新しい発見は、いつもユーザーの声にある。Eye Navi研究員が語る、視覚障がい当事者と共に作る安全な歩行支援の未来
スマートフォンひとつで、道案内と障害物検出、歩行レコーダー機能を備えた歩行支援アプリ「Eye Navi」。
これまで、Eye Naviは視覚障がい者の方を中心に、「誰もがどこへでも、自由に楽しく移動できる社会の実現」を目指して、サービスを提供してきました。
そんなEye Naviを開発するメンバーに、サービスにかける想いを聞く「Eye Naviインタビュー」!
今回登場するのは、Eye Naviを開発する株式会社コンピュータサイエンス研究所で研究員を務める末松圭史さん。
プロジェクト立ち上げ時からEye Naviの開発に携わってきた末松さんに、ロボット工学の知見を活かしたアプリ開発の裏側や今後の展望についてお聞きしました。
ロボット開発から、AIを活用した視覚障がい者支援へ
ーーまず、これまでやってきたことを教えてください。
末松さん:
もともと、大学時代は家庭用ロボットのソフトウェア開発やディープラーニングを使った画像処理の研究をしていました。
ーーどうして、ロボットに興味を持ったんですか?
末松さん:
最初はテレビゲームを作りたくて工学の道に進んだのですが、大学に入ってから、ロボットアニメにハマって。「ロボットの中身を作りたい」と思うようになったんですよね。
人間じゃないものが人間みたいに振る舞うロボットの面白さに夢中になったんです。例えば、「見る」という行為を機械に再現させる。そこが難しくて、でも実現できたときは本当に嬉しいんですよ。
ーーそんな末松さんは、どうしてEye Naviに関わるようになったのですか?
末松さん:
大学時代に、株式会社コンピュータサイエンス研究所でアルバイトを始めたことがきっかけでした。最初は、北九州市の環境ミュージアムに設置するロボット「Pepper」に、クイズやダンスをさせるプログラムを作るプロジェクトなどに関わらせてもらい、2年間ほど働いていたんです。
その後、2017年ごろにEye Naviプロジェクトがスタート。大学時代には画像処理も学んでいたので、その知識をそのまま活かせるEye Naviに惹かれ、研究員として参加することにしました。
ーー大学時代の学びや経験が、Eye Naviに活かされているんですね!
末松さん:
Eye Naviも究極的には「人間の目の代わり」を目指しているんです。人間の視覚機能をAIで再現し、さらに拡張する。これって、まさにロボット工学の考え方そのものなんですよ。
例えば、晴眼者は目に入ってきた風景の情報をすぐに理解することができますよね。「ここは公園だな」とか「ここは商店街だな」とか。でも、機械でそれを実現するのは本当に難しいんです。
だからこそ、視覚障がい者の方に少しでもそんな情報を取り入れていただき、安全で楽しい歩行に繋がればと思っています。
難しくも、やりがいのあるチャレンジができるのが、Eye Navi開発の面白さなんですよ。
必要な情報を、適切に伝えたい。視覚障がい者の「見る」を支援することの面白さ
ーー現在は、どんなことをやっていますか?
末松さん:
Eye Naviのプログラム開発、特にアプリの開発とAIエンジンの開発を主に担当しています。
また、開発だけでなく、実際にアプリを使用する際の挙動データの解析や評価、そしてそれに基づく改善提案なども行ってきました。
また、他のチームメンバーやアドバイザーと共に、実験を行うこともあります。実際に街中でアプリを使用してみて、どのような問題があるか、どのように改善できるかを検証することも大事な仕事の1つです。
ーーEye Naviの開発で特に難しかった点はありますか?
末松さん:
最も難しかったのは、視覚障がい者の方々に必要な情報を、適切な形で伝えることです。晴眼者にとって当たり前の情報でも、視覚障がい者の方々にとっては全く違う意味を持つことがあるんです。
例えば、画面上に「右に曲がってください」と表示するのは簡単ですよね。でも、それを音声で伝える場合、「いつ」「どのくらいの角度で」曲がればいいのかまで考慮しないといけない。さらに、その人の歩行速度や周囲の状況も想定する必要があるんですよ。
ーー晴眼者と視覚障がい者の方々では、伝えなければいけない情報の質も量も変わってくるわけですね。
末松さん:
そこで、大切にしているキーワードは「シンプル化」です。当初、Eye Naviを開発していたときは、安全に歩行してもらうために、より多くの情報を伝えようとして、かえって使いづらくなってしまったことがあったんです。そこで、本当に必要な情報だけに絞り込むことにしました。
ーー視覚障がい者の方にとって必要な情報というのは、どうやって判断するのでしょうか?
末松さん:
最初は、ユーザーの声を直接聞きながら基準を作っていきました。Eye Naviの開発はユーザーの声を吸い上げて、サービスに反映できるのが醍醐味なんですよ!
