星降る夜のセレナーデ 第78話 お願い
出版社へ戻ると、小池さんは出版物や著作権の事などを教えてくれた。
俺は子供のような目をして、小池さんの話を聞いた。
「これ、DVDのサンプルだよ」小池さんはDVDを2枚渡してくれた。
初めて、発売された清水アリサさんのDVDを確認する。
「これが発売された物なんですね」俺は繁々と見つめている。
「もうすぐ彼女が来るからサインしてもらったら?」
「えっ、本人が来るんですか?」
「うん、何か真人君にお願いがあるらしいよ」
「えっ?」
俺は何だろうと思って、少し不安になってしまう。
程なく彼女は現れた。
「御免なさい、お待たせしてしまって」清水アリサちゃんはピコンと頭を下げた。
ライブの時と違って、プライベートの彼女はとても可愛い。
「ども…………」俺も軽く会釈する。
小池さんは「コーヒーを用意するね」そう言って席を離れ、部屋を出て行った。
2人きりになったので、俺は思わず緊張してしまう。
「浅見さんはハーレーに乗ってると聞いてたから、もっとワイルドな人かと思ったわ」少し笑っている。
「えっ?」
「パンクバンドもやってたんでしょう?」首を傾げた。
「えっ?」
彼女は「クスクス」と手で口元を隠して肩を揺らしている。
「俺、変ですか」俺は不思議になって聞いてみる。
「だって、『えっ』しか言わないし」さらに肩を揺らした。
「そうですね」俺は項垂れて納得するしかない。
「浅見さんって可愛いんですね」ニンマリして上目遣いで見た。
「えっ?」また言ってしまった。
そこへ小池さんがコーヒーを持って入ってきた。
「お待たせ〜」二人の前へ置いている。
「アリサちゃんお願いした?」
「これからです」改めて俺を見た。
「実は、私のテーマ曲を作って欲しいんです。プロレスや野球でも選手登場の曲があるでしょう?これからイベントに出る事が増えるんで、私が登場するための音楽を作ってもらえませんか?」
「あ〜………なるほど、確かに登場する時のテーマ曲ってありますね」何となく頷いた。
「真人くん、ぜひ作ってあげてよ、俺からもお願い」小池さんはニッコリしている。
「……………はい、良いのができるか分かりませんが作ってみます」俺は頷いた。
「ありがとうございま〜す」アリサさんは小さくペチペチと拍手して喜んでいる。
俺は大丈夫かなあと、少し不安になった。