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第二回 あたらよ文学賞 二次選考結果発表


【二次選考通過作品について】

あたらよ文学賞選考委員会による厳正な選考の結果、一次選考通過作品52作品のうち、下記14作品二次選考通過としました。(到着順・名前はペンネーム、敬称略)
この後、最終選考を行い、受賞作品を決定致します。

※選考過程に関する問い合わせには一切応じられませんのでご承知ください。

葬礼業者の弟子 / 千葉ヨウ
青はおひめさまのいろ / 咲川音
遥か東の玉葱模様 / 白里りこ
青を弔う / 夏越リイユ
ブルーアンバー / 紫冬湖
降る雨の如く / 渡良瀬十四
零れ藍 / 守崎京馬
ロボトミーワンダーランド / 兎子
無縁島 / 辺野夏子
鯖を読む / 伊藤なむあひ
青い血のナルカ / 神木
陰日向 / やらずの
1K海中生物図鑑 / 白城マヒロ
青い世界のこと / 脆衣はがね

【二次選考通過作品・追加講評】

葬礼業者の弟子 / 千葉ヨウ
完成度がものすごく高く、読みごたえも短編とは思えないほどです。夫子と弟子のキャラクター性、文章の読みやすさが、古代中華世界を舞台とした思想家の物語という一見とっつきにくそうな舞台設定をすいすいと読ませ、且つわくわくと読者を楽しませてくれます。乱世の中で「青い血」を持つ人々を教化しようとする夫子こそが実は…という結末も、テーマの「青」に沿っていて見事です。

後宮に入ることになった修身家の思考や、葬礼活動の様子が、弟子の視点を通してコミカルに描かれている。地の文が硬めなのに対し、二人の会話が軽快でテンポ良く、バランスが取れていたように思う。その場の空気や二人の細かい表情まで伝わってくるようなラストシーンが非常に美しかった。

青はおひめさまのいろ / 咲川音
ストレートにエモくて大好きすぎます! 推し活は、ここ数年でかなりメジャーになってきたジャンルではありますが、成れの果てを真っ直ぐ描き切っていて大好きです。オタクの解像度高すぎないか。推しとの会話、すっごい近くて遠い距離感が絶妙です。明日自分の世界から消えてしまう存在との、一瞬一瞬が尊かった。文字を追いながら泣きました。

露骨な時代性の押し出しが良く、また、コンプレックスを軸にした直球の表現がつらなっており、読み応えのある作品だった。コンセプトが定まっていることで、落とし込み方も素直である。ただ、この長さにしては少し雑然としており、文章にメリハリが欲しい。また、序盤で終盤を予測させる伏線を用意したり、会話文をところどころに挟むなど、改善すべき点はいくつかあるかと思われる。

遥か東の玉葱模様 / 白里りこ
美しいものが好きな日本人が、ドイツで女性を救う話。ただ美しいから、という理由だけで行動してしまうヨリコに危うさを覚えつつも、その芯の強さやバイタリティに、読者まで勇気づけられるような作品だった。日本語ではない言語で話している様子が、日本語で上手く表現されていたところも好印象。

思いのままには生きられない世界が、異国の女性との交流によって変化していく過程がよかった。コミカルな言い回しとシリアスな感情表現の塩梅も優れていて、展開をすらすらと追うことができた。信念を曲げずに生きる登場人物の姿は、読み手にささやかな勇気と、優しい読後感を与えると思う。

青を弔う / 夏越リイユ
決して不自然ではない形で物語が二転三転し、読んでいる私の心をうまく翻弄してくれました。予想外の結末でしたが、読み返すと丁寧に伏線が張られていたので、うまい……と感嘆しました。また、家族とは何かについても考えさせられるところがあり、説教臭くなく説かれた感じがして、勉強になります。

不穏さが見え隠れする文章から、明らかになってゆく真実など、とても面白かった。一方でそれを見せるための構成や演出、また、仕事やDVなどに対するディテールの甘さもある。もっと盛り上げられる、面白く出来る余地があるのでは、と感じた。

ブルーアンバー / 紫冬湖
主人公と共に、友人の変化をぞわりとした感覚で追うことができ、面白かったです。冒頭のプールでの「儀式」の光景も、好きな人のために「その人が好きなタイプ」になろうと自分を捨ててまで励む麻衣子の姿も、そんな友人の変化を受け入れることができず寂しさをもって離れて行く主人公の心情も、強い「青さ」を感じさせます。

めちゃくちゃ良かった。ほんのささやかな移ろいの予感から、しだいに憧れが廃れていく心情を、語り手と同じ速度で感じることができる作品だと思います。ブルーアンバーは、その鉱石自体は物体として登場するわけではないのに、光に照らされたときだけという限定的なその青さは、作品全体を印象づけていて、テーマの使い方が上手でした。

降る雨の如く / 渡良瀬十四
物語の展開も情景描写も、何もかも美しい物語でした。登場人物の輪郭もはっきり見えてくるので、ひとつひとつのシーンが立ち上がってきます。加えて、ジャンルの枠組みを超えて輝く確固とした独創性があります。この物語のスケールの大きさを考えると、本賞の規定文字数は少なかったかと思います。

