水の生まれる夜に 100 社員食堂
社内の食堂の設営は急ピッチで進められた。
夏菜さんは募集で集まったパートさん達と、メニューや厨房設備の使い方、そして調理の段取りなどオープンに向けて忙しそうだ。
綾乃もメニュー作りに意見を出して手伝った。
「綾乃、なんか学園祭の模擬展を思い出すね」夏菜さんが懐かしそうに漏らす。
「そうねえ、二人で沢山作ったわよね、焼きそばとかカレーとか」
二人は懐かしく『たかじょ』時代を思い出しているようだ。
オープンすると安くてしかも美味しいと大好評だ。
俺と綾乃、留美さんに美由紀ちゃん、松本君も食堂へやって来た。
「いやあ……繁盛してますねえ」松本君は見渡している。
「これがオススメよ」綾乃は自分も協力して作った和定食の食券を買う。
後の4人も同じ和定食を注文する。
カウンターに出来上がった定食を取りに来ると夏菜さんが「はいこれ、新さん用ね」そう言って別のトレーを差し出す。
「何?夏菜、新さんの分だけ一品多いじゃない?」
「新さんは特別よ」夏菜さんは俺にウインクした。
「そんなのダメよ、みんなと一緒じゃなきゃあ」唇に力が入る。
「だって、新さんは綾乃に胃袋をつかまれてるんでしょう?だから解放してあげようと思って」目を泳がせる。
「ダメよ夏菜!せっかく頑張ってつかんだのに」綾乃は眉を寄せた。
「強力なライバルだわ!!!」美由紀ちゃんが唇を噛んだ。
「新さん、さすが!……モテモテですねえ」松本君は羨ましそうに言った。
「新くんがこんなになるなんて思っても見なかったわ」留美さんも笑っている。
テーブルに着いて食べ始めると和定食の美味しさにみんな驚いた。
「これは社食のレベルじゃないわねえ」瑠美さんが感心している。
「でしょう」綾乃は嬉しそうに食べている。
「新商品の開発には夏菜さんもメンバーに加わってもらうと良いかもしれませんねえ」俺も頷いて美味しそうに食べた。
「新さん、夏菜ににも胃袋つかまれちゃあダメよ」綾乃ちゃんは釘を刺した。