星降る夜のセレナーデ 第46話 キノコハンバーグ
しばらくドライブして、大きな公園のミューズパークにも行ってみた。やがて夕方になり空の雲は赤く輝いている。
「モヒくん、お腹すいてきた」
「そうだね、何が食べたい?」
「モヒくんはいつもどんなお店で食べるの?」
「そうだなあ………ドラマーの先輩がやってるお店とか………」
「そう、志音そのお店へ行ってみたい」少しだけ甘えるような目だ。
「じゃあそこへ行こうか」俺はハンドルを回して店へとアクセルを踏んだ。
しばらく街中を走ると、ログハウスのレストラン『アイランド』へ到着する。
「カラン・カラン」店のドアを開け中へ入った。
「おっ、真人じゃないか、元気だったか?」マスターが迎えてくれた。まだ早いのでお店は空いている。
「はい、元気です」俺はペコリと頭を下げた。
「バンドが解散したから心配してたんだよ」そう言ってふと隣にいる志音ちゃんを見る。
「もしかして彼女さんかい?」
志音ちゃんもペコリと頭を下げてマスターを見ている。
「今働いてる所のお嬢さんです」俺は簡単に説明した。
「この前奈津美ちゃんが来て、真人は音楽関係の仕事をしてるって言ってたけど」
「奈津美はおしゃべりだなあ」俺は呆れた表情をしてしまう。
志音ちゃんは不思議そうに二人の話を聞いていたが、席に座ると早速メニューを覗き込んだ。
「お兄ちゃん、私キノコのハンバーグがいい」ニッコリと微笑む。
「了解しました」マスターは頷いた。
「俺はいつものやつで」
「了解!」そう言うと厨房に向かって指示をした。
志音ちゃんはお店の中を不思議そうに見渡している。
「なんか少し家と似てるね、あっピアノがある」黒いアップライトピアノに目が止まる。
「弾いてもいいよお嬢さん」マスターが微笑んだ。
「志音ちゃん、ピアノは弾けるの?」俺は何気なく聞いてみる。
志音ちゃんは少しイラッとしたような顔をすると、ピアノの前へ歩いて行った。
カバーを開けて赤い布をどけると、低い音から高い音までパラパラっと引いて音を出す。一瞬こちらを向いて口角を少し上げると、突然ジャズの名曲を引き出した。
「「えっ!!!!」」俺とマスターは金縛り状態になった。
目の前の女の子が弾いているとは思えないくらいカッコいいジャズピアノが店内に響く。微妙な揺らぎや強弱も完全にプロの演奏だと感じさせた。
「すげえ!やっぱり音楽関係のお嬢さんだね、本物は違うなあ」マスターは感心している。
俺はまた衝撃を受けた、一体志音ちゃんはどれだけの楽器を練習したんだろう。
一曲弾き終わった志音ちゃんは「やっぱり生のピアノはいいなあ」そう言って席へ戻ってきた。
「志音ちゃんはどれだけの楽器ができるの?」
「えへへ………教えない」悪戯っぽい笑顔で目を泳がせた。
「………………」俺は言葉が出ない。
「お腹すいた〜!」そう言いながら俺の顔を見ている。
「俺から見ると、志音ちゃんの方がヒーローだなあ、いやヒロインか?……色んな楽器がプロ並みだし」
「そうなの?」首を傾げ不思議そうな顔をしている。
「お待たせしました!」キノコハンバーグとローストビーフが運ばれて来た。
「あれっ、お兄ちゃんのは何?」
「これはローストビーフだけど」
「志音、それもちょっと食べたい」そう言ってハンバーグを切ると俺のお皿にのせてくる。
「いいよ」そう言ってローストビーフを切って志音ちゃんのお皿に乗せた。
「二人を見てると、仲のいいカップルに見えるなあ」マスターが微笑んだ。
志音ちゃんも少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「志音ちゃんが大人っぽい服を着ると、みんな彼女だと思うのかなあ」
「だって私、もう14歳だよ!それにメイクだって少しずつママに習ってるんだから」そう言って口を尖らせた。
「そうなんだ…………」俺は何度も頷いた。