読み応えのあるSFでした。特殊な設定と、錯綜する登場人物たちの心情とが物語を追うごとに判明していき、面白かったです。

零れ藍 / 守崎京馬
狂愛とも言うべき、弟から姉への想いが文章からひたすら伝わってきて、単に「面白い」と言う以上に「凄まじさ」を感じました。雰囲気のある文章は物語の持つ空気感を存分に伝えながら読者を先へ先へと読み進ませ、そうして至ったラストでの忠助の境地はかなりの衝撃でした。

本賞のテーマである「青」を真正面から受け止め、暴力的なまでの表現力で描ききった秀作。藍色に秘められた美しくも悍ましい物語が、読み手の感情を揺さぶる。純愛と狂気が織りなす過ぎし日の物語に、想いを馳せずにはいられなかった。

ロボトミーワンダーランド / 兎子
いずれ銃撃犯になると目されている少女と、少女を監視するカウンセラーの日々が、色彩豊かに描かれていた。丁寧に積み重ねられていく日々には、薄氷の上を歩くような危うさがあり、他者と心を通わせる嬉しさ・甘やかさも感じ取れて、非常に読み心地がよかった。心に残るラストの展開も素晴らしい。

衝撃的な冒頭から始まる物語。ジュリアンは、コリーはどうなるのだろうとかなりハラハラしながら読み進めました。読むほどに、世界観に取り込まれてゆきます。美しく、哀しい、まさに「ブルー」な作品です。

無縁島 / 辺野夏子
自分の遺灰を沖縄の海に撒いてくれと言い残して亡くなった母の望みを叶えるべく、沖縄を訪れる娘の話。最初は淡々と語られていた母の死だったが、物語が進むにつれ、徐々に感情的な描写が増えていく構成になっており、読者を引き込むことに成功している。前向きなラストも爽やかで良かった。

静かに淡々と綴られていく物語を追っていくうち、最後の最後で特大の情動が訪れて驚いた。知らず知らず主人公に感情移入しており、ずっと彼女の胸の奥に溜め込まれていたさまざまな想いが一気に表出するのを追体験した。その時の海風すら肌で感じるような筆運びが素晴らしい。父親という概念が存在しなかった彼女の人生において、重大な空白がひとつ埋まったように感じた。これきりの縁でも、今後彼女はきちんと前を向けるだろうと思えるラストが清々しい。読了後、『無縁島』というタイトルがこれ以上なく心強い言葉に思えた。素晴らしい作品だった。

鯖を読む / 伊藤なむあひ
『鯖書籍』という発想がすごい。青魚を食べると頭が良くなると言うし、もしやサーバーということなのかも、と妙に納得してしまうパワーがあった。『鯖書籍を食べすぎて真理に近づきすぎてしまったワニ』であるネモこそが本作の語り手だと気付いた時、自意識の境い目が分からなくなるような感覚に陥り、識りすぎることは必ずしも幸せに繋がらないのだと実感した。知性と真理を得たネモが求めた、ミールとの絆が尊い。互いをよすがとし合うふたりの関係性が美しく、心に響く読後感だった。

「鯖を読む」というタイトルから考えたと思われるが、よくここまで広げられたな……。とても好みです。こういう作品こそ載せたいと感じました。ただ、テーマの「青」に沿っているか、という点が気になりました。

青い血のナルカ / 神木
ズュノという霊長蛸と変わり者の青年の物語。神話的な設定がはじめとっつきにくいかと思ったが、物語を追っていくうちにその魅力にはまり、気づけば虜になっていた。ストーリーラインはシンプルでいわゆる変身譚のような内容であるが、主人公が抱える心情やそれを支える美しい情景の描写力が優れており、どこか官能的でもある。物語のラストは濃厚な青が脳内いっぱいに広がり、思わずため息がこぼれた。

『普通』からはみ出てしまったナルカの苦悩を描いた作品。この世界でのルールや、ナルカがどういう人間なのかが、わざとらしい説明ではなく、自然に描写されていたところが素晴らしかった。ナルカが青い血になり、霊長蛸に近づいていく終盤のシーンでも、高い筆力が発揮されていて、非常に引き込まれた。

陰日向 / やらずの
圧倒的なパワーを感じます。読んでいて、危ない、危ないと頭の中に警鐘が鳴り響くのを感じていましたが、期待を裏切らず(?)、二人の将来が心配な終わり方でした。それくらい読者をのめり込ませるパワーがあったということです。文体も丁寧で内容が過不足なく頭に入ってきます。素晴らしい筆力でした。

かつてモデルをしていた女子高生の物語。タイトル、冒頭からは本作が行き着くラストの想像がつかなかった。的確かつ分かりやすい文章表現だが独特だと感じられ、情報の置き方も的確で小説を書き慣れている文体だと思う。不遇な少女が芸能界の闇、アダルティな世界に片足を突っ込んでいく様子が丁寧に描写され、主人公の抱える重々しさに読んでいてつらくなってくるほど感情移入させられた。

1K海中生物図鑑 / 白城マヒロ
なんとも不思議な、どこか気怠い雰囲気も漂う、美しい作品。身体の一部が海になった彼女がだんだんと人間に戻っていく様を見ていて、「このまま元に戻って、なにかがそれまでと変わる結末を迎えるのかな?」と思いながら読み進めていたら、まさかの展開に強く衝撃を受けました。

