星降る夜のセレナーデ 第73話 盲目の指揮者
俺は別の音楽を作り始めた。雑誌の付録で配布されるDVDでカーレース用BGMだ。
また志音ちゃんの助けが必要だと思った。
簡単なドラムとベース、オルガンを打ち込み、メロディを考える。
何となくこんな感じかと思うメロディをガイドで入れてみた。
しかし思うようなイメージにならない。
「ふう…………」ため息が出る。
ふと先生の指揮する姿を思い出し、レンガの壁に向かって目を閉じ、ボールペンをタクトにして振ってみる。下手なパンクバンドが出てきて騒がしいだけだ。全く参考にならない。
「どう?オーケストラは出て来た?」志音ちゃんがニッコリしながら声をかけてくれた。
「全然出てこないや、やっぱ才能ないかなあ?……………」俺は頭をかいた。
「きっといつか、いいオーケストラが出てくるよ」志音ちゃんは慰めてくれる。
「だといいなあ………………」
志音ちゃんは学校から帰ってくると直ぐにスタジオへ来て協力してくれる。
もう、志音先生無しでは仕事が進まなくなっている。
「今度の曲はどんな感じ?」志音ちゃんはモニターの前へ座ると、曲を再生した。
「カーレースのテーマだから、カッコよくて広がり感がある感じだよなあ…………」
「モヒくん、カッコいいブラスの音は無いの?」
「オーケストラ・ブラスっていうのが入ってるけど」俺は音源からその音を出す。
志音ちゃんはしばらくそのブラスの音を鳴らして考えている。
「モヒくん、録音してみて」
「はい、志音先生!」俺は録音をスタートした。
『パッツ・パララ〜・パパ♪……………パッツ・パララ〜・パパ♪』
突然曲の空間が広がりカッコよくなった。
「じゃあドラムを入れてみるよ」志音先生はドラムの前に座る。
少しウォーミングアップをすると、スピード感のあるカッコいいドラムを叩く。
その時点で曲の方向性が、がっちり決まった。俺はベースを弾いて録音した。
志音先生はピアノも弾いてくれた。
大まか出来たあたりで、先生がスタジオへ顔を出す。
「順調に進んでるかい?」口角をあげて二人を見ている。
「今、こんな感じです」俺は曲を再生させた。
先生はしばらく聴いていたが、何度も頷いてギターを持った。
「私も参加していいかなあ」ニッコリしている。
「お願いします」俺は頭を下げる。
先生はギターのカッティングとソロを弾いてくれた。
もうほぼ完成したと思える程になる。
「白河バンドになったねえ」志音先生はニッコリ頷いた。
「真人くん、ここのメロディの頭に休符を入れてごらんよ、カッコよくなるから」そう言ってデータを修正してくれた。
聴いてみると、跳ねた感じになって生き生きしてくる。
「先生、すごいです、一瞬の休符でこんなに違うんですね」
俺は先生の音楽の引き出しの多さに、ただただ頭が下がった。