見出し画像

Eye Naviが提供しているのは「歩く喜び」。中途視覚障がい者のアドバイザーが語る、Eye Naviの可能性

スマートフォンひとつで、道案内と障害物検出、歩行レコーダー機能を備えた歩行支援アプリ「Eye Navi」。

これまで、Eye Naviは視覚障がい者の方を中心に、「誰もがどこへでも、自由に楽しく移動できる社会の実現」を目指して、サービスを提供してきました。

そんなEye Naviを開発するメンバーに、サービスにかける想いを聞く「Eye Naviインタビュー」

今回は、視覚障がい当事者として、Eye Naviの社外アドバイザーを務める妹尾真由美さんにお話を伺いました。妹尾さんは夫である耕基さんと一緒に、ご夫婦でEye Naviに携わってくれているんです。

中途視覚障がい者として、自身の経験を活かしながらEye Naviの開発に携わる妹尾さんに、アプリを使い始めてからの生活の変化や、Eye Naviに感じる可能性を教えてもらいました。

妹尾真由美(せお・まゆみ)
30歳で多発性硬化症により視覚障害となる。現在は主婦業の傍ら、鍼灸マッサージ指圧師として働きながら、視覚障害啓発活動やがん教育啓発活動にも取り組んでいる。2021年秋頃からEye Naviのアドバイザーとして参画。

病気をきっかけに、30歳で中途視覚障がい者に。見えない状態での歩行に困難さを感じていた

ーーまず、妹尾さんの現在の見え方について教えてください。

妹尾さん:
現在は色がまったく見えず、光を感じる程度です。視力検査では0.01以下で、近くにいる人の動きはなんとなくわかりますが、少し離れるとわからなくなるといった感じですね。

私はもともとは晴眼者として暮らしていて、車の運転もしていたのですが、30歳のときに多発性硬化症という病気になり、目が不自由になりました。

ーー普段はどんなことをしていますか?

妹尾さん:
主婦業の傍ら、鍼灸マッサージ指圧師として働いています。また、中途視覚障害の経験を活かして視覚障害啓発活動を行っており、企業や自治体の新人研修で講師として、視覚障がい者への対応の仕方を教えています。

その他にも、2020年に私自身が乳がんになったことをきっかけに、がん経験者の語り手として小中学校でがん教育をするようになりました。

ーー幅広く活動されているんですね。そんな妹尾さんが、歩行の際に特に困ることはありますか?

妹尾さん:
やはり外出時の移動が一番の課題です。特に信号を渡るときは本当に怖いんです。音響信号がない場所では、色が見えないので信号が変わったかどうかわからないですし、横断歩道をまっすぐ渡るのも難しい。

例えば、私の場合、まっすぐだと思って歩いていても、顔の向きが少しずれているだけで、実際は斜めに進んでしまうんです。そうすると、知らず知らずのうちに車道に出てしまったり、反対車線に入ってしまったりすることがあります。

ーー信号機の判別だけでなく、「横断歩道をまっすぐ歩くこと」そのものも難しいんですね。

妹尾さん:
そうなんです。また、中央分離帯があるところでは、渡り切ったと思って安心してしまい、実は中央分離帯で止まっていたということもありました。

私が道路の真ん中で止まっているものだから、知らないうちに車が渋滞を起こしていた、なんてこともあったんです。そんな経験を何度かしているので、横断歩道を渡るのは本当に緊張します。

Eye Naviのアドバイザーになったことをきっかけに、スマホを使いこなせるようになった

ーーそんな妹尾さんが、Eye Naviに関わるようになったきっかけを教えてください。

妹尾さん:
2021年の秋頃、知人の紹介でEye Naviのプロジェクトを知りました。当時はまだ製品化前の段階で、大学の敷地内で5Gを使ったテストをするということで声をかけていただいたんです。

「盲導犬の代わりになるようなサービスを作るから、視覚障害がある人に手伝ってほしい」と言われて、興味を持ったんですよね。

ーー本当に初期の段階からEye Naviに関わっていたんですね!最初の印象はいかがでしたか?

妹尾さん:
現在のEye Naviはスマホにアプリを入れるだけで使えますが、当時はまだ最初は眼鏡にカメラをつけたり、パソコンを持ち歩いたりするようなアイデアで、日常生活で利用するにはちょっと奇抜な印象でした(笑)。実用的じゃないし、正直使うのが恥ずかしいなと。

ーーそこから「Eye Navi」を使いつづけたいと感じた転機はありましたか?

妹尾さん:
iPhoneアプリとして開発するという方向性が決まったときは、「これなら行けるかも!」と思いましたね。

誰もが持っているスマートフォンで使えるなら、特別な機器を持ち歩く必要がないですから、アクセシビリティの観点でiPhoneの利用率が高い視覚障がい者にはぴったりのサービスだと感じました。現在は、外出するときはほとんどEye Naviを利用しています。

ネックポーチを使ってEye Naviを利用している。

ーー現在の形になったEye Naviを使ってみて、実生活にはどんな変化がありましたか?