とても評価が難しい作品だった。海水を飲んだ女性の腹に海が広がる、神秘的な設定で進む物語は終始、彼女の腹に深海魚が漂う。この設定は何かのメタファーなのだろうかと考えたが答えが出せない。女性と付き合っているわけでもなさそうな主人公がせっせと海水を運び、彼女の腹に生息する海中生物たちに魅入られていき、さらには生活の糧としていく様子が奇妙で恐ろしささえ感じるが、幻想的で不思議な世界観がクセになる。

青い世界のこと / 脆衣はがね
すごい……めちゃくちゃやだ、こんな人とつきあうの! すごいもやもやしました!(褒めています)なにげない会話と、それらに起因する心情や行動の描き方がすごく上手くて、最初は友人の気持ちで読んでいたのにいつのまにか主人公に共感し、同じ気持ちにはまってしまい、青い世界から抜け出したいのに抜け出せなくなりました。

彼が「誠実な男」であるが故に、彼にとっての元カノの存在の大きさを知ってしまうという流れには、説得力があった。元カノのインスタアカウントに並ぶ青い写真のイメージが鮮烈に印象に残る。その画面を眺めるたび、醜い嫉妬の念がどんどん膨らんでいく主人公に共感し、苦しくなった。元カノが作り出す「青い世界」に、これ以上なく感情をかき乱されるラストシーンが見事。爆発して破綻する直前の息苦しさたるや。この後どんな言葉を彼にぶつけたら気が済むか、想像が膨らんだ。



最終選考の結果発表は10月末ごろを予定しております。
なお、最終選考の詳しい模様につきましては、『文芸ムックあたらよ・第二号』に掲載予定です。ぜひ、本誌にてご確認ください。

【一次選考通過作品について】

二次選考通過はならなかったものの、「一次選考通過作品」全作品の追加講評を以下に掲載致します。

無重力のアオイソラ / 結城熊王
あまいさかな / 世良綴
グエン / 華嶌華
花緑青の時代 / 山川陽実子
ここには見当たらない / 上雲楽
#0000FFを識る / 和立初月
遠き青に還る / 夢見里龍
青銅の城 / 火登燈
青い血潮を彼女は笑わない / 熟成みかん
ブルーライトアップ東京 / 谷野真実
夢のグリーンスムージー / 東堂秋月
水の記憶 / 敷島怜
青い扉が開かない / 倉海葉音
インクの味は苦い / jessieジェシー
銀霞玲穹ソアレ・アリアス / 伊島糸雨
サムシングブルー / 岩月すみか
Blue,Sky Break. / malstrøm
絶えても続くBSS / いち亀
あなたたちにはブルーが足りない / 村崎なつ生
波子のノブレス・オブリージュ / 佐々木錯視
りんごが落ちて、 / 深山都
わけあえなくとも / 永津わか
冷たい目玉 / 鳥辺野九
雨と青空と / 白川慎二
青の土曜日 / 車道
私の庭の青い芝 / 水島窯
青の説 / 志村麦穂
青の道しるべ / けろこ
染まれ青藍 / 立藤夕貴
鵜玉うぎょく / 平井みね
雅客 / 武川蔓緒
あのプールでの暮らしのこと / オオタキミドリ
バニラの海になる / 阿透
人魚の小瓶 / 朝吹
青に堕つ / 瀬古悠太
ラピスラズリかターコイズ / 阿山三郎
死なない光は柔らかい / 正井
639億秒目の空 / 憂杞

【一次選考通過作品・追加講評】

無重力のアオイソラ / 結城熊王
面白かったです。意表を突いた設定も軽快な語り口も、一定の水準を上回っているかと思いました。ただエンターテインメント的な側面しかなく、テーマ性が乏しいようにも感じました。差別についてのより深い掘り下げがあればもっとよかったのではないでしょうか。

「主人公が生まれつき無重力」という設定が面白く、冒頭から引き込まれた。突拍子もない設定でありながら、それが「社会のマイノリティたる特性」として上手く落とし込まれており、リアリティがあった。隅々まで行き届いた、リーダビリティの高い文章。淡々とした語り口が、どこか斜に構えた思春期の主人公に合っていて良い。秘密が周囲にバレて、意外にすんなり受け入れられ、体育祭を迎える流れが鮮やかで、清々しくあたたかな読後感。今の時流に合った作品だと思った。

あまいさかな / 世良綴
文章は美しく、確かな感情を持って描かれている。ただ、題材としては目新しいものはなく、物足りなさも感じた。普遍的とも言えるので、これは良し悪しとは思う。主人公が水野に対して抱いていた感情、表現したかったものがなんなのか、もう一歩踏み込めたようにも思う。

作中を通して描かれる持て余された感情にとてもヒリヒリとさせられました。流れるような日常描写だからこそ、互いの気持ちが伝わっているようで、実は少しずつあるズレが浮き出ている感じが好みでした。湿り気を帯びた青のようなイメージのお話だと思いました。

グエン / 華嶌華
非常に意欲的な作品であり、宇宙人と外国人労働者というどちらも難しい要素を融合しようという部分は特に高く評価したい。また在留外国人に対する理解も深く、ディテールは優れている。ただ、それにしてもかけ離れたこの二つの要素をこの字数で完結させるのは厳しい気はした。例えば宇宙人についてバックグラウンドをある程度開示したり、グエンが最初は外星人に相当な驚きを持つなどのシーンがないと、唐突という印象はぬぐえないのではないか。ラジオドラマの脚本などでこのようなシナリオがよく使われるのは理解しているが、もう少し流れを意識できるとよいかと思う。意欲も文章も高いレベルであることから、ぜひ今後に期待したい。

