隠れ家の不良美少女 148 幼い日々
ウイングに向かう車の助手席で希和はポツリと話し始めた。
「私が4歳か5歳の頃だと思うんだけど、ピアノを習いたいって母さんい言ったらしいの、お母さんは苦しい生活の中ピアノを買ってくれたし、教室にも通わせてくれた。でも小学校後半になって友達が持ってる物とか欲しくなってねだったの、そうしたらピアノのローンや教室の月謝で大変だからって断られた。だからもうピアノは嫌だってやめたの、そうしたらお母さんとっても悲しそうな顔をしてた。それから何も欲しがっちゃいけないと思ったの、それに必死に夜遅くまで頑張ってるお母さんを見てると寂しがってもいけないと思ったわ」希和はうっすらと涙を浮かべている。
「そうだったのか…………辛かったな…………」
あの殺風景な希和の部屋と、抱きついて寝る事がその辛さを物語っていた。
「希和の部屋の隣にある生地がたくさん置いてある部屋には、今でも重ねられた生地の下にピアノがあるわ」
「ピアノを弾いたりしないのか?」
「何となくお母さんと私の中で、触ってはいけない物のような気がしてた…………」
「これからはピアノもギターも楽しんで良いと思うよ、だって希和は今仕事になってるんだから」
「そう思う?」
「ああ、きっと希美子さんもまた弾いて欲しいと思ってるんじゃないかな」
「そうかな」希和は少しだけ口角を上げた。
「お父さんにギターを買ってもらった事怒られないかなあ?」希和は少し不安そうな顔をした。
「大丈夫さ」俺は希和の頭を片手で撫でた。
ウイングに到着した。
「お帰りなさい友希さん希和ちゃん」奏太くんと未来ちゃんが出迎えてくれた。
「ただいま〜」希和はギターケースを嬉しそうにテーブルに置いて開く。
「いいなあ〜」未来ちゃんが覗き込んだ。
早速希和は椅子に座りギターを抱えて『ジャラーン』と音を出す。
「いい音だねえ」未来ちゃんが何度も頷いた。
「でもまだ何にも弾けないんだ」希和はゆるい笑顔だ。
「希和ちゃんならきっと直ぐに上手になるよ」奏太くんが微笑んだ。
「そうよ、きっと大丈夫」未来ちゃんも微笑んだ。
希和は嬉しそうにギターを磨いている。
三人はそれを微笑ましく見ていた。