北欧旅②【ルイジアナ近代美術館】
夕方からは、コペンハーゲンから電車で30分揺られて、ルイジアナ近代美術館へ。こちらも予備知識は一切なく、隣国スウェーデンに家族で住んでいた飯田さんに勧められるままに足を伸ばした。
美術館に最寄りの駅に降り立つと、驚いたことにそこから美術館までの一キロ弱のエリア一帯が、すでに美術館の内部であるかのように、豊かな自然の中に包み込まれるようなシンプルな民家が、連なるように静かにたたずんでいた。
美術館の門をくぐると目の前に、バルト海に面した一切コンクリートの護岸が見当たらない自然海岸を見下ろすように、半円状の青草の庭が、広がっている。
この美術館最大のアートはデンマークの豊かな自然であるかのような演出。周囲の環境と断絶した「点」でしかあり得ない、日本の「ハコモノ美術館」とは違い、エリアの一部をさりげなく、切り取ったに過ぎないかのように、周辺の環境と全く遊離していない。「環境」と遊離した「アート」などあり得ないと雄弁に語りかけてくる。
その一方、美術館の館内は、前衛的なインスタレーションを施した様々なアート作品が体感できるようになっている。訪れたすべての人々は、海辺の静かな自然空間という「礼拝堂」に入る前に、「洗礼」の役割を果たす「司祭」の役目を現代芸術の作家たちに託す。刺激に満ちあふれた前衛芸術によって、日常の感性のリミッターを解放する。
海に面した庭には、家族、恋人、旧友と言葉を交わす「対話」をする姿がいたるところにあふれ、移ろいゆく季節を前に、人々がくつろぎ、思い思いの場所で静かに語らい合う安らぎの空間アートを生み出していた。素足になって海辺の草地で北欧の遅い日没までの時間を過ごす。幸いスマホのバッテリーも切れた。
敷地ギリギリまでマンションやビルに囲まれて辛うじて存在している日本の鎮守の森の陳腐さとは比較にならない深い精神性を感じる。
瞑想を誘うような豊かな自然と屋内の先進の手法を使ったモダンアートのインスタレーションとの対比。相互に身を委ね安らぎを生む精神的解放へ誘う制約なきアートには、豊かな自然環境が必要条件であり、その結果として産み出されるのが「対話」。
人間という因子を排除しない決断をした社会のもう一つの顔を見ることができた貴重な体験だった。