星降る夜のセレナーデ 第74話 宿題
曲のミックスを済ませてリビングへ出て来ると、志音ちゃんがテーブルで宿題をしている。
「よく分かんない…………」そう言って頬杖をつき唇を突き出す。
俺は何となく広げられた数学の問題を覗いて見る。
「あ〜、それか…………こうやるとわかりやすいよ」そう言って鉛筆で解き方のヒントを書いた。
「えっ、モヒくん解るの?」志音ちゃんは驚いて何度も瞬きしている。
「あら、真人くん数学得意なの?」美夜子さんが不思議そうに聞いた。
「俺、これでも中学までは成績良かったんですよ」照れ臭くなって笑ってしまった。
「そうなんだ、やっぱり不良じゃ無かったんだね」志音ちゃんは改めて俺をじっくりと見ている。
「高校になったら全く勉強しなくなっちゃったけどね」頭をポリポリかいた。
「曲作りを手伝ってもらっているので、宿題は協力するよ」
「よかった〜………これで宿題が楽になる」志音ちゃんはゆるい笑顔を見せる。
「志音ちゃん、いつも頼ってばかりはダメよ」美夜子さんに釘を刺されて頬を膨らした。
先生が散歩から帰ってきた、散歩すると良いアイデアが浮かぶらしい。
「とーたん、モヒくんから宿題教えてもらっちゃった」早速報告している。
「えっ?…………真人くんって不良じゃ無かったの?」先生は不思議そうに俺を見ている。
「中学までは割と成績が良かったんですよ」俺は少し恥ずかしくなった。
「そうなんだ、なるほど…………真人くんは色々と覚えが早いと思ってたけど、元々優秀なんだね」先生は何度も頷く。
「いえ、大した事無いです」俺はポリポリと頭をかいた。
「何なの!私は大した事ない人に教えられてるの?」志音ちゃんは不服そうな顔で睨んだ。
「えっ……………」俺は言葉に詰まってしまう。
「志音ちゃん、真人くんを困らせちゃあダメよ」美夜子さんがフォローしてくれた。
志音ちゃんは少し舌を出して少し笑うと、また宿題を進めた。
「そうだ、もうすぐ志音ちゃんは誕生日だよね、いつも助けられてるから誕生日プレゼントに何が良いか教えて欲しいな」
「えっ、モヒくんがプレゼントしてくれるの?」志音ちゃんは驚いて溢れそうな瞳で俺を見た。
「良かったわね志音ちゃん」美夜子さんが微笑んだ。
「う〜ん…………」志音ちゃんは唇に力を入れて眉を寄せ考え込む。
「ママ!志音はメイクの道具が欲しい!」力強く宣言した。
「そうね、そろそろメイクの勉強をしても良い頃かもね」美夜子さんは少し頷く。
「志音はメイクしなくても可愛いよ」先生は少し心配そうだ。
「パパは黙ってて!」じろっと睨んだ。
「はいはい…………」先生はソファーへ行くとドサっと座った。
そんな先生を見て、俺は少しだけ可笑しくなった。あの偉大な先生が志音ちゃんには頭が上がらないんだなあと思うと、ほのぼのとした気持ちになった。