妹尾さん:
まず、外出時の不安が大きく減りました。特に信号の認識機能は本当にありがたいです。信号が青になったことがわかるだけで、安心して横断歩道を渡れるようになりました。

それから、「お散歩モード」という機能がお気に入りです。普段よく歩く道でも、Eye Naviを使うと「ここにこんな店があったんだ!」とか「こんな銅像があったんだ!」といった新しい発見があるんです。見えていたときは気にしたことはなかったんですけどね。

見えていたときには気づかなかったものに、今になって気づくという感じでちょっと不思議な感覚。でもこの体験は、視覚障がい者にとって「歩く喜び」に繋がると思うんですよ。

ーー今まで気が付かなかった新しい情報が入ってくると、歩くのも楽しくなりますよね。

妹尾さん:
そうなんです。また、実は私はEye Naviを使うまで、スマホがつかえなかったんですよね。視覚障がい者にとってボタンがないスマホの操作は面倒くさいと思っていて…。

でも、Eye Naviに携わるようになってから、VoiceOverを使ってスマホを使えるようになったんです。他のアプリも使えるようになったおかげで、日常生活が便利になりました。

スマホに苦手意識がある世代の方にとっても、Eye Naviがスマホを使うきっかけになるんじゃないかな。

視覚障がい当事者だからこそ、アドバイスできることがある

ーーアドバイザーとして、どのような提案をされていますか?

妹尾さん:
私が参画した当初から一番強く主張しているのは、信号認識機能の重要性です。現在は信号認識機能が著しく向上したEye Naviですが、開発当初は正直あまり識別の精度が高くなくて…。

横断歩道の歩行は事故に直結するので、いろいろな機能を追加するよりも優先してほしいと考えていました。当初から「余計なものはいらない、信号の認識だけをしっかりやってほしい」と伝えています。

ーーどんな機能が必要なのか、その優先順位や重要性は当事者でないとわからない部分もありますよね。

妹尾さん:
そうなんです。だからこそ、私たちアドバイザーがなるべく率直に意見を言う必要があると感じています。

また、音声ガイドによる情報の伝え方についても提案してきました。視覚障害者にとって、必要な情報をどのタイミングで、どのように伝えるかはとても重要なんです。

「右に曲がってください」という案内をするときは、「右に曲がる」という事実だけでなく、「いつ」「どのくらいの角度で」曲がればいいのかまで伝える必要があります。

加えて、音声ガイダンスの音量や、イヤホンの種類も大切です。街中では様々な音がするので、ガイダンスの聞こえ方によって、受け取れる情報量が変わってくるんですよ。

私自身もEye Naviと骨伝導イヤホンを併用して、周囲の音も聞こえつつ、ガイダンスもしっかり聞こえる方法を模索しています。

開発チームと一緒にEye Naviの検証をしている妹尾さん

ーー今後、さらに改善を期待しているポイントはありますか?

妹尾さん:
性能が上がったぶん、バッテリーの消費が早いのが気になりますね。外出時に長時間使用すると、バッテリーが切れてしまう心配があります。

それから、まだ単独歩行に慣れていない全盲の方が、Eye Naviと白杖だけで単独歩行をするには難しい面があると感じています。

もちろん、すでに歩行スキルの高い全盲の方や、弱視の方にとっては本当に役立つツールです。

だからこそ、単独歩行に慣れていない全盲の方が、Eye Naviがあれば単独歩行が可能になるのが、ある意味1つのゴールではないかと思うんです。

そのためにも、横断歩道をまっすぐ渡るためのより詳細なガイダンスや、周囲の状況をより細かく伝える機能など、全盲の方のニーズに特化した開発も進めていってもらえたら嬉しいと思っていますね。

歩行支援に留まらず、生活を包括的にサポートしてくれるアプリになってほしい

ーー今後、Eye Naviにどのような可能性を感じていますか?

妹尾さん:
Eye Naviは単なる歩行支援ツールを超えて、視覚障害者の生活を豊かにする可能性を秘めていると思います。

観光地での利用する際も、Eye Naviがその土地の歴史や文化、景色を詳しく説明してくれれば、視覚障害者でも旅行をより深く楽しめるようになると思うんですよ。

また、買い物のサポートもしてもらえたらいいな。店内の商品配置や、セール情報を教えてくれるような機能があれば、もっと自立した買い物ができるようになりますよね。

ーー最後に、Eye Naviを使っている方、これから使おうと考えている方へメッセージをお願いします。

妹尾さん:
ぜひ、どんどん使ってください!そして、お声を聞かせてもらえたら嬉しいです。開発チームとEye Naviを使っている視覚障がい者、みんなでより良いものにしていきたいですね。

もっとたくさんの視覚障がい者にEye Naviを知ってもらい、世界中の視覚障がい者に使ってもらいたい。そして、いつかEye NaviがiPhoneの標準装備になれば嬉しいです。

(取材・執筆・撮影 目次ほたる (@kosyo0821))

視覚障がい者歩行支援アプリ「Eye Navi」について

Eye Naviは、スマートフォンひとつで、道案内と障害物検出、歩行レコーダー機能を備えた歩行支援アプリです

2023年4月にリリースされ、リリース開始から4ヶ月ほどで1万ダウンロードを突破しました。

Eye Naviの特徴は、AIを活用した「障害物・目標物検出」と、視覚障がい者に寄り添った「道案内」が組み合わさっていること。

この2つを実現することで、目的地までの方向や経路、周辺施設、進路上の障害物、歩行者信号の色、点字ブロック等を音声でお知らせできるアプリになっています。

Eye Navi公式ページ

アプリのダウンロードはこちらから

株式会社コンピュータサイエンス研究所 ホームページ

お問い合わせ窓口

下記よりお問い合わせください。
info@eyenavi.jp


いいなと思ったら応援しよう!