星降る夜のセレナーデ 第107話 試写会
発表があり、志音ちゃんは無事に高校へ合格した。俺も嬉しくなった。
リビングには、ほのぼのと喜びが広がっている。
「志音、忙しい中よく頑張ったね」先生も嬉しそうだ。
「これで春からモヒくんの後輩になるんだよ」ニッコリしている。
「そうだね………………」先生は少し複雑な表情になった。
俺は少し不思議になって美夜子さんを見た。美夜子さんは口角を上げて俺を見ている。
「志音は喘息の心配もなくなったし、いろんな事をしてみたい、吹奏楽部に入ろうかなあ………」
夢が膨らんでいるようだ。俺も志音ちゃんに青春がやってくるような気がして嬉しい。
「真人くん、小池さんからメールが来てるわよ」美夜子さんがノートパソコンを指差している。
「はい」俺は内容を確認する。
「この前音楽を作った映像作品の試写会が有るみたいです、良かったら見に来ませんかと書いてあります」
「おっ、それは良かったね、是非行っておいでよ」先生は嬉しそうに頷く。
「志音もモヒくんと一緒に音楽を作ったから、行きたい」志音ちゃんも嬉しそうに言った。
「でも………俺………どんな服装で行ったら良いんでしょうか?」不安になってしまう。
「そうか…………これからの事も考えて真人くんはスーツを買ったら?」先生が提案してくれた。
「そうね、それが良いかも」美夜子さんも頷いている。
「じゃあみんなで買い物に行こうよ」
「そうだね、志音の合格祝いもあるし」先生は頷いた。
みんなで深谷まで行く事になる。俺はもう少し服装にも気を使うようになった方が良いのかなあと思っている。
試写会の当日になった。志音ちゃんは気合を入れてオシャレとメイクをしている。俺は慣れないスーツでエスコートする。
2人でロードスターに乗り込んだ。今日は志音ちゃんのメイクや髪が荒れないようにオープンカーの幌をしっかりと固定し、風が入らないようにした。
「行ってきま〜す!」先生と美夜子さんに見送られながら東京を目指す。
走り出した車の中で俺は志音ちゃんをチラチラと見た。
「どうしたの?」志音ちゃんは不思議そうに見ている。
「綺麗だなあと思って………………」
「そう?そうなの?」志音ちゃんは嬉しそうな表情だ。
そして少し改まった顔をすると「真人さん…………」ポツリと言った。
俺はビクッとなって思わずブレーキを少し踏んでしまった。
「どうしたの志音ちゃん?」
「だって、出版社や関係者の人たちがいたら、モヒくんとかお兄ちゃんとか言えないかなあと思って…………だから練習してみたの」上目遣いで俺をみた。
俺はドキッとする。
「そうなんだ……………志音ちゃんは…………大人になって行くんだね、俺も志音さんって呼んだ方が良いのかなあ……………」
一瞬考えた志音ちゃんは「志音さんなんて、なんかくすぐったい」少し笑った。
「俺も言ったけど、なんかくすぐったい」そう言って笑った。
新宿の出版社へ到着する。一緒に来た志音ちゃんをみて小池さんが固まった。
「真人くん、主役は志音ちゃんに見えるよ」そう言って笑っている。
試写会が始り、司会者さんから紹介され俺は挨拶した。
「音楽を作らせていただきありがとうございました、深く感謝しています。そして演奏をしていただいた白河志音さんです」俺は横にいた志音ちゃんを紹介した。
志音ちゃんはゆっくりお辞儀する。会場からどよめきが起こった。
志音ちゃんの魅力は多くの人を驚かせたようだ。
映画が始まった。志音ちゃんは小声で「ここは凄く苦労したね」そう言って作っていた状況を思い出しているようだ。
「そうだねえ………」俺も小声で返事する。
試写会が終わると、出版社へ戻ってきた。
俺と志音ちゃんはお礼を言って出版社を後にした。