例えば、最初は「右に30度、10メートル先で曲がってください」というように詳細な指示を出していましたが、実際の使用者からのフィードバックで、「とりあえず、正面にあるものだけ教えてくれればいい」と教えてもらったことがあったんです。
ユーザーと開発側のギャップを埋めるのは本当に難しかったですが、少しずつ克服していく過程が面白さでもありますね。
Eye Naviの強みは「信号機」と「横断歩道」の検出
ーー開発者として考える、Eye Naviの強みについて教えてください!
末松さん:
開発者として特に力を入れているのは、歩行者信号の認識精度の向上。ただ、信号を見つけるだけでは不十分なので、信号の下にある横断歩道を安全に渡れることが重要です。
視覚障がい者の方々は、横断歩道をまっすぐ歩くのにかなり苦労されています。何も見えない状態で、しかも段差もない平らな場所をまっすぐ歩くのは、想像以上に難しいんですよ。
ーーたしかに、そもそもまっすぐ歩いている状態を維持するのは難しいですよね。
末松さん:
そうなんです。そこで、AIと画像認識技術を組み合わせて、横断歩道の位置や方向を正確に把握し、安全に渡れるようなガイダンスを提供することを目指しています。
現在は、大量の信号機の画像データでAIを学習させることで、様々な条件下でも高精度で信号を検出できるようになりました。
ーー安心して信号を渡れるよう研究を積み重ねてきたんですね。
末松さん:
また、そんな信号の認識も含めて、さまざまな機能を一つのアプリにまとめているのも、Eye Naviの強みだと思っています。
他のアプリだと、信号認識に特化したものやナビゲーションに特化したものはありますが、それらをバランス良く組み合わせているのは、Eye Naviならではかなと思いますね。
ユーザーの声が、Eye Naviをもっと進化させる
ーー開発を進める中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
末松さん:
以前、展示会で視覚障害のあるお子さんを持つお母さんから、「Eye Naviのおかげで息子が外に出かけるようになりました。息子が『お母さんに道案内してあげるね』と言ってくれて感動して。お礼が言いたくて来ました、ありがとうございます」とお話を伺ったことが、とても印象に残っています。
このような声を直接聞けることが、開発のモチベーションなんです。時には厳しい意見をいただくこともありますが、僕たちにとっては、ポジティブな意見もネガティブな意見も、どちらも貴重なフィードバックなんですよ。
ーー開発者がそう考えていると思うと、ユーザーもフィードバックがしやすいですよね。
末松さん:
ユーザーの声は本当に重要です。私たち開発者は当事者ではないので、気づかないことがたくさんあります。新しい気づきはいつもユーザーの皆さんの中にあるものだと感じています。
ーーまさにユーザーの皆さんと一緒に作ってきたアプリなんですね!そんな末松さんの、今後の展望について教えてください。
末松さん:
まず、歩行者信号認識の精度向上と、画像処理技術のさらなる開発に力を入れていきたいと思います。視覚障がい者の方々が安心して交差点や横断歩道を渡れるようになることを目指しているんです。
また、Eye Naviを使うことで、行ったことがない場所にも安心して行けるようになってほしいですね。そのためには、周辺情報の提供や道案内の精度をさらに高める必要があります。
将来的には、ChatGPTのような大規模言語モデルをEye Naviに組み込むことで、より自然な対話ができるシステムの開発も検討してきました。ユーザーの質問や不安に対して、より柔軟に対応できるようになれば、さらに使いやすいアプリになるはずです。
ーーありがとうございます。最後に、Eye Naviを使っている方々へメッセージをお願いします!
末松さん:
先ほどもお話した通り、ユーザーの皆さんの声が、私たちのアプリ開発の大きなモチベーションになっています。「この機能を追加してほしい」「この機能を改善してほしい」など、どんな意見でも構いません。どんどん送っていただければ嬉しいです。
Eye Naviはまだまだ開発途中のアプリです。皆さんに満足していただけるアプリになるよう、日々開発に励んでいます。これからも応援していただけたら嬉しいです!
(取材・執筆・撮影 目次ほたる (@kosyo0821))
視覚障がい者歩行支援アプリ「Eye Navi」について
Eye Naviは、スマートフォンひとつで、道案内と障害物検出、歩行レコーダー機能を備えた歩行支援アプリです。
2023年4月にリリースされ、リリース開始から4ヶ月ほどで1万ダウンロードを突破しました。
Eye Naviの特徴は、AIを活用した「障害物・目標物検出」と、視覚障がい者に寄り添った「道案内」が組み合わさっていること。
この2つを実現することで、目的地までの方向や経路、周辺施設、進路上の障害物、歩行者信号の色、点字ブロック等を音声でお知らせできるアプリになっています。
Eye Navi公式ページ
アプリのダウンロードはこちらから
株式会社コンピュータサイエンス研究所 ホームページ
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