰をきっかけに、視覚障がい者の就労支援をスタート
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ーー赤松さんはもともとシステムエンジニアとして働いていらっしゃったそうですね。
赤松さん:
そうなんです。もともとはOAソフト開発からFA装置の制御、画像処理、マイコンを使った自動塗布装置の研究開発まで、幅広い分野で技術開発に携わってきました。
ただ、病気で視力を失ってからは働くことはおろか、外出すらできなくなってしまって…。
ーーそんな時期もあったのですね。
赤松さん:
突然全盲になったことで、外に出るのがとにかく怖くて。結局、5年ほど引きこもっていました。でも、そんなときに区役所の福祉課や職業訓練校などで、多くの支援者の方々と出会ったんです。
みなさんが本当に根気強くサポートしてくれたおかげで、徐々に社会参加ができるようになりました。
ーーそんな赤松さんは、現在視覚障がい者の就労支援に携わっていますよね。そのきっかけは何でしたか?
赤松さん:
大きなきっかけは、北九州市の中途視覚障害者生活訓練の中で、音声パソコンの訓練を受けたことです。
最初は「視覚障がい者にパソコン操作は無理だ」と思っていたのですが、元々技術者だったので、音声パソコンさえあれば使えると確信していました。
職業訓練校で音声パソコンの訓練を受ければ、就労も夢ではないと思って。そうしたら、予想通り少しずつ音声パソコンの操作ができるようになったんです。
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ーーすごい…!
赤松さん:
視覚障害があってもパソコンが使えることを証明できた瞬間でした。でも、逆に言えばそれまでは「目が見えない=パソコンは使えない」という決めつけがあったわけですよね。
そんな経験なども含めて、私が中途で視覚障がい者になって気がついたのは、視覚障がい者の就労支援が極めて限られているということだったんです。
特に当時、視覚障がい者が選べる職業は、マッサージや鍼灸以外の選択肢がほとんどありませんでした。ハローワークに行っても、視覚障がい者向けの求人はゼロ。これはおかしいと思ったんです。
ーー視覚障害のある方の可能性が狭まっていたんですね。
赤松さん:
そう。だから、僕がパソコンを使えたように、他の視覚障がい者の方にももっと多くの可能性があることを示したいと思うようになりました。
そんな想いから、現在はふくおか視覚障害者雇用開発推進センターの理事長として、視覚障がい者の就労支援に取り組んでいます。
さらに、障害者雇用創出コンソーシアムでも活動し、3Dプリンターを活用した視覚障がい者の在宅就労支援などにも挑戦しつづけてきました。
中途視覚障がい者&元エンジニアの経験を活かし、「当事者だからこそ見える課題」を提案
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ーーそんな赤松さんがEye Naviのプロジェクトに関わるようになったきっかけを教えてください。
赤松さん:
コンピュータサイエンス研究所の代表である林さんと知り合ったのがきっかけです。「視覚障がい者向けの機器を開発する」という話を聞いて、興味を持ったんですよね。
特に、晴眼者の開発者だけでなく、視覚障害のある当事者を交えて開発しようという林さんの姿勢には大賛成でした。
私は中途の視覚障がい者なので、晴眼者の気持ちもわかりますし、当事者としての不便さもわかる。
それに、元システムエンジニアの経歴もあるので、技術面でも貢献できるのではと思って、アドバイザーをさせてもらうことになったんです。
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ーー実際にアドバイザーをしてみていかがでしたか?
赤松さん:
世の中にないものを作り出す楽しさがありましたね。できないことを何とかしてできるように試行錯誤する。その結果、誰かが便利になった、誰かの生活の役に立ったという達成感が、ものづくりや開発の醍醐味だと思います。
特に、Eye Naviの前身であるデバイスを経て、現在のアプリ開発を始めた当初は「余計な機能はいらないから、横断歩道の信号だけでもちゃんと識別してほしい」といったなるべくシンプルな提案をしていました。その結果、Eye Naviも少しずつ使いやすくなっていったんですよ。
ーー信号の判別を重視した提案をしていた理由はなんでしたか?
