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隠れ家の不良美少女 132 結婚披露宴第一部

遂に結婚披露宴当日となった。
俺は順調に進むよう、ステージ袖や会場から台本を確認しながら見守っている。

ステージ裏の控室には新くんと綾乃さんがスタンバイしている。
純白の輝くウエディングドレスを纏った綾乃さんを、メイクさんが確認をしている。
将輝社長が嬉しそうに二人を眺めた。
「そろそろ本番です」舞台監督の橘さんが社長をステージ袖に案内する。

会場は暗くなった、そして沈黙が支配した。
ステージ後方の大きなスクリーンにマサキ本社の映像が映し出される。
音楽と共にナレーションが始まり、躍進するマサキグループの現状が紹介された。
そして映像が終了した。

ピンスポットがステージ下手の司会者を照らす。
「皆様、本日はマサキグループ主催の結婚披露宴へお越しいただき心から感謝いたします、またこの模様は全国の支社及び関連会社へも同時配信されています。本日司会を務めさせていただきます原友里香と申します、どうぞよろしくお願いいたします」
会場に大きな拍手が起こった。

「それでは初めに株式会社マサキ代表取締役、神崎将輝よりご挨拶申し上げます」
ステージ上手から将輝社長がステージの中央へと進んだ。

「本日はお越しいただきありがとうございます、堅苦しい挨拶にしたくありませんので皆さん食事などをしながらお耳を少し拝借したいと思います」
会場から少し騒めきが聞こえる。

「皆さんの中には、なぜ結婚披露宴がマサキグループの主催なのか疑問に思われる方もおられるかもしれません。私はこれまで会社をなりふり構わず成長させる事に専念して来ました。そしてふと後継者育成をしていなかった事に気がつきました。もし、今私が事故などに遭い経営から離れた場合どうなるのでしょう?たった一人の身内である娘、綾乃に全ての責任がのしかかってしまうでしょう。どうしたものかと考えていた所、娘は一人の青年を連れて来ました、橋口新くんです、私はどんな人なんだろうと思いました。

今このマサキグループでは経営診断を行なっています、このプログラムのお陰で優秀な課や個人が把握でき、適切な評価が出来るようになりました。そのお陰で士気が向上し売上が5パーセントも上昇しました。そしてそのプログラムを作ったのが橋口新くんでした」
会場から歓声と拍手が起こった。

「そして私は彼に会社の経営に参加するように役員として迎えたいと要請しました、しかし彼はその役員としての地位を全く欲しがりません。そればかりか娘と二人平凡に生きて行きたいと言ったのです!」将輝社長は拳を振り上げて怒った。
会場から大きな笑いが響く。

「私はたった一人の娘を取られてはたまりません、そこでどうしたら会社に来てくれるかと聞いた所、彼はこう言ったのです」
『私は欲が無いので経営には向かないと思います、ですから働いている人達が幸せになるような環境を作る仕事なら引き受けてもいいです』と言いやがったのです!」
会場は更に大きな笑いが溢れた。

「私は彼の思うようにやらせて、もし失敗したらその時は、その時こそ、私の言うことを聞いて貰おうと思ったのです。彼は社員の為の食堂を作りました、皆さんご存知の様に大好評です」将輝社長は悔しそうにした。
また会場に笑い声が溢れた。

「しかも、今度は託児所を開設して喜ばれています。挙げ句の果てには彼の提案した女性だけのマーケティング課が中心となり作った新商品が大ヒットしました」将輝社長はガックリと肩を落とす。

会場から「社長、頑張って!」と声が飛び交った。

「私はどうしたものかと考えました、そして森田専務と画策して、娘との結婚を条件に養子になる様要請したんです。彼は何と、いとも簡単に『いいですよ』と答えてくれました。私は喜びました、だって娘を取られるんじゃなくて息子が増えるんですからね」
将輝社長は勝ち誇ったようにガッツポーズをキメる。
会場は歓声が沸き起こった。

「これからのマサキグループには彼のように個人の幸せを大切に思う人が必要だと確信したんです、これから社員の幸せを大切に考える会社にしていく為にも、彼をグループに迎える事にしました」