SF要素を外国人労働者の話と絡めてきれいに建てつけており、全体にまとった不穏さが徐々に増していく感じなど、読み応えがあった。ディテールもいいし、ラストがとてもいいので満足感が高い。

花緑青の時代 / 山川陽実子
類型が多い作品であり、推敲も若干不足しているように感じられる。因習という言葉を何度も使っている時点で、そのような作品を求めているレーベルの方が高い評価を受けそうには思えた。しかしながら、テーマの採用方法とその理解、使い方は優れている。扱った時代の組み込み方もうまい。基本的な筆致にも大きな問題はないように思えた。以上から、商業出版に通用する実力そのものはあると評価したい。

絵画の才能があると勘違いし、大学で挫折を経験した男が、青に取りつかれてしまう話。徐々に悪い方向へと進んでいく展開だったが、先を読みたくなる不思議な魅力があった。花緑青に縋る男の心情描写が切実で、だからこそ判断力が鈍くなった彼の行動に説得力があり、市子と美都子の気味の悪さも作品の雰囲気とマッチしていた。

ここには見当たらない / 上雲楽
奇妙な表現が多用された目を引く筆致と可読性が両立しており、独自の作風を追求しようという姿勢が感じられた。しかしながら若干奇をてらっただけのような作者の意図も透けて見えるようであり、この方針で行くのであれば、独自の設定は一つに絞って、あとはもう少し平易な形でまとめたほうがよかったのではないか。この字数での表現としては優れているようには感じたが、もう一歩自分を抑える方向での洗練が求められるように思えた。

短い作品ですが、設定が上手く提示されているように感じました。話のベースとして厭世感がありつつ、主人公の感覚が他の人とは違うからか、独特な閉塞感がお話全体に流れているような気がします。読んでいて良い意味で息の詰まるようなお話だなという風に感じました。

#0000FFを識る / 和立初月
「青」というテーマに正面からぶつかった読後感のある作品でした。過去と色とに真剣に向き合うさまこそが、「青春」というラストに繋がりますね。

『青』という色の名前がなくなった世の中という状況に、いまいちピンと来なかった。アイデアとしては面白いので、十年程度の短いスパンではなく、遥か未来の話であれば、言葉の大きな変革も腑に落ちたかもしれない。『青』の名の失われた経緯も現実的にはあり得ないようなことが原因であり、それだけの強行策が取られておきながら「SNSでの募集」という軽い手段で再び『青』が採用される流れは、あまりにもちぐはぐだと感じた。オチを三人の『青春』に落とし込むのであれば、もっと限定的なコミュニティの中で話を展開させた方が良かったと思う。

遠き青に還る / 夢見里龍
青い魚になった恋人を故郷の水に還しに行く旅が、綺麗な文体で描かれている。その中でも、比喩表現を交えた巧みな心情描写が素晴らしかった。死んだ人間の骨が魚になるという非現実的な設定と、それを活かした展開によって、彼女たちの愛の大きさが短い中で表現されていたように感じた。

話としてはとても面白いものの、恋愛描写が薄く、「愛してる」という言葉が上滑りしているように感じる。かなり多くの要素を詰め込んでおり、そのどれもが綺麗にまとまっているが、ところどころでディテールや演出が甘いと感じた。

青銅の城 / 火登燈
短いながらも非常に印象的な作品だった。独特の言い回しは荒削りながらも力強く、一語一句が刻み付けるように綴られていると感じた。哲学的な精神世界を描いた話だが、少年の見る景色が鮮烈で、物語に引き込まれた。『青銅の城』に投影されたものが素晴らしい。我々のような創作者はもちろん他の分野でも、何かを目指す人が経験し得る感覚が見事に表現されていた。老人の発した最後のセリフで、泣きそうになった。繰り返し読みたい作品だと思った。

幻想的な風景がまぶたの裏にありありと浮かび、私にも城の雄大な姿が見えるように思います。短編アニメにして動画サイトにアップしてもよさそうです。しかも単に美しいだけでなく、中身は示唆に富んでいて、少年の心のありようを想像させてくれます。ただもう少しこの世界を掘り下げてほしかったです。

青い血潮を彼女は笑わない / 熟成みかん
設定は面白く、字数に対してのまとまりもよかった。可読性も高く落とし方も自然である。全体的に、奇抜なアイデアをテーマにすり合わせてうまくまとめる力があるように思えた。しかしながら、熱量が十分ではなく、選考を通るための優等生的な書き方に陥っているようにも思えた。この点を今一度再考いただき、もっと自分の力を信じて書きたいものを押し出して勝負してほしい。

「青春」という思春期の息苦しさや不安定さ、ゆがみ、孤独感が「イカ人間」によってものすごく上手く表現されているなと感じました。遠い存在だと思っていた彼女たちも、実はタコだったり蛇だったりとあまり自分と変わらない。そして不思議で理解できなかった一人の友人は、実は自分のような存在に憧れていて…。それらを「青い血」が結びつけ、読みやすくまとまった良い作品だと思いました。