赤松さん:
まずは私のように目が見えなくて、外に出るのが怖いという人の恐怖を取り除きたかったんです。
一歩間違えれば事故に遭う確率が高い横断歩道の信号の識別は、視覚障がい者にとっては文字通り「死活問題」。
だから、他の機能を充実させる前に、まず歩行支援の本丸である「安全に歩ける」を実現する必要がありました。
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ーー当事者ならではの実用性を重視したアドバイスをしていたんですね。
赤松さん:
その他にも、元エンジニアとして技術的な視点からもさまざまな提案をしています。例えば音声ガイダンスの調整。街中ではたくさんの音があるので、聞き取りやすさと周囲の音のバランスが重要です。
ときには骨伝導イヤホンでの検証なども行い、他のアドバイザーやユーザーのさまざまな実験と改善を経て、今のEye Naviがあるんですよ。
同じ視覚障害でも、悩みは多様。だから、Eye Naviも進化する
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ーーEye Naviに関わることで、ご自身の中で変化したことはありますか?
赤松さん:
「歩行支援」という視点で自分以外の視覚障がい者の方と意見交換をすることで、同じ視覚障害でも、地域や年代、育った環境で感じ方が全然違うということを再発見できました。
例えば、若い世代と私たち世代では行動範囲や行動の仕方が全然違います。また、私のように中途で視覚障害になった人と、生まれつき見えない方では、危険に対する認識も違います。
電気自動車の静かさが怖いとか、お店の前の立て看板の位置とか、見えていた経験があるからこそ気づく危険もある。
たくさんのユーザーに使ってもらっているからこそ、そういった多様な視点を開発に活かせるのが、Eye Naviの強みだと思いますね。
ーー暮らしている地域によっても、歩行に関わる課題は変わってきそうですよね。
赤松さん:
まさに、そうなんです。例えば、私が暮らす福岡と東京では点字ブロックの整備状況が全然違います。
都会と地方では、インフラ面での差が大きい。だからこそ、Eye Naviのような支援ツールの重要性は高いんです。
特に地方では、音響信号も少なく、道路の舗装も十分ではない可能性があるので、単独歩行のハードルは高くなります。そういった地域差も考慮しながら、機能改善を今後も提案していきたいです。
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ーー赤松さんは今後のEye Naviにどんな期待をされていますか?
赤松さん:
これは個人的な夢ですが、将来的には在宅就労支援とも連携してもらいたいと考えています。
例えば、私は今3Dプリンターを使った新しい仕事づくりを進めていますが、そういった職場への通勤支援にもEye Naviは活用できるはずです。
そして最終的な目標は、視覚障がい者の社会参加を広げること。Eye Naviがその一助となって、より多くの方が外出し、働き、楽しめる社会になることを願っています。そのために、私自身も全力でサポートしたいです!
ーーありがとうございます。最後にEye Naviを応援してくださっているみなさんにメッセージをお願いします!
赤松さん:
日々生活するうえで、不便を感じることは、きっと他の視覚障がい者も同じように感じているはずなんです。
だからEye Naviを使っている方には、諦めずに意見を出してほしい。それが開発チームへのフィードバックとなって、ひいては視覚障がい者みんなのためになります。これからも忌憚なきご意見と応援をお願いいたします!
(取材・執筆・撮影 目次ほたる (@kosyo0821))
視覚障がい者歩行支援アプリ「Eye Navi」について
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Eye Naviは、スマートフォンひとつで、道案内と障害物検出、歩行レコーダー機能を備えた歩行支援アプリです。
2023年4月にリリースされ、リリース開始から4ヶ月ほどで1万ダウンロードを突破しました。
Eye Naviの特徴は、AIを活用した「障害物・目標物検出」と、視覚障がい者に寄り添った「道案内」が組み合わさっていること。
この2つを実現することで、目的地までの方向や経路、周辺施設、進路上の障害物、歩行者信号の色、点字ブロック等を音声でお知らせできるアプリになっています。
Eye Navi公式ページ
アプリのダウンロードはこちらから
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