「皆さん、私からも橋口新くん、いや、神崎新をよろしくお願いします」

将輝社長は深々と頭を下げている。会場から大きな拍手と歓声が起こった。

将輝社長は多くの歓声と拍手に手を降りながらステージ前の階段を降りて来賓席に座った。

ステージが明るくなりウエディングマーチが鳴り響く。

「皆様、お持ちかね、新郎新婦入場です!」

新くんと綾乃さんがステージに登場した。
純白のドレスが輝いている。
綾乃さんの美しさに会場からどよめきが起こる。
新くんは恥ずかしそうにシンプルなタキシードで横へ付き添っている。

「新さ〜ん!」会場から黄色い声が聞こえると、新くんは更に恥ずかしそうにした。

「新さん、しっかり挨拶してね」綾乃さんの一言に会場から笑い声が起こった。

新くんは綾乃さんと少し前に出てゆっくりとお辞儀する。

「皆さんこの度は私たち二人の結婚披露宴にお越しいただきありがとうございます」
二人は深々と頭を下げた。

「今日から画策により神崎新となりました、皆さん宜しくお願いいたします」
会場大笑いになった。

「森田専務さんとの画策なんて一言も聞いてませんよ、私は綾乃さんの為に養子でという要請を『喜んで』とお受けしました。そういう事だったんですね」頷いている。

会場から「いいじゃないか!幸せになれば!」ヤジが飛んだ。

「ですよねえ」綾乃さんが大きく頷く。
また大きな笑いが起こった。

「私は身内で簡素な結婚式を望んだのですが、それは許されるはずもなく、このように盛大になってしまいました。私は働く皆様の幸せを願うのみです、ですからあまり大きな期待を持たれると困ります。微力ではありますが、マサキグループに寄り添い精進してまいります、どうか宜しくお願いいたします」

新くんと綾乃さんは深々と頭を下げる。
会場から大きな拍手と歓声が起こった。
二人は手を繋いで階段を降り、新郎新婦の席へと座った。

「それではここでマサキ九州支社長、鈴田様からご挨拶をいただきます」
友里香さんの紹介で九州支社の映像がスクリーンに映し出される。
緊張した鈴田支社長は少し上ずった声で挨拶した。

「九州支社の鈴田です、この度はご結婚おめでとうございます、地元九州からグループの経営に携わる方が出た事を誇りに思います、私たち九州支社は神崎新さんを応援します」鈴田支社長は嬉しそうに挨拶をした。

「続きまして四国支社長の矢野川様よりご挨拶いただきます」

各支社からの挨拶が終わり、グループ会社からの挨拶も終了した。

最後に森田専務が挨拶をした。

「私は画策した事を悪いとは思っていませんよ」
また会場に笑いが起こった。

「私の息子は事情がありこのマサキを退職しました。しかし、新くんが託児所を開設する為に息子を呼び戻してくれました。息子は新くんについて行くと言ってます。私は彼がマサキグループに入ってくれた事に感謝しています。どうか皆さん、私からも新くんを宜しくお願いいたします」
森田専務は深々と頭を下げた。
会場に拍手が鳴り響く。

「皆様、長い間ありがとうございました、これで第一部を終了させていただきます、これより三十分程休憩をいただき、第二部となります。しばらくの間お食事やご観覧をいただきますようにお願いいたします」友里香さんは第一部を締め括った。

友里香さんは会場に降りると、綾乃さんの学園祭コーナーを紹介する。
元気な女子高生の掛け声に列ができた。

また友里香さんは新くんの海の幸コーナーも紹介した。
海の無い高崎の人達は少し不思議そうにしたが、試食するとたちまち列を作った。

俺はステージ横で「ふ〜」っと息を漏らす。
奏太くんがニッコリ笑顔でやって来た。
「いい感じで進んでますね」
「そうだね、これと言ってトラブルも無く進んでくれた、最もこれからが大変だけどね」
「そうですね、俺は映像を出す準備に行ってきます」
「よろしく!」俺は控室の状況を見に行った。

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