ブルーライトアップ東京 / 谷野真実
自閉症の主人公の一人称で綴られていく事象の捉え方が、「実際にこんなふうに感じるんだろうな」と納得できる語り口だった。クラスメイトのこと、先生のこと、お母さんのこと、全てが彼のフィルターを通して語られており、そこから想像できる残酷な現実に心を揺らされた。特にお母さんの心境は手に取るように理解できて、とても苦しかった。たまたま彼がギフテッドだったからこその結末ではあったが、辛い思いをしてきたぶん青色に染まる景色が美しく、優しい世の中であってほしいと願いたくなった。

自閉症という難しい題材を取り扱いながらも、テーマである青としっかりマッチしたお話だったと思います。お話を読んでいると、主人公が疑問に思うことが傷つくきっかけになっているような気がします。理解不足という言葉では片付けられない問題を感じさせるお話でした。最後に良い方向にいくようなお話の流れがよかったです。

夢のグリーンスムージー / 東堂秋月
奇妙な店やアイテムで良い思いをして、次第に心を囚われ自滅していく、という王道ストーリーだが、青虫の店主のキャラクターが可愛らしく、また物語を差し出す必要性から主人公が創作に目覚める流れが面白かった。最後の物語を完成させられなかったせいで人生が終わってしまっても、今後ずっと創作を続けられる存在になれたのは、ある意味ハッピーエンドかもしれない。ストーリー中に誰の悪意も介在しないのが皮肉でもあり、よく出来た不思議なお話だと思った。

夢の中に現れた八百屋にはあらゆる青菜が揃っており、店主は巨大な青虫といった摩訶不思議さが魅力的な作品。青菜と『物語』をミックスして作られるスムージーもまた多様な味わいがあり、主人公がのめり込んでいくように、ぐいぐい読み進められた。ただキャラと設定でストーリーを進めていることも否めず、主人公がなぜスムージーにハマってしまうのかの説得力が欲しい。主人公に奥行きを追加すればさらに面白い作品になると思う。

水の記憶 / 敷島怜
面白かったです! 蛇と龍の中間、ミズチを主体とした独特の世界観、自然描写が豊かで伝奇的な趣のある作風に、ワクワクしました。男とミズチの掛け合いは軽妙でテンポ良く読めます。ちょいちょい現代感のあるワードを挟むことによって、我々の住む文面社会とほど近いところに、いにしえの生き物の息づかいを感じられました。後半の展開もひねりがきいていて良いです!

題材としてはどちらかというとシリアスになりがちな路線なのに、全体的にコミカルな文章で描かれたお話で、ミスマッチ感が面白かったです。どこかでシリアスな方に舵を切るのかな? と思っていたら、一貫してコミカルな文章が保たれていてとても好みでした。あたらよ文学賞の面白い小説であれという渾身の右ストレートを受け取りました。

青い扉が開かない / 倉海葉音
憧れと現実のギャップに懊悩する若者の物語。なんらかの道を志すにあたり、誰もが通るであろう迷いや焦燥感を、リアリストの主人公の観点からよく描けている。その反面、特定の地名、人物名、曲名が持っているイメージに理解を委ね過ぎているところがあり、読み手を大きく選ぶ。

青春への扉が開いてくれない、という一文が全てを物語っているようなお話でした。この一文に揺さぶられ、それでも頑張っていく主人公を思わず応援したくなります。また新田がバイオリンを辞めないで欲しいというシーンが印象的でした。青春の扉がたとえ開かれなくても、主人公はずっと頑張っていくのだろうという、見方によってはある種の枷になるような、ただ主人公にとっては必要な希望が見えました。

インクの味は苦い / jessieジェシー
現世と霊界のはざまで手紙師をしている主人公は、外界との接触は配達人のみであり自分の過去、死んだ原因などを忘れている。それ以外に不自由なく、死者からの手紙を代筆していく主人公だが、ある日この手紙師の仕事について知り自分の過去に触れていく。全体的にまとまりがあり読みやすい。硬すぎず柔らかすぎない文体が作品の雰囲気にも合っていた。予想外のラストと最後の一文に魅せられ、いつまでも余韻が残る。

“手紙師”という独自の設定と着想、それからハートフルな読み味を敢えてぶち壊していくというオチの付け方を評価したい。ただし物語全体としては、説得力や納得感を欠いてしまっている印象。節々で滲み出る語り手の精神的な拙さが要因のように思う。

銀霞玲穹ソアレ・アリアス / 伊島糸雨
冒頭からルビ付き造語が怒涛の如く羅列され、非常に難解な作品だった。厨二感あふれる文章で、好きな人は好きな雰囲気かもしれない。何度か通読して把握できた限りでは、ストーリーライン自体は割とシンプルに思えた。しかしそこからドラマ性を感じ取るためには、大前提として世界観設定への深い理解が必要であろう。その解像度により、大きく評価の分かれる作品ではないかと思う。

莫大な情報量を、卓越した文章のセンスと構成で捌いている。また練り込まれた世界観が確立しており、物語全体の展開速度が凄まじいにも関わらず、読み手を振り落とさない傑作である。短編ながらも作者の描きたいシーンが凝縮され、非常に純度が高い。

サムシングブルー / 岩月すみか
普通ではない家庭環境に身を置く主人公は結婚を控えており、普通の家族がほしいと願っている。両家顔合わせで起きるヒューマンドラマは読み応えがあり、とにかく主人公の心情に息が詰まるほど感情移入した。妹が勇気を出すシーンからラストへの流れが読んでいて気持ちよく、胸の支えが取れるようでもある。綺麗すぎる終わり方ではあるが、バランスのいい作品だったと思う。

一言で複雑な家庭と言っても、蓋を開けてみると様々問題が折り重なっているんだということを改めて感じるお話でした。最後は自分の妹をサムシングブルーとして”身に着ける”とともに、自分を母がいなくなったトラウマや妹との折り合いが悪かったことから開放するようなシーンのように思えて良かったです。

Blue、Sky Break. / malstrøm
死んだ両親と同じものに挑みたいという彼女の行動原理は理解できた。ただ時代設定や技術レベル等の背景情報がなく、彼女の行ったことがどれほどの偉業なのかイメージしづらい。彼女が研究員なのかメカニックなのかも判然としない。宇宙へ上がるための機体を彼女一人のみで作り上げたように記述されているが、大掛かりな機械を作るのにたった一人で設計から製造組立まで完遂できるものなのか。そうしたリアリティラインの面で疑問が湧いた。オチは意外性があった。未知の存在に大勢で挑む物語だったら良かったかもしれない。

冒頭から引き込まれた作品だった。両親を宇宙に奪われた登場人物が、真実を追求するために信念を持って生きる姿が格好いい。そんな姿を見守る主人公の葛藤も、描き方が丁寧で好ましかった。物語のテンポもよく、展開を盛り上げる技巧も備わっていて、とても読みやすい文章だった。

絶えても続くBSS / いち亀
今時の題材と普遍的なテーマの掛け合わせで作られており、安定的に人気を得られる作品だと感じます。また、気持ちの変化がテンポよく表現されていて、主人公の成長が伝わってきます。私も心を動かされて泣きそうになりました。やはり正直者が救われる世界であってほしいと祈らざるを得ません。

出会い、崇拝からの別れという推し活の一生のようなお話で、最後推しから離れていく感じにリアリティがありました。最初は恋愛に近いところから入った関係性でしたが、最後は何年もそばにい続けたのにやけにあっさりしているなと、思うほど離れていくような描写が印象的でした。ただ、このあっさりした感じが恋愛とは少しズレた新しい観点として、面白みがある気がします。

あなたたちにはブルーが足りない / 村崎なつ生
とある会社の部署で起きる憂鬱についての物語。主人公はパワハラを受けているわけではなく間接被害を受けている。主人公の偽善や被害者の思考など生々しく描かれており緊張感を感じられる。被害者が青いペンキをぶちまけるシーンなど思い切りの良い演出が施されており、状況が重々しいにも関わらず不思議な爽快感があった。ただひとつ、被害者にも救いがあって良かったのではと思う。

面白かった。後半の息をつかせぬ怒濤の展開が読ませます。主人公の取った行動もいい。文章のディテールが甘く、それが演出を平坦にしていることが残念。結論にも、もうひとつ踏み込みが欲しい。

波子のノブレス・オブリージュ / 佐々木錯視
読んだなかでいちばん「青さ」を感じた作品でした。特に語り手の、精一杯生きてるんです感がすごく良いです。自殺願望に言及するとき、フィクションの場合好きなだけ劇的な原因を持ってくることができますが、それをせず、読み手があるいは自分もそのような…と社会的ドロップアウトの可能性に気づける余地を生み出していると思いました。波子も波子で超人ではなく泥くささを感じさせる人間であるのが、さらに良いです。

夜明けの青が訪れるまでのわずかな時間で、急速に成長していく青い少女のお話。ラフな文体と飾らないキャラクターを武器に描かれる物語は、まさに可惜夜。ただ青痣の初描写箇所において若干の疑問が残り、後半の盛り上がりを前にして読者の感情を置き去りにしている印象。

りんごが落ちて、 / 深山都
死についてひたすら哲学的に考える、とても上質な作品でした。亡くなってしまった人たちのエピソードがどれも良くて、なんだかほんとうにそこに生きていたかのような手触りと喪失感がありました。作者様は人間を描くのが上手だなと思いました。

死と青春という重いテーマに対して、説明しすぎている印象で、ちょっと物足りなかった。死にたいと思っている特養老の患者でも、怖いから手すりを握っている、という一説が印象的。ここだけを突き詰めてもよかったように思う。

わけあえなくとも / 永津わか
中学生女子の青春物語として拝読。大人びて飾り気のない先輩に心を奪われる少女が語る思いは直接的ではないにも関わらずしっとりと読者に訴えかけてくるものがあり、また美しい筆致が作品の魅力を支えている。文章の表現が独特だと思った。憧れの先輩もまた憧れの先輩がおり、少女たちは思いをわけあえなくともどこか繋がっているのだろう。どこか切ない余韻を残す。

描写が丁寧で、雨の日の情景が目に浮かぶようだった。「いつの間にかノートを這っていた薄いミミズを退治すべく、私は筆箱に手を伸ばす」などの動作を描いた一文も、表現に工夫が凝らされていて、展開を楽しく追うことができた。

冷たい目玉 / 鳥辺野九
かつて青かった地球は今はもうない系SFで、このような設定が無性に好きで、ワクワクしながら読みました。その面影を人類は無意識のうちに体の内に求めているんでしょうか。眼球に刺青を彫るシーンがあまりにも精密で詳細でリアルで、薄目で少しずつ読みました……!

宇宙服のヘルメットのデザインをしていた男が、目玉にタトゥーを入れる依頼を受ける話。不思議な言動をする依頼者の女が、どこか人間味があって非常に魅力的に感じた。集中力を保ったまま、精密な作業が行われる後半のシーンは、息を止めてしまうほどに緊張感が伝わってきた。青という言葉を作中で使わず、かつての地球の色と表現しているのも面白かった。

雨と青空と / 白川慎二
書店員の女性視点で描かれる雨と元同僚の物語。雨について独特な感性を持つ元同僚を思い出す主人公のほとんど独白で進む物語ながら、短編映画を見たような感覚になった。派手さはないものの、雨で思い出す元同僚や自分の過去、繊細な感情などが丁寧な筆致で描かれている。雨模様が続く描写だが青空模様を効果的に使っており、そのコントラストが絶妙であり映像的演出が光る作品だと思った。

ものすごく良い文章ですね……。ストーリーとしては、ずっとやめた同僚のことを思い出しているだけなのに、なんでこんなに泣けてしまうのでしょうか。語り手が初めて未知子さんの気持ちに思考をシフトすることで、寂しさよりも彼女の幸福に想いを馳せることができるようになるラスト、雨と青空を効果的に用いた心情描写が素晴らしかったです。

青の土曜日 / 車道
芸術分野について一定の知識があり、それを活かした表現が面白い。またある地域一つに異常なことが起きる、という設定もうまく使いこなせていたと思えた。テーマの扱いも良い。こうした衒学的なSFが悪いわけではないが、どの要素も類型は多いため、あと一つ本作を象徴する要素が欲しい気がした。また、現在の字数では、多くの読者に伝える表現としてはやや説明不足にも思えた。

これはまたすごいのが来た!と思いました。手帳単体の記述のようですし、SFなのでホラーとは少し違うと思いますが、今流行りのモキュメンタリーを連想しました。また、関東の地理に明るい読者なら、何か感じ取るものがあるかもしれません。ないかもしれません。この強烈な個性を大切にしてください。

私の庭の青い芝 / 水島窯
自分が選ばなかった未来を生きる他人が、どうしてもうらやましく思えてしまう人間の心理が、ひとつの物語として書き上げられている。どこにでもいるようなごく普通の人間という主人公の属性が、リアリティと共感性の高さを演出していた。手に入らなかった未来を表現したものが養分として芝の下から出てくるシーンが秀逸。

隣の芝生は青い。本章のテーマへのアプローチとして実に見事である。何気ない日常にも確かに宿る、様々な感傷の波を丁寧に描けていて、かつ主人公の性格に一貫性があって良い。ほんの少しの外連味を足すことができれば、さらに多くの読み手に訴えかける一作となるだろう。

青の説 / 志村麦穂
まるで映画をみたかのような読後感。世界観の説明がストーリーと同時進行する文章が巧妙で、くどくなくて、途中から語り手とシンクロし、読んでいて引き込まれました。かつて青かった地球はいまはもうなく、薄汚れてしまった空気とか、現実が真に迫りました。差別と貧困と争いが重くのしかかる中、そこに差し込まれる純粋な青色との対比が鮮やかでした。

物語全体に漂うアングラな雰囲気と、ラストの清々しさの対比がよかった。随所の表現にも光るものがある。鋭い切り口で「自由」を描き出した発想と筆力を、評価したいと思う一方で、攻めた内容は読み手を選ぶようにも感じた。

青の道しるべ / けろこ
ストーリーラインに類型が多く、展開もやや平凡に感じ、このまま採用するのは難しく思えた。しかし現代性や流れの良さなど、複数の長所が見受けられ、文体も平易で読みやすいので、この方向性を突きつめることで、合ったレーベルからの出版は可能になると思われる。

大前提、よく書けた日常系の小説である。多くの読み手の共感を得て、さらに反感を買いにくい内容であると思う。ただ小説賞を攫いに行くにあたって、パンチ不足は否めなかった。コンパクトな良作に留まらず、うねりのある大傑作を目指してほしい。

染まれ青藍 / 立藤夕貴
環境の変化と、自分自身が他人とは違うのではないかという(どこか初々しさを感じさせる)心の戸惑いを抱えた少年と、それをおおらかに導く大人との出会いが爽やかに描かれている。イベントの様子が生き生きと伝わってくるのも良かった。

普段なら交わらない人が出会うお話から得られるパワーがあると思うのですが、このお話からそのパワーが伝わってきました。高校生が、学校外の新しい世界を見つけていくという話の流れ自体にも希望があるような気がします。お話も読みやすく、あたたかい気持ちになりました。

鵜玉うぎょく / 平井みね
主人公である香耶の、貧しい中でも失われない善性の描写が終始光っていて、身勝手な丹礼との対比も素晴らしかった。生きるために正しいことをしているのは丹礼の方かもしれないが、心優しい香耶の方に、せめて物語の中でくらいは報われてほしいという読者の気持ちを掬い上げてくれるような作品だった。

教訓めいたお話なので、先の展開はなんとなく分かりつつも、一つ一つの描写が丁寧で引き込まれました。また、設定的にあまり馴染みのない時代を想像させるお話でしたが、文章から伝わってくる素朴な感じが良かったです。

雅客 / 武川蔓緒
意欲的な作品であり、特に表現力に優れており、内容も面白く興味深い。筆致と上手く合っていて、総合的に高く評価したい。しかし二つの文体からなる構成が完全に交互になっていないことや、その文体が途中から変化していくところが大きく可読性を損なっているので、選考が進む場合は改稿が望ましい。話自体は素直なので、読者に寄り添った形に修正することで、十分に商業作品として通用すると思われる。

夢かうつつか。ふたつの舞台を行ったり来たりしていますが、どちらもはっきりと情景を思い浮かべることができ、作者さんの脳内ではできあがった世界観があることが察せられます。きっとこだわりのある書き手が言葉を選び抜いて表現したのであろうことが想像できます。実に繊細な文体でした。

あのプールでの暮らしのこと / オオタキミドリ
拭い去れないトラウマを、どこかシュールに描いた作品。主人公の独白に浸りながら、当時の状況を推測する余白と楽しさがあり、同時に憐憫の情を覚える不思議な読み味となっている。ただ先述の余白の大きさが、カタルシスを薄めている印象もあった。

リーダビリティがとても高く、夜の美術館を歩いているようなワクワク感と美しさがあった。一つ一つの言葉を丁寧に選んでいると分かる文章も素晴らしく、プールで暮らしていた頃の情景が目に浮かんだ。発想の斬新さも評価したい。

バニラの海になる / 阿透
なんと洒落た都会の恋愛! 高校生くらいの子が読むと大学生という大人たちはこういう暮らしをするものだと思い込んでしまいそうなくらい、自然な生活が描写されています。これもまたひとつの青春です。ひかる以外の登場人物の外見描写はありませんでしたが、主人公はきっとイケメンなのでしょうね。

恋の終わりを美しく描き出した筆致が見事で、作中に出てくるクリームソーダのアイスのように、「味」と「思い出」を自然に結びつける描き方に好感を持った。倦怠期の恋人たちの心情もリアルで、未練の描き方にも温度が感じられた。

人魚の小瓶 / 朝吹
文章は美しく、完成度も高くてとても素晴らしかった。しかし物語としてはなにも起こらずに終わってしまい、よく出来たエッセイのような読後感であまりに物足りない。ドラマが全てではないけれども、主人公の感情をもっと掘り下げられたはず。

幼心のままに感じていたノスタルジィ溢れる世界が、丁寧に語られている。匂い立つような表現や情景の浮かぶ描写も素晴らしく、子供が抱く未知への畏怖も良い味付けになっている。反面、前述の畏怖を描くための要素がホラー小説を思わせ、読者をミスリードしている感は否めない。並べたパズルを活かす工夫が見られればなお良かった。

青に堕つ / 瀬古悠太
キャラクター、展開、結末のいずれも高いレベルにあると感じた。特殊な設定を物語に組み込む力もある。文章は平易で奇抜さはないが、総合力の高さから商業出版として適切であると評価したい。ただし登場人物が少し素直すぎるように感じたため、あと一歩のひねりが欲しいようにも感じた。

意外性が素晴らしい物語だった。執着と愛情を「青」というテーマに絡める手腕が見事で、冒頭とラストで物語の印象が別物に変化している点が、このお話で炙り出された「嘘」を象徴しているようで面白い。展開の組み立て方がとても巧かった。

ラピスラズリかターコイズ / 阿山三郎
とあるアニメに出てきていた宝石がラピスラズリかターコイズかを巡り、大学のアニメ漫画研究部で議論が交わされる。会話や情景が細かいところまで描写されていて、議論の相手となる真流子のキャラクターとしての魅力や、その場の雰囲気をしっかり感じ取ることができ、もっと彼らの日常を見ていたいと思わされた。

なんというオタクあるある! しかしこれはこれでなかなかに青春ですね。大学のサークル活動でないとできない議論かもしれません。主人公たちには貴重な人間関係を大事にしてもらいたいものです。今のエンタメコンテンツの潮流を考えると、むしろ彼らがラブコメ枠でアニメ化してもいいかもしれません。

死なない光は柔らかい / 正井
独特の世界観が丁寧な文章でのびのびと表現されています。また、いろんな青が登場しますが、すべての青の選び方が独特でセンスを感じます。ただ、主人公の目に何が映っているのかはぼんやり想像できるものの、あまりにも独創的なので、時々読者を置いてきぼりにしてしまうところがあるかもしれません。

評価に悩んだ一作。家の中のしきたりという、本来、表立っては見えないものにスポットライトをあて、成長と順応を描いている。過去と現在、姉と自分との対比に様々な想いを巡らせながら、小説ならではの心理描写で味わい深い。作中での不思議な体験を経て、主人公視点での明確な答えが何かひとつ欲しかった。

639億秒目の空 / 憂杞
設定は面白く、またよく練られていると感じたが、概念的に過ぎるせいか、現実の戦争の恐怖を語るには上滑りした印象を受けた。ドラマチックであることが、却って緊迫感を削いでいるようにも思う。語ろうとするテーマに対し、どの視点で感情移入すべきかが処理し切れておらず、アイデアがスケールの殻を破れなかったことが残念。

冒頭を読んだとき、難解な物語だという印象を持った。そして、読み進めていくうちに、掲げたテーマの重みが伝わってきて、物語の難解さを改めて実感すると共に、強い切なさとやるせなさを感じた。この難解さに対抗する「祈り」を、多くの人に読み解いてほしいと願わずにはいられない作品だった。

ぜひ次回以降にも作品をお寄せください。お待ちしております。

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