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星降る夜のセレナーデ 第89話 ヒット曲
吉崎修平監督の映画が公開された。主題歌を歌った真美さんは歌手『高瀬由美香』として注目を集めている。一月ほど経つと『君のそばで微笑んでいたい』はヒットチャートを駆け上がった。オリコンランキングで3位まで上昇。そしてテレビやラジオへ登場するようになった。
出社するとリビングでは、先生がノートパソコンでテレビ放送を見ている。
「由美香ちゃん色んな所へ出てくるようになったなあ……………」他人事のように言っている。
「先生の名前も沢山見るようになってますよ」俺は眉を少し寄せた。
「それに美夜子さんの名前も一緒に出てますから……………」
テレビで放送される時には、作詞・白河美夜子 作曲・白河一樹といつも表示されている。
美夜子さんはコーヒーを出してくれた。
「どうして『優さん』の名前じゃないんですか?」俺は何気なく聞いてみる。
美夜子さんは椅子に座ると、徐に話してくれた。
「私の芸名『七海優』は使えないのよ、事務所の社長が七海優《ナナミユウ》は会社の財産だからって強引に奪ったの」少し寂しそうに言った。
「だから当時作詞した物も権利が無いのよ」少し笑った。
「すみません、変なこと聞いてしまって……………」俺は俯いた。
「もう良いじゃないか、これから権利は守られるし」先生は優しく美夜子さんを見ている。
「そうね、いつまでも過去を引きずってはいられないわよね…………」美夜子さんも優しい顔に戻った。
しかし先生へ曲の依頼は更に増えている。歌手への曲提供も依頼が来るようになった。でも先生は歌手の歌を作る事にあまり興味がなさそうだ。
「先生、歌手には曲を提供しないんですか?」
「うん、私は劇伴作曲家のほうが性に合ってるからね」そう言って笑った。
「そうなんですか……………」俺は何となく勿体無い気がする。
「歌手への作曲は真人くんの方が向いてるかも知れないなあ」先生は俺を見ている。
「俺は絶対無理ですよ」何度も首を横に振った。
「まあ、そのうちに分かるよ」先生はニッコリと微笑んだ。
俺は志音ちゃんが言った『醜いアヒルの子』の話を何となく